3話:目が覚めて
「うわぁ・・・・・・。」
久遠の目覚めは最悪だった。
森に落ちた記憶はある。その後に誰かの声を聞いたことも覚えてる。だからといって・・・・。
これはないだろうと久遠はため息をついた。
森に落ちた後誰かが親切にもこのベットまで運んでくれたらしい。つまり助けてくれたということである。
助けてくれたことには感謝するしベットまでも貸してくれたことにもおおいに感謝しようと思う。
でも・・・っと久遠は思った。
「ううん?おや?おやおや。起きましたか?良かった。」
にこりと笑いやがるマッ・・・マッチョ。
きっと看病をしていてくれたのだろう。服の上からはフリルのついたエプロンを着けていた。
そしてきっと疲れていたのだろう。ベットの横で椅子の上で寝ていたのだから。
「・・・・・・・・・・はい。助けていただいたようで。」
どうしても間が空いていしまうのは仕方ないと思う。
だが、お礼を言うのは礼儀だろうと思い目線を右斜め35度にして久遠はお礼を言った。
直視できなかったのだ。できたらすごいと思う。
「いえいえいえいえ。わたくしが助けたのではありません。助けた方は・・・」
「マール!!君はいつもいつも・・・って起きたの?大丈夫?空から落ちてきたときは驚いたよ。」
マッチョ。もといマールと呼ばれた男の言葉を遮って部屋に入ってきた者を見て驚いた。
うっわこんな美形見たことない。さすが異世界!!という勝手な異世界創造。
まず初めに見たマッチョはなかったことにしたいほどのイケメンである。
「こちらの御方。アルト=コルセシムスと名を仰いまして、貴方を助けた方です。」
あまりの美形さに沈黙してしまっていたためマールがイケメンの説明をしてくれた。
マールの口調で分かったことはどうやらそのイケメンは偉い人物らしいということ。
「ええっと、助けていただきありがとうございました。」
偉い人物ならば例え同い年のように見えても敬語は必要だろうと思い、ごそごそとベットから這い出てお礼を言った。
それを見てマールはうんうんっと頷いていたが、アルトは久遠をベットに押し戻した。
「体力が完璧に戻ってないからベットから出ちゃいけないだろう!」
「え。体力って・・・。」
「君は・・・えっと~。」
「久遠です。」
「クォーン!お前3日間眠り続けていたんだよ!」
「いえ、く・お・んですって!!って3日間!無駄に時間を浪費してしまった。」
「?クォンだよな?無駄に浪費って・・・・・空飛ぶ飛行の魔法使って体力を大幅に減少させたんだろう?空飛ぶのもいいけどよく考えてから飛んだほうがいいよ!!」
まったくっというように腕を組むアルトの言葉を頭の中で再度繰り返してみた。
この際、名前のことは置いておこう。
しかし今、魔法と言わなかっただろうか?このご時世に【魔法】??
いや、きっと異世界だからありえるのだろうと思い直してみる。
でも、勘違いをしたままで通すと後々面倒なことになりそうだなっと久遠は思いつつ訂正はあえてしないことにした。
何故って?面倒くさいからである。
実際、本当のことを話すと質問攻めに遭いそうだと思っただというのが事実だが。
「この方は、偉大なる勇者の血縁者のうちもっとも血が濃い御方で・・・。けれど歳は、なんと14歳!!お若くありながら勇者の血縁者というだけで王族の子供のように身を隠し暮らしていらっしゃるのです。」
聞いてもいないのにいきなりマールは話し始めた。
しかもそりゃ言っちゃいけないだろうというような内容までべらべらと・・・。
久遠はアルトを見ると、見てはいけないものを見てしまったような気がした。
アルトは拳をゆっくりと上げ狙いを定めて一発、見舞おうかとしていたからだ。
「へ、へ~。アルトはすごいんですね!ところでマールはアルトの何なの?」
久遠なりに気を使って話題を変えてみることにした。
しかし結局話題を変えたことにはなっていないのだが、アルトの怒りは収まっていたようだ。
「私ですか?私は護衛のように見せかけて、親です。」
最後の言葉に空気が凍った。
否、久遠の心臓が止まった。
待て待て待て。そりゃない。それはない。里親のようなやつか?そうに決まってる!!認めるか!!
