第五話 恋愛って?
ルシアン様に「名前でよんで?」とお願いされたお茶会から一週間。私は今日も王宮でルシアン様と一緒に図書室を訪れていた。
自分の持ってきた本を読み終え、ふと顔を上げると目の前には真剣な様子で本を読むルシアン様。心なしかいつもより頬が赤く染まっているように見える。一体その本はどんな内容なのかと興味が湧いてきた。
「殿下はどんな内容の本をお読みになっているのですか?」
「……」
「えぇっと、ルシアン…様?」
名前を呼んでみても反応がない。
それほどまでに面白い本なのかと失礼を承知で横に立っての覗いてみる。タイミングがいいのか、わるいのかちょうど挿絵の入っているページで。金髪碧眼のいかにも王子様らしき人が膝をついて女の子に告白している場面だった。
所謂、恋愛小説。
私も乙女ゲームにはまる前はかなりの数を読んでいたし、私のもとにもいつか白馬に乗った王子様が迎えに来てくれたらいいのにとか、食パンくわえて走ってたらイケメンとぶつからないかなとか、そのイケメンが私のクラスの転校生だったらいいのにとかぼやいていた時期があった。
それら全ては当時一番中の良かった親友にことごとく否定されていたのだけれど。あまりにも正論過ぎて言い返すことすら出来なかったが、少しくらいは夢を見せてくれたっていいと思う。それも今となってはいい思い出だ。
『マリー、僕は誰がなんと言おうとも君だけを愛すことを誓うよ。だから、僕の手を取って。2人で美しい世界の幕開けを目にしよう。』
『殿下、私もこれから先どんな困難が待ち受けていようとも貴方のことだけを愛し、命が尽きるまで支えると誓いますわ。殿下が見せてくださる美しい世界、とても楽しみです。』
将来を誓い合った二人が国のために、邪悪なドラゴンと戦う姿は実に勇敢で、お互いがお互いを庇い合っている姿に、とてもキュンとした。その後の結婚式は、幸せな表情の2人に、こちらまでとても幸せな気持ちになった。
こちらの世界にもこんなに甘くてドキドキする恋愛小説があるなら、今度お父様に頼んで買って貰おうかしら?なんてことを考えながら読んでいるとあっという間に時間は流れて、パタリと本が閉じられた。
「殿下もその様な本をお読みになられるのですね?」
「……えっ!」
「………えっ?」
「いつからいや、なんで見てるの?」
いきなり話しかけたことに驚いたのか、後ろにいたことに驚いたのか、ものすご〜く驚いた顔をしたルシアン様と目が合う。
以外だったから聞いてみただけだったが、あまり触れて欲しくない話題だっただろうか?私も他人には触れて欲しくない趣味の一つや二つあった。
「とても集中して読んでらっしゃったので、私の呼び掛けにも応じられないほどに。だからどのような内容の本か少し気になったのです。……迷惑でしたか?」
「迷惑ではないけど……ちょっと…恥ずかしい、というか…」
「そうでしたよね、配慮が足りずに申し訳ございませんでした……そ、そういえば、この本の王子様って金髪碧眼でディアン王子殿下にそっくりですね!」
ルシアン様が銀髪碧眼だとすれば、ディアン王子は金髪碧眼で王道の王子様像を思い浮かべると当てはまると思う。甘いルックスに紳士的な性格(ゲームを進めるに連れて、本当と性格が現れるのだか)が相まって、推しキャラランキングでは堂々の一位を死守し続けているキャラクターである。
「アメリアは、こういう人が好きなの?」
「?…好きですよ(いちこいの攻略対象として)。でも、私が一番好きな人(推し)は別に(目の前にいて、大切な友達として存在してくれて)いるので……」
「別の好きな人って……?」
「な、内緒ですっ!!」
さすがに推しの前で「貴方のことが好きです!」なんてこと急に発表したら100%引かれるに決まっている。そんなことでこの関係が崩れるなんて絶対に嫌だ。最初はあと一度だけでいいから喋れたらなんて考えていたのに、今ではこの関係がずっと続けばいいなんてちょっと高望みしすぎだろう。
