第九話 魔法のお茶会
家に帰るとお母様がそれはもうとても怖い顔で立っていた。
「おかえりなさい、アメリア。お父様と一緒に帰ってくるなんて、お茶会を抜け出してどこへ行っていたのかしらね?」
「は、はいお母様…これには深い訳がありまして……」
それからのことは…うぅ、思い出したくもない。
とりあえず、その日の夕食には私の苦手な人参とピーマンが入っていた。しかもそれだけを避けないように小さく刻んで……
次の日には機嫌がなおっていたから良かったが。
そんなことがあったので、お母様は私に淑女のマナーを身に付けさせるのだと躍起になって今までに比べてお茶会に出席することが多くなった。それに比例してルシアン様とお会いする機会がどんどんと減っていった。
そんなある日、ルシアン様が会えない時は手紙を出してもいいかと聞いてきた。私もこのまま会えなくなるのは寂しいと思って二つ返事で承諾した。そこからみんなが知らない。私たちの秘密のやりとりが始まった。
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Dear R.N.K
雪も溶けて、だんだんと暖かくなって参りましたがいかがお過ごしでしょうか?
私は相変わらずスパルタなお母様とともに社交パーティーに出たり、魔法の上手なお父様と魔法の練習をしたりしています。今度会った時にでもぜひお見せいたしますね……
From A.R
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「お母様!最近はお茶会ばかりで全然自由な時間がありません!たまにはお休みをくれてもいいのでは無いでしょか?」
「………そうね。ではアメリア、今週行われるパーティできちんと社交の基礎が出来ていることを証明してくれたら来週末は全ての予定をキャンセルしましょう。」
「……!いいのですか!」
「えぇ、最近は根を詰めすぎたもの。偶には息抜きしてらっしゃい。」
よくやったアメリア・ルシフェーヌ!お母様にはまだ決まった訳ではないと釘を刺されたけれど、久しぶりの休日を手に入れることが出来たのだ!
早速ルシアン様に報告しようと自室に戻ると机からいつもの便箋を取り出した。早くお返事が欲しいな〜と思いながら封筒に蝋を垂らし家紋の入ったスタンプを捺す。来週はルシアン様にお会い出来るかもしれないと考えると、自然と今日のレッスンへ向かう足取りも軽くなるのだった。
***
色とりどりの花が咲き乱れ、蝶や鳥が舞っている。
その光景はファンタジーの世界そのもので、王の住む場所に相応しいとはこのことである。
「……きれい。」
思わず息を飲んだ。ここは以前ルシアン様とお会いする時に私が迷い込んだ花畑らしいが、今の私には全く別の場所に見えた。
半年以上経っているのだから当たり前だろうという正論ツッコミは置いておいて、何がそうさせているのかは分からないが、私の目には別世界のように綺麗に映ったのだ。
「久しぶりにアメリアが来るんだったら、外でお茶でもすれば?って兄様の提案にお母様も乗っちゃって……その、アメリアが嫌じゃなかったら今日はここでお話ししようか。」
「嫌だなんて!とっても素敵なお庭に連れてきてくださってありがとうございます。」
綺麗はカップに入ったローズティーに美味しそうなサンドウィッチ、スコーン、ペストリーが乗った三段重ねのケーキスタンド。久しぶりにルシアン様とお話し出来るとということもあって、本当に夢のような空間だった。
お茶を飲んでいると、ヒラヒラとどこからともなくちょうちょが飛んで来たのでそれをモチーフにして魔法で水のちょうちょを作る。キラキラと青い光を纏ったちょうちょはクルクルとルシアン様と私の周りを舞っていた。
「きれい…アメリ会えなかった間にまた魔法が上手くなったんだね。」
「あ、ありがとうございます!」
ルシアン様が褒めてくれたのが嬉しくて、顔がぽっと赤くなる。それと同時にちょうちょは桃色に染まって、ハラハラと消えていった。もしかしたら、私の感情に魔法が左右されてるのでは?なんて考えたら余計に恥ずかしくなって、気持ちを切り替えようと目の前にあるローズティーに口をつけた。
その後も色々な魔法を披露した。シャボン玉を飛ばす魔法や、超進化版のオルゴールを奏でる魔法など……魔法研究員であるお父様に教えて貰ううちに水で何かを作ることが得意になった。とは言っても魔道具がない分魔力の消費も激しいし、繊細な分持って数十秒ほどだが、ルシアン様はとても沢山褒めてくださった。
推しのためならなんでも出来るとは今の私にはピッタリな言葉だと思う。お母様のスパルt…愛のある教育の合間を縫ってお父様に魔法を教わって、ルシアン様にこんなにも喜んで貰えて良かったと心から思う。
「アメリアはほんとになんでも出来るんだね!僕なんて、魔法も使えないし、兄様みたいに勉強だって十分な成績が取れてないのに。」
「そんなことはありません!ルシアン様はルシアン様の素晴らしいところがあります。それに魔法だってじきに使えるようになりますよ!!」
「それって、ほんと…?」
……
わ、私は大罪を犯してしまった。これでは妄想癖でもある変な奴では無いか。あろうことかゲームの、いちこいのネタバレをしてしまうなんて。目の前にいるルシアン様の、僕にも魔法使えるようになるの?的なキラキラした視線がいたい。
「……きっと、使えるようになりますよ。そ、そもそも魔法具なしで魔法が使える人の方が少ないですし、魔法なんて学園に入るまでは使えなくても不自由しませんから、ね?」
「それもそうだね、こんなことで悩んでも仕方ない。第一、魔法ならアメリアに見せてもらえばいいんだし。でも、もし、僕も魔法が使えるのなら、アメリアと同じ水魔法がいいな……」
ルシアン様がかわいい。ゲーム通りなら、ルシアン様は風魔法が使えるようになるはずだ。それの発現が学園入学前だったはず。それと彼の過去を合わせると…あれ、思ったよりも早いかもしれない。
ルシアン様が闇堕ち(?)をしたのが遅くても学園入学前で、今は私が12歳でルシアン様は11歳。王族の婚約者発表が12歳の誕生日なので、ルシアン様の婚約者発表まであと一年もないといえる。しかし、ゲームでは婚約者なんて登場していなかった。つまり、この時期には人が信用出来なくなっていたということだ。
「(ルシアン様をどうにかして人間不信から遠ざけねば…本当はゲームのシナリオに干渉してはいけないのだろうけど、大好きな推しをゲームと同じような暗い過去を持つキャラになんてしたくない!)」
「……リア、アメリア、聞いてる?兄様がアメリアに紹介したい人がいるって。」
おーいって目の前で手を振るルシアン様もかわいい…じゃなくて、ディアン殿下がじきじきに紹介したい人って誰なんだろう?私の知ってる人?それとも、まだ出会ってないゲームの登場人物とか?