との勝手な解釈により久遠はまた、へぇ~と頷いた。
「って、嘘をつくな!!親じゃなくて自称保護者だろう!!しかも実際は使用人だ!!」
頷いた瞬間、全力で否定をされたアルトさん。
ご本人もそれだけは認めたくない・・・・・いや、許せないようで。
「っふ。少しぐらい夢を見てもよろしいではございませんか。私とエリザベスの子と考えても・・・」
「よろしくない!!エリザベスならまだしも、君の子であることが嫌。」
なんともひどい言葉だろうと思ったが久遠もうんうんと首を縦に振った。
ついでに、エリザベスさんという人はきっとアルトが頷けるほどの美人?なのだろうか。
だいたいアルトの好みを知りもしないしマールに奥さんがいたことじたいが不思議だった。
改めて思う。世の中広いと・・・。
「え~っと。もう身体のほうは大丈夫なので・・・・助けていただいたのに何もできませんが・・・・え~と行くところがありますのでお暇させてただきたいのですが。」
『言いたいことはちゃんと頭の中で整理してから言え。』
これは誰の言葉だったろうか?ああ、親友の言葉だ。頭のほうは、しみじみと思い出しながら身体は深々と頭をさげていた。
それを聞いて見たアルトはあっさりと言う。
「無駄だよ。この村からは出れない。『巫女の旅立ち』が終わるまで。それに・・・。」
「アルト様がクホンさんの住民登録をしてしまいましたので、一日で村をでるなんてことはできません。」
アルトの言葉とマールの言葉を頭の中で反響して見る。
「待て待て待て。ちょっと待ってよ!!村からでれないのは分かったけど・・・なんで住民登録!?しかもマール僕はクホンじゃない!!クオンだ!」
クオンは・・・・・・混乱していた。
混乱するはずだ見ず知らずの、いや、見て知っているけど初めて会ったやつを住民登録なんてするだろうか?そもそも『巫女の旅立ち』って何?
普通はしない。普通じゃなくてもしないはず・・・。それともこの世界だけ違うとか?なんて考えて見たが次のマールの言葉に打ち消された。
「アルト様はなんともお優しい心の待ち主なもので、この世界でこんなことをする方はこの方お一人のみでしょう。」
「あーそうですか。」
マールはアルトのことに関してはなんでも知っているし話しますという微妙なオーラを出しながらさぁさあ!っと両手を広げ、何でも聞いてというように瞳を輝かせていた。
「・・・・マール。言うの忘れていたけど、村長さんが呼んでいたよ。なんでも編み方がわからないって。」
マールが広げていた手を無理やり下ろしながらアルトは思い出したように言った。
それを聞いて、急がねばとマールは慌しく部屋を出て行った。
かと思いきや戻ってきて一言。
「アルト様がいくらお綺麗だからといって手をお出ししてはなりませぬぞ!!」
「・・・・・・・・・はあ。」
「さっさと行け!!」
何かの注意事項だろうと久遠は思うことにした。
いくら綺麗だからって普通に手を出すというか、アルトは男だろう?などと真剣に考えている久遠にアルトが声をかけた。
「深く考えるなよ!!まったく、マールはいつも変な心配をするんだ。」
「いや、心配されても仕方がないと思いますよ。」
久遠の言葉にアルトは眉をひそめた。
「そのことはもうどうでもいい。それよりも、どうしてさっきから僕に対しては敬語なの?」
「え。偉い人?だから。」
「偉くなんてないよ。」
「じゃあ、勇者の血縁者だから。」
「・・・・それでも敬語を使う必要はないと思う。実際、ここの住民は誰一人として使ってなんかいないもん。」
「え、そうなの?なんだ、良かったぁ~。実は僕、敬語使い慣れてなくてボロがでたらどうしよう。なんて考えていたんだ。」
久遠が笑顔でそう答えた。親友=幼馴染から『お前・・・全然だめだな。これじゃあ偉いやつの前に立てないぞ!』といわれたほどである。
事実、村の住民はアルトが勇者の血縁者であることを知りもしないため敬語を使わないということを久遠は知る由もなかった。
次のアルトの質問でどう答えようか試行錯誤し、そんなことを考える余裕がなくなったというのが事実だが。
「ところでクォンはどこから来たの?」
久遠目線みたいな。