第七話 緊急事態です!
今日の私は王宮ではなく、とあるお茶会に来ていた。このお茶会の主催者はケイト・ローゼス公爵様。すなわち、いちこいのゲーム内で例えどんなルートに進んでも必ず登場する悪役令嬢ちゃんその人である。
立食式のお茶会でまだ夜会にも出ることが出来ない子女たちの小さな社交を学ぶ場であり、魔法学園に入学するまでの人脈作りの場である。例外ではなくそこに呼ばれた私はお母様と共に出席していた。
「あなたがアメリアね!」
「は、はい。」
そう言って話しかけて来たのは淡い金髪に緋色の瞳をした少女。見間違えることなどない、ケイト・ローゼスその人である。
「私はケイト、ケイト・ローゼスよ。」
「ローゼス様お声がけ頂きありがとうございます。私の名前を覚えて下さっていること誠に嬉しく思います。」
「私は、公爵令嬢として当然なことをしているまでよ。……それより、あなたディアン殿下とどのような関係なの。」
「ディアン殿下とですか……?」
ド直球すぎてびっくりしたが、どうやらこのお嬢様は第一王子のことが気になるらしい。ひとまずシナリオ通りだと安心するべきか?
正直な話このまま何も起こらなければディアン殿下の婚約者という称号は彼女のものになるが、とうてい素直に話してもいい内容では無い。
「ディアン殿下とはその……な、なんの関係もございません!全くもっての無関係です!!」
「……本当に無関係なの?」
「はい!一度たりともディアン殿下とは喋ったことはございません。」
「そう……なら、こっちに来て!あなたに相談したいことがあるの。」
そう言うとケイト様は私の手を引いて走り出した。公爵令嬢らしからぬ行いだと怒られそうなものだか、本人はちっとも気にしていないようだ。
「ここよ!」と足を止めた先には美しいバラが咲き誇る小さな花園があった。その美しさに思わず息をのむ。いや、この国にたった五つの公爵家となればこの位は普通なのだろうか?ただでさえ侯爵邸にびびっている私には公爵邸も王宮も色々と規格外過ぎるのだ。
「ちょっと待ってなさい。今お茶を入れてあげるわ。それと、この場所は私と庭師しか知らない秘密の場所なの。誰かに喋ったりしたら……とにかく、私たちだけの秘密よ!」
「は、はい!他言無用ですね、もちろん分かっております!(既視感……)」
お嬢様でもお茶位は入れれるのかな?と口にはしなかったもののケイト様を見ていると、綺麗なポットと可愛いカップを載せたトレーを運んで来た。さっきの言葉は、「お茶を(カップに)入れてあげる」ということだったのかと理解した。
***
「それで、相談なんだけど…」
そう話し始めたケイト様はこの国の王太子であるディアン殿下との婚約についてを語っていった。
今の五大公爵家にはケイト様以外には王子と歳の近い令嬢が居ないとこからケイト様が一番の有力候補と言われており、両親や親族などからの期待を寄せられているものの、実際には気持ちの区切りがつけきれなくどこか不甲斐なさを感じているということたった。
「あなたはどう思うの?」
「どうと言われましても……」
前世の記憶がある私からすれば「ヒロインの恋を散々邪魔してた悪役が国の母なんて務まるわけがない」とかキッパリと言ってやりたいものだが、まだ年はばもいかないも行かない少女にそんなことを言うのも酷だろう。
「決めるのは殿下自身だけではないですが、少なくとも、この国を良くしようと尽力される方をお選びにはなると思いますよ。」
「そう……」
ヒロインちゃんだってそうだった。トゥルーエンドのスチルではディアン様と二人でこの国を良くしていこうって誓い合っていた場面だったし、彼自身のセリフでも、幼い頃は婚約者なんて誰でも同じと思っていたとあった。
その考えがヒロインちゃんと会ってから変わったものだとすれば、この国のためになる婚約なら、誰とでも一緒だと思っているだろう。
ケイト様は少し考え込んでからまた口を開いた。
「それにしてもなんだか不思議ね。ルシフェーヌ家のお嬢様ともなる人があのお茶会以降、殿下に一度もお会いしていないだなんて。」
「…ローゼス様それは一体どういうことですか?その言い方ですと私以外の侯爵令嬢は一度は殿下にお会いしていると言うようにも取れますが。」
「あら知らなかったの?品格が劣る家の子以外は少なくとも一度は殿下と顔合わせをしていると聞いたわ。最も今頃は最終候補者何名かに絞られているらしいけれど。」
ケイト様……それは知らなかったの?だけでは、済ませられるような話ではない。
我がルシフェーヌ侯爵家が王宮に呼ばれていないとなれば、私たちの家の家格が低いと言われているようなものではないか。
「そ、そんなのどう考えても見過ごせるような案件じゃない……」