そんなことを考えていると、ディアン殿下がどこかの令嬢と一緒にお庭に入ってきた。質のいいドレス姿の令嬢はディアン殿下の婚約者候補といったところか。
「アメリア、久しぶりね!でも、つい二週間前のお茶会でもあったし、久しぶりではないのかしら……?」
「ローゼ…ケイト様!?」
「だから、わたくしのことは名前で呼んでと…今、名前で呼んだ?これでようやくあなたの言うお友達になれたようね。」
この方はとても有名な公爵令嬢様ではないか。ケイト・ローゼス様はいちこいの悪役令嬢ちゃんで、私が何故か懐かれてしまった人である。ディアン殿下を置いて私の元へ歩いて来るあたり、最初に会ったときから変わっていないようだ。
「ローゼス嬢もどうやらアメリア嬢のことが余程好きなようだね?」
「ええ、そうてすわ。ですが、わたくしがお慕いしているお方は他にいます。とにかく、わたくしとアメリアは大切なお友達であり、親友?というものですから!」
告白もしてないのに振られた…
ってそんなことは置いておいて、この時期に二人で王宮にいるってことは、ゲーム通りケイト様が婚約者になったってことでいいのかな?
「今日アメリア会いに来たのはあなたに渡したいものがあるからなの。これを、」
渡されたのは裏に王家の家紋の入ったスタンプの捺された封筒だった。
「あなたにはわたくしが直接渡したくて、アメリアてっば同じお茶会に招待されていても挨拶だけして、わたくしから逃げているでしょ!せっかくの親友?になるのを許可してあげているのだから、もっとわたくしとも話すべきだわ!」
許可して貰った覚えなんてないし、ケイト様の方が親友という存在が欲しいだけに見えるけどな……
助けて!ヘルプ!とディアン殿下を見つめると、しょうがないなぁと説明をしてくれた。
「アメリア嬢が今手に持ってるそれは僕たちの婚約パーティの招待状だよ。本当はルシフェーヌ家に送らないといけないのだけど、どうしてもアメリア嬢に会いたいなんてわがままを言う人がいてね。」
「殿下その言い方だとわたくしだけがアメリアに会いに来たみたいではありませんか!よし、僕もアメリア嬢に会いに行こうなんて言っていたのはどこの王太子様ですの?」
あれ、前々から思っていたが、ケイト様のツンツンズバズバ言うものの言い方は人を選ばずに常時発動するスキルか何がなのだろうか?ディアン殿下に物怖じせずに話せるなんて私から見たら尊敬ものである。
なんてことを考えている横で本人たちはあーだこーだ言い合っている。
「兄様もローゼスさんもとても仲がいいのは分かったから、用事か済んだのなら早く部屋に戻りなよ。」
「はいはい。やっぱりルシアンは釣れないなぁ。」
「ディアン殿下、“はい”は一回でよろしいのですよ?アメリアせっかくのお茶会を邪魔してごめんなさいね。婚約披露パーティで会えるのを楽しみにしているわ。」
嵐のような二人だったが、来た時と同じように二人で仲良く帰って行った。正直この二人を見ていると、ゲーム終盤の婚約破棄なんて出来事は起こらないのではないかと思えてくる。
あれだけゲーム中に嫌っていた悪役令嬢、ケイト様を見ても負の感情が湧かないということは、それだけあの方に絆されいるということなのだろうか?
二人の背中を見送っていると、不意にケイト様がこちらを振り返った。何か言い忘れていることでもあったのだろうか?と耳を傾けると……
「アメリア〜。婚約披露パーティはパートナー必須だから絶対に忘れちゃだめよ!アメリアがどんな人を連れて来るかわたくしと~ても楽しみにしているわ。」
最後にこの方は大きな爆弾を落として行った。
やはり悪役令嬢の名は伊達じゃないかもしれない。
皆さんお久しぶりです、夜桜零です( * . .)"
もう4月も後半ですが、いかがお過ごしでしょうか?
さて、今回は出会いの庭園でお茶会という場面でした。
アメリアちゃんが使う水魔法は周りの空気中から水を生み出して、それに魔力を込めて操る!というイメージです。ただし、世界の質量が変わるのはNGなので、そのうち空気中に戻っていきますが、
これが質量保存の法則ですね!(違う)
また書ける時に書いていきたいので、ゆっくりまったり待ってくれたら幸いです( . .)"
それでは次のお話しでお会いしましょう*˙︶˙*)ノ"