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真実の牡丹  作者: 相川美葉
第一章、平穏な日常
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邂逅

 朝餉を食べ終え、カタクリから逃げるように境内の掃除をしている。

竹箒で落ち葉を掃いても掃いても、カタクリのあの悲しそうな顔が頭から離れない。

 不意に、誰かの声が聞こえた。

くぐもっていて、はっきり聞こえないが、男性の声だった。

深緑色の着流しを着た、黒髪の四十代ぐらいの男性。 初めて、カタクリ以外の人を見た。

気付かれないように近付くと、言っている内容がはっきり聞こえてくる。

「、、、、月峰神様、、、、お願いします。どうか、子供をお返しください、、、、」

何度も何度も、拝殿に向かってお願いをしている。手には沢山の野菜やお米などを抱えていた。

(あ、、、カタクリの好きな(たちばな)もお供えされてる)

「あの男が気になるのか?」

「!?」

いつの間に背後にいたカタクリの声に驚いて、ヒュっと小さな声をだす。

「あの男には妻がいた。だけど、妻が産気づいたと知った時、逃げたんだ」

「でも、あんなに子供のことを思って神様にお願いしてるよ?」

「今更後悔しても、もう遅い。自分がした(あやま)ちを抱えて、これからも過ごしていくと良い」

カタクリは一体、何を隠しているの?

必死に手を合わせて「お願いします、お願いします」と頭を下げていた男性は、山道を下っていく。

 カタクリは奉納品を厨に持って行った。


 拝殿から渡り廊下を歩き、私の主な住まいの摂社がある。

摂社は畳が敷き詰められた十六畳の広さで、朱色の文机と長持(ながもち)衝立(ついたて)が申し訳程度に置いてある。

文机の隣には、大きな白い箱。白い箱には花札、手鞠、お手玉、絵本、おはじき、人形などの玩具が沢山入っている玩具箱。これらは私が生まれる前からこの(やしろ)にあった物らしい。

「昔はよく遊んでたな〜、、、、」

 特に人形遊びが大好きだった。人形でずっと遊んで、生地が破れたら大泣きしたっけ?

「昔も、の間違いじゃないか?」

「違うよ!今もたまに遊んでるけど、、、、」

カタクリはよく私をからかってくる。

「少し雨が降ってきたな。今日は部屋にいるか、、、、」

 その言葉を待ってましたと言わんばかりに、玩具箱を開けて、玩具を取り出した。

その様子を見ていたカタクリは窓掛け下ろし、行灯に火を灯す。

行灯には何かの紋が掘られている。今まで気にしたことはないが、改めてじっと見るとよく分からない。

「ねぇカタクリ。この紋って何?」

「これは雪月花の紋だな」

「、、、せつげつか?」

「まぁ、四季の、、、春夏秋冬の美しさを表す意匠らしい」

「へぇ〜!」

この紋ひとつにそんな意味が込められていたなんて知らなかった。

それよりも、今は何して遊ぶのか決めないと、、、。

「花札も良いな〜、、、、でも人形遊びも、、、、紙を切って折り紙にして遊ぶのも、、、」

数分唸って考えた結果、花札に決まった。

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