1話:世界の狭間
パパーーーーーーーン
すぐ近くで聞こえた車らしきクラクション。
その音と同時に見えた自分を包もうとする光。
アレは果たして、見えたと表現していいのだろうか?久遠は心の中で首をかしげた。
(僕・・・起きているのか起きていないのかわかんないんだけど・・)
自分が漂っているように感じるのは気のせいだろうか?
もしかして今感じているのは夢で、実は和樹と喧嘩してのも夢だったのではないだろうか?
(もし、そうなら・・・夢でいてほしい。和樹と喧嘩なんてしたくないし。)
ふいに暖かな風が久遠の頬を撫でた。
『こんにちわ。小さなヒト。』
風と共に聞こえたのは男性か女性か判断しかねない綺麗な声。
声の相手を確認したくても目を覚ますことができなかった。
まるで身体が起きるのを否定しているようで・・・。
『無理に起きようとしてはいけません。今現在、貴方の身体は休息を必要としているのです。』
「(休息を必要って・・。さっきまで走っていたから?そもそもアナタ誰?ここは夢の世界??そうだ、和樹は!?)」
久遠は声を出したくとも口すら動かすことが間々ならず、心の中でテレパシーを送るように質問を投げかけるしかなかった。
そんな久遠に対して声の主は笑ったように感じた。
そう思ったのは空間が揺れたように感じたからである。
『そんなに怖がらないで。恐れないで。貴方の身体が休息を必要とするのはこちらに渡るために多大なエネルギーを消費したから。』
「(こちらに渡るって・・・ここは日本でしょう?そもそもエネルギーって僕はロボットとかじゃないよ!!)」
久遠は慌てた。なぜなら怖がるも恐れるも既に通り越していたのだ。ただ感じるのは何かを失ったような喪失感。
『ここは日本ではありません。また地球でもありません。この空間は世界の狭間つまり多々ある世界を別ける境界線の中心部。』
「(なにそれ・・。アニメや物語じゃあるまいし。)」
久遠は混乱する。異世界にこれから自分が行くのではないかという不信感を抱かずにはいられなかった。
『いいえ。これは現実です。貴方が選ばれたのは多大なエネルギーを持っていたから。エネルギー・・・それは命を繋ぐ生命線のようなものといえばよろしいのでしょうか?』
「(生命線。・・・和樹が一緒じゃだめだったの?)」
久遠は思う。声の主はきっと神様かとか偉大なヒトに違いないと。
それに、和樹がいればこの不安のような孤独感がなくなると思ったのだ。
『残念ながら貴方のお友達は連れてくることができませんでした。貴方の世界がそれを許さなかったから。』
「(世界・・・僕は許されたの?)」
『貴方の世界は貴方にしかできないと判断したからです。貴方のお友達はまだ不十分だと・・・』
「(不十分って・・・・・)」
久遠は眉をひそめながら複雑な思いに囚われていた。
「(僕にしかできないって、何をするの?異世界を救うとか?)」
冗談交じりに久遠は言った。どうせ自分はそんなことできるわけがないと思ったからだ。
だから声の主の返答に困った。
『ええ。そのとおりです。厳密に言えば世界樹の記憶を集めてほしいのです。』
「(・・・・世界樹って何?もしかして僕一人でとか言わないよね?)」
『世界樹とは、その世界に住む生き物たちの記憶や記録を保存するための樹です。その樹の記憶がなんらかの原因であちこちに散らばってしまったのです。もちろん一人ではありません。』
「(え?他の世界にも散らばったの?)」
久遠は自分が一人で世界樹の記憶を集めなくていいと知って少しばかり安心した。
そのためか、拒否するという選択しがなくなっていた。
『それがどういうわけか、W-45区間第243に位置する世界の記憶だけが散らばってしまったようで。』
「(えっと、取りあえずそこの世界で世界樹の記憶を集めればいいんだよね?そしたら帰れるんだよね?)」
『はい。そのとおりです。』
「(それで、アナタは誰?神様??)」
久遠は区間名や座標の位置を言われても分かるはずがないと頬を膨らませながら帰れるという保障をしてもらった。
『神等ではありません。ただそこに存在するものです。』
「(は?どういうこと??)」
『わからずとも大丈夫です。ああ、もうすぐしたらW-45区間第243に位置する世界に到着します。』
「(え?ちょっと何?移動してたの!?しかもわからずとも大丈夫って・・・。すごく気になるんだけど。)」
久遠の言葉を無視して声の主は明るい声で別れを告げる。
『着きました。それでは、頑張ってくださいね?』
「(ちょっと待ってよ!!まだいろいろと聞きたいことがあるんだけど!!ねぇってば~~!!)」
久遠の声は虚しく空間に響き渡っただけで、声の主に届くことはなかった。
そして、自分の身体が何かに包まれる感覚と真っ逆さまに落ちていくような恐怖に囚われた。
(ちょっ・・・死ぬ。死ぬってば!!)
未だに身体を動かすことも目を開けることもできぬまま下へ下へと落ちていく久遠がいた。
ふと、目を開けた。
やっと起きれたことに喜ぶよりも目の前に広がっている光景に息を呑んだ。
周りには建物がほとんどなく、森林が連なっておりチラリと見えたのは町というより村のような集落。
そして、巨大な草原には見たこともない生き物たちが走り回っていたり飛んでいたりしていた。
「僕・・・・・本当に死ぬかも。か、和樹ぃ~たすけて・・・うぅ。」
久遠は情けない声を出しながらそのまま森のほうへと落ちていった。
ドサドサドサ・・・バフ。
「うわわわわ!!なんか落ちてきた!!・・・・人?」
自分と変わらない幼さの残る声を耳にしたまま久遠は気を失った。
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