2話:巫女と勇者と・・・
空には雲ひとつないよく晴れた朝のこと。
村の中心に根を下ろす大樹は風に己の子供らを遊ばせていた。
風というよりも風の精霊によって遊ばれていたのだが。
そんな大樹の下にある祭壇には色とりどりの果物や花々が捧げられていた。
その祭壇に危ない足取りで近寄っていく銀髪の少女が一人。服装はどこか巫女を思わせる作りになっていた。
少女の手には真珠が入った籠があるせいか下に落ちている小石には気づかないようでそのまま足を引っ掛けてこけてしまった。
「か、風よ!!」
手に持っていた籠から真珠がこぼれ落ちるのを見て慌てて風の浮術を使う少女は真珠が割れることなく宙に浮いているのを見て自分が地面にひれ伏さんとしているのを忘れていた。
「カヤ!!」
あと少しというところで何者かの手によりこけずにすんだカヤと呼ばれた少女は抱きかかえられたことなのかそれとも名を呼ばれたことのせいなのか顔を赤らめていた。
そんな愛らしいカヤを見るとたいていの男たちは息をのんだりと逆に顔を赤らめたりするのだが、声の主は違った。
「ったく。危ないなぁ。大丈夫なの?怪我ない?」
どこか呆れの混じった声音で言った。
「ご、ごめんなさい!!あ、アルトありがとう!!」
未だに顔を赤らめているカヤに対してアルトと呼ばれた声の主は金というよりも薄い金の髪をもつ14,5ぐらいの顔だちをしていた。
「はあ~。今日で何回カヤを助けたんだろう?」
「まだ片手ほどしか助けれていません!!」
カヤはアルトの蒼い瞳を見ることができず目線を地面に下ろしながら言い返した。
(アルトのバカバカバカ!そんな綺麗な顔をしていながらいうことは意地悪ばかり!!)
「まだ朝なんだよ?なのに、片手に数えるほど助けられるなんて・・・聖地に行ったらどうするの?僕はいないよ?」
そんなカヤの思いを知ってか知らずか本気で心配し始めるアルトがいた。
聖地のにある【聖なる巨樹】によって10年に一度選ばれる乙女。
その乙女に選ばれる少女たちは王族だったりカヤのように村娘だったりと様々だった。
だた一つ共通するのは、【聖なる声】を持つ者であることだった。
選ばれた娘は、聖地に行くために従者と共に自らの足で行かなくてはならなかった。
「聖地に行ったらこんなことしないもん!それに・・・」
「それになに?」
「(アルトが一緒に行ってくれるなら・・・なんて)言えるわけないじゃない!!」
「?カヤ、声に出してくれないとわからないんだけど。」
「そんなことわかっているわ!でも、今はいいの!!」
「・・・?ならいいけどさ。」
首を傾げながらアルトは不思議そうな顔をした。
カヤが考えてることが少しも分からなかったからだ。
「そんなことよりアルトはどうしてここに来たの?」
「どうしてって・・・。祈りをしにだけど?」
「そう・・。」
カヤは自分の思い込みにまたしても顔を赤らめた。
(もしかしたら私に会いに来たんじゃないかって思うなんて・・・自惚れすぎかしら。)
アルトはこの村の生まれではない。
そのため朝一村の人々がする祈りを朝すべきことをしてから行うためいつもお昼近くになるのだ。
けれど今日は朝一に祈りを捧げに来たらしい。そういう日はたいてい良いことがあったという兆しである。
カヤは思う。
(もしかして今日は何か好いことでもあったのかしら?)と。
「ねぇアルト?」
カヤはそのことを聞こうとしたのだが、アルトは空を見上げてた。
そのせいか、カヤの声が聞こえなかったらしい。
「アルト?アルトってば!!」
どうしても自分に注意を惹かせたくてカヤは服を引っ張った。
しかし、アルトはカヤを見ようともしなかった。
ただ空を見上げているというより睨んでいるだけだった。
「何か来る。」
そう言ってアルトはカヤをその場に残し森の中に走り去って行った。
「ちょっと!!・・・もう、女の子を無視するなんて男の子としてなっていないわよ!!」
自分を無視したままでしかも置き去りにして森に走っていくアルトをみてカヤは頬を膨らませた。
そんなカヤの背中まである髪を風の精霊がなびかせるように遊び始めた。
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アルトは驚いていた。今自分がとっている行動に。
「な、なんで僕森に走っているんだろう?」
(しまった!カヤを置いてきちゃった。きっと怒っているよね?なんか呼んでたみたいだし。)
そんなことを思い出しながらも身体は勝手に進んでいく。
どこに向かっているのかもわからないのに、息は切れるわ足がもつれてこけそうになりながら一心不乱で走った。
きっと、向かった先に何かがあるんだと思うようにして。
走り続けて数分弱。
「もう駄目・・・。」
自分の体力のなさと辺りを見回して見覚えのある場所に着いたのを見てその場に座り込みそうになった。
座り込まなかったのは、上からバサバサと木々の枝をへし折る音と精霊たちが騒ぐ声で何かが起こると思ったからだ。
『くるよ!くるよ!!小さな子がくる!』
『世界の子?』
『世界の子!』
『僕たちを助けに来てくれる!!』
くるくるとアルトの周りを飛び回りながら言葉を紡いでいた。
アルトには精霊が何を言いたいのか分からずにただ自分の周りを飛び回る精霊たちを見るしかなかった。
『あの子をよろしくね?』
『勇者さま』
最後の言葉に驚きながら意味を聞こうとすると花弁を身にまとった花の精霊が口に人差し指を付けた。
若葉を身にまとう木の精霊は人差し指を空へと向ける。
理由を聞こうにも聞けなくなったアルトは木の精霊が指す空を見上げた。
すると・・・。
ドサドサドサ・・・バフ。
枝をへし折り終いには精霊たちがいつの間にかかき集めた藁の上に落ちてきた何かがいた。
「うわわわわ!!なんか落ちてきた!!・・・・人?」
アルトは空から落ちてきた自分と同じくらいの年の子を見つめた。
黒い髪を持つ少年のような少女のような中性的な顔立ちをしており、しかも身につけている服は見たこともないような柄だった。
「お、男だよね??なんで空から??」
疑問ばかりしか頭に思い浮かばず5分くらいその場でボーっとアルトはしていた。
風がアルトの頬をなでたときやっとことで我に返り黒髪の少年をどう運ぼうかと考え、考え抜いた結果。
お姫様だっこで行くことにした。
(・・・僕がこんなことされたら絶対立ち直れないけど、軽そうだし。まあいっか!)
実際黒髪の少年を持ち上げるとアルトは驚かずにはいられなかった。
「か、軽い!!・・・・死んでないよね?」
などと心配するほど軽かったのだ。
事実黒髪の少年、久遠は身長が低ければ体重も少ないという悩みを抱えていた。
「・・・カヤよりも軽いよ。」
今日こけそうになっていたカヤのことを思い出して首をふった。
「だ、駄目だ。声に出していったら殺される!!」
女の子はこの手に関しては怖いということをアルトはある事件により知っていた。
そのことを思い出して身をすくませながら周りに誰もいないことを確認にした。
誰もいないことを確認しッホとしながら村のほうへと歩き出した。
そして村に一人の住人が増えることとなった。
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うん。
なんか「うん」しか言えません。