「王家が手違いを起こすなんてありえないと思うけれど、そんなに気になるのなら正式なお伺いを立てて改めて聞いてみたら……」
「ローゼス様本日はお話出来て光栄でした。それでは、お先に失礼いたします。」
ルシフェーヌ侯爵家の評判を落としてはいけないと思い立ったら即行動と意気込んでローゼス邸を後にした。
***
と言って王宮へ来たものの、今日はルシアン様とお約束をしている訳ではなく、完全に迷惑客のようなものである。
「ルシアン様の居そうな場所なら絞れるけど、ディアン殿下は全く検討がつかないな……」
「王宮に迷い込んだ姫様は僕をお探しかな?」
「ディアン殿下!」
「全く、王宮に顔パスで入ってくる令嬢なんて聞いたことがないよ。」
やれやれというような表情でディアン殿下は私の手を取る。私が頭の上にはてなを浮かべていると、軽く手を引いて歩き出した。私がエスコートされているんだと気づいたら時には既に客室らしき部屋の前だった。
「し、失礼いたします。」
「それで……ご要件は、迷い姫様?まさか単身で王宮に入って来てただ会いに来ただけですなんてこと言わないよね?」
「それは、殿下にお願いしたいことがあったからです。」
「……?ルシアンじゃなくて僕に?」
それから私はケイト様に聞いた第一王子の婚約者選びのことや、ルシフェーヌ家がなぜ候補に入っていないのかなどを質問した。ディアン殿下は初めこそ驚いたような反応をしていたが、次第に面白がるように話を聞いていた。
「それで、君は自分も僕の婚約者候補に入れて欲しいという訳だ。……ふっ、ふふふ、ふはははっ…今のをルシアンが聞いたらどう思うか。」
わ、笑った。この王子。人がこんなに悩んでいるのを現在進行形で見ているというのに。私が言えたものでもないが、一体どんな神経をしているのだ。あまりにも失礼である。
ディアン殿下は一通り笑い終えると、とても満足だと言う表情でこちらに向き直ると、また話題を切り出した。
一瞬でもこの王子はどんな表情でも絵になるなぁと感心してしまった自分を責めたい。
「僕としても君の可愛らしいお願いを叶えてあげたいとは思うよ。でも、それは難しいと言えるだろうね。それに、今となっては時期が悪い。そうだろヨハン?」
ディアン殿下が話を振るとさも巻き込むなといった表情のヨハンと愛称で呼ばれた少年が口を開けた。
ゲーム開始時と比べ、顔立ちに幼さが残っているせいか、名前を呼ばれるまで気づかなかったが、この人も攻略対象の一人ヨハネス・カーラー。現宰相である公爵様の息子であり、カーラー家の嫡男。私達よりも一歳年上で次期宰相様になるだろうと言われるほど頭が良いのだとか。
「……はい。殿下の言う通りでございます。婚約者候補を絞ったというのに、また新たな令嬢と顔合わせをしたとなっては大きな問題となります。それに、殿下は一応王太子でいらっしゃいますので一口に婚約と言っても私情で決められるものではありません。」
「一応ではなくれっきとした王太子だ、僕は。でも、ほとんどはヨハンの言っていることであっているよ。」
それからヨハネス様は再び口を閉じてディアン殿下の後ろに控えようとしたのだが、殿下がサッと何かを渡したのが見えた。主人がいい笑顔を向けると、従者は目で何かを訴えかけるようにジトーと見つめ返す。
こんなことを言ってはヨハネス様に怒られてしまうかもしれないが、この二人はとても仲が良くて、見ていて少しだけ面白い主従だとおもう。
ヨハネス様は少し、いや、かなり不服のようだったが、いくら訴えかけてもなかなか折れないディアン殿下にあきらめたのか素直に部屋をあとにした。
「さぁ、ヨハンもいなくなったし、次は僕からも質問させてもらおうかな。」
ヨハネス様に続いて今度は私にいい笑顔を向けるディアン殿下を前に、心の準備としてまだ手の付けられていないティーカップを持ち上げるのだった。
み、皆さんお久しぶりです。夜桜零でございます(_;´꒳`;):_
ずるずると引き伸ばして、もう2月です。時の流れは早いですね。
全ては作者が某離れ離れになった双子の片割れを探しに行く系元素力とか扱えちゃうぜオープンワールドRPGにどハマりしたせいなんですけど……
今回初登場したケイト様ですが、ゲームではあくまでも“悪役”令嬢なのですよ。シナリオの強制力が仕事するのか?どうなのか……?彼女の今後に期待ですね( *´ `)
そして、ヨハンことヨハネス様はアメリアちゃんやディアン殿下よりひとつ先輩です。宰相様の息子ということもあって、よくディアン殿下と一緒に居るようなのでまた登場する機会がありそうですね(`•∀•´)✧
長いあとがきとなってしまいましたが、お付き合い下さりありがとうございます!
それでは次のお話しでお会いしましょう*˙︶˙*)ノ"