「もうこんな時間に、それではルシアン殿下お先に失礼しますね。」
私の顔が紅くなっているのがバレないうちにこの場を退出しようと思った。
この世界の貴族の婚姻なんて所詮政略結婚だ。前世の日本とは違って恋愛結婚ができる人は三割には満たないとか…跡継ぎの問題上仕方がないことだと思うし、自分も侯爵家の娘である限り避けては通れないと思っている。あの優しいお父様とお母様のことだから変な人とは婚約させないとも思うが。
だから、この世界の、いちこいの攻略対象達には恋愛感情を抱いてはいけない。それはこの世界に転生したと分かって一番に決めた自分ルールである。
図書室を抜けて魔法研究室へ向かう。色々考えていても苦しくなってしまいそうだ。だから、帰ったらお父様に頼んで恋愛小説をいっぱい買って貰おうとか、お母様と本を持ちあって女子会とかしたいなとか、そういえば同い年の女の子達が集まるお茶会が今度あるんだっけとか考えていた。
***
「素晴らしいです、ディアン殿下!!こんな難しい問題までお解き出来るなんて!ルシアン殿下なんて、今日もお友達を招いて図書室にこもってらっしゃいますのに……」
「そんなに褒められることじゃ無いでしょ。それにルシアンは関係ない。あの子は第二王子で僕は第一王子。王位を継ぐのは僕だって決まっているのだから、比べるなんてことすら不要なんだよ。」
「出来の悪い弟を庇った上にご自身は謙遜までされて……本当に素晴らしいことでございます!!」
「……はぁ。」
いつもは通らない道を通ったからだろうか?いつの間にかディアン様の居住区まで来てしまったようだ。要するに道に迷ってしまったと。このままではディアン様にエンカウントしてしまう。それは絶対に避けるべきだと踵を返そうとした時……
「こんな所で立ち聞きですか?アメリア・ルシフェーヌ嬢?」
終わった。私の人生はゲームに突入する前にジ・エンドかもしれない。一生懸命に笑顔を作りながら死地に自ら足を運ぶのであった。
***
恋愛とはどの様なものかと試しに本を読んでみるとこにした。少し読んでみると思いの外面白く、世の女の子達が一番の趣味にしている訳が何となくわかった気がする。本の中ではきらきらとした王子様や、夢ような世界観が広がっていて、それでもどこか感情移入がしやすい様に書かれている主人公。
気がついた頃には物語のクライマックスを迎え、本も読み終わっていた。
「殿下もその様な本をお読みになられるのですね?」
「……えっ!」
「………えっ?」
「いつからいや、なんで見てるの?」
正直、失敗したと思った。
その後、僕がアメリアからの呼び掛けに応じない程には集中していたと聞いて、頬に熱が集まるのを感じる。
「アメリアは、こういう人が好きなの?」
「?…好きですよ。でも、私が一番好きな人は別にいるので……」
つい思わず口にしてしまった言葉に、真摯に答えてくれるアメリア。その目はどこか遠い目をしていて、なぜだか胸がモヤモヤした。
お先に失礼しますと礼をして去って行く後ろ姿を、このモヤモヤは一体何なのか?どう表現すれば良いのか?そもそもどうしてこんな思いを抱いてしまったのか?などと考えながらしばらく眺めていた。
こんにちばんわ夜桜零です(*' ')*, ,)''
今回のテーマは恋愛小説でした〜!
恋という感情を知らないルシアン様が一生懸命恋について知ろうとしていて可愛かったですね♡
また、今回はディアン王子と初エンカウントを果たしたアメリアちゃんでしたが、彼女の心臓は持つのでしょうか…(。-∀-)
ディアン王子はちゃんと弟のことも大切に思っていますし、メイドさんに言った言葉は全部本心です。(言い方キツかったかもですが……)
それでは次のお話で*˙︶˙*)ノ"