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閑話

 

 私、オリバー・ルシエル改め、

 オリバー・ルシフェーヌは先日子爵家の嫡男から侯爵家の嫡男へと養子となった。


 理由は単純明快。家の跡継ぎが居ないからだ。

 古くから続く名門侯爵家のしかも、ルシエル子爵家の本家に当たるルシフェーヌ侯爵家が跡取りの居ないせいで没落。なんてことになったら笑い事では済まされないからというからである。


 ルシフェーヌ侯爵としては血の繋がりのない平民や、地方の下級貴族から養子を貰うなんて考えはなかったらしく、血統の近すぎず且つ、同じ家のもので領地経営にも理解のあるものとしてオリバーに白羽の矢が立ったのだそう。



 ***



 幼い頃から「将来は立派な領主になるんだぞ」と言われ小さいけど平和は子爵領で暮らしてきた。自分も父様のような領主になってこの家を継ぐんだと疑っていなかった。とても幸せで暖かい家族だった。


 しかし、僕が7歳を迎える前にお父様が亡くなった。

 原因は、その年に流行った病だったらしく、僕や母様を含め父様の病に気がついた頃にはこの国の医療技術では治せないほどに進行していた。父様は家族にはその事を隠して無理をしていたのだ。


 それだけを聞くと、とても領民思いの理想の領主ではないか。自分を蔑ろにして最後まで領民が生き延びることができるようにと他領に掛け合って医者を呼び、流行り病の滅殺に努めた。しかし、それは領主としては満点の行動だったかもしれないが、僕たち家族にはとても耐えられる悲しみではなかった。


「……どうして、どうして父様はいなくなってしまったのですか?今度一緒に王都まで遊びに連れて行ってくれると約束したのに…バカ!父様のバカ!!」

「オリバー言葉を慎みなさい。父様は最後まで民のために心を尽くして下さったのですよ。領主の鏡のような行動です。貴方も将来このルシエル領を継ぐ身として固く心に刻みなさい。」


 母様は僕の前でこそ泣かなかったが、僕は知っている。夜中に母様の寝室の前を通ると、静かに泣く声が聴こえるのを。2人で寝ていたベットは1人で寝るのには広すぎると嘆いていることを。僕は知っている。



 それから一年。喪にふくすという名目上で社交を控えていた母様だったが、子爵家と言えども領主がいない家となれば絶好の嫁ぎ先なのか何件もの縁談が来るようになった。


 やがて母様はその中の一人と結ばれ、翌年には子供を授かった。僕が九歳の頃だった。

 再婚相手というのは母様が辛い時に支えてくれていた人らしく。相手も早くに恋人を亡くしており、同じような境遇だったという。お互に大切な故人(パートナー)を最優先にしつつ残りの人生を歩んで行こうと誓ったそう。



 新しい父親に新しい家族。意外にも幸せな家庭だった。自分たちの子供は可愛いとはよく言ったもので、日に日に僕の存在が薄くなっていくのを感じた。



 それでも、僕が優秀な子であれば母様はもっと僕を褒めてくださると必死に勉強した。今までは複雑で苦手だった経済学も、史学も分かればどんどん楽しくなってきて、遊ぶ時間までも本を読んで覚えていった。

 マナーのレッスンだって教師に褒められるほど上達したし、騎士団に混ざって練習し、剣術も上達した。


 しかし、全て無駄だった。


 僕が流暢な挨拶が出来るようになって教師に褒められるよりも、弟が初めて両親のことを呼んだ方が感動されたし、僕が身分を隠して出場した剣術大会で一位を取るよりも、弟の拙い歩行の方が価値があった。


 悔しかったし、第一に悲しかった。メイドたちが僕ではなく弟を領主に据えるのでは?という噂話をしているのを聞いた時、どうしようもない無力感が僕を襲った。


 その噂は嘘か誠か、僕は本家であるルシフェーヌ侯爵家に養子に出されることを聞かされた。



 ***



「オリバー・ルシエルです。侯爵家の恥とならぬよう精進して参ります。これからどうかよろしくお願いします。」


 六つ三対の瞳が僕を見つめる。


「いらっしゃいオリバー君。ここが今日から君の家だ。そう畏まらず楽にするといい。」

「お気遣いありがとうございます、ルシフェーヌ侯爵。」


 ルシフェーヌ侯爵は想像より若く優しい人だった。

 その妻のルシフェーヌ侯爵夫人は凛とした人。

 娘のルシフェーヌ侯爵令嬢はいかにも甘やかされて育ったお嬢様というように見えた。


「えっと、アメリア・ルシフェーヌと申します。改めてよろしくお願いします、オリバー…お兄様。」

「こちらこそよろしくお願いします、アメリア様。無理をしてまで私のことを兄と呼ぶ必要はございませんので、どうぞオリバーとお呼びください。」


 この歳になって新しく親と、歳の近い妹ができるとは予想もしていなかった。今度は失うものこそないが、また同じような生活が始まると思うと嫌気がさした。



 しかし、ルシフェーヌ侯爵は実の娘と分け隔てなく僕を気にかけてくれて、寧ろ懐柔するためではと少し恐ろしくなった。「君のようなしっかりとした子がアメリアの兄になってくれて良かった。あの子を頼む。」とまで言われて、僕は酷く混乱した。


 一方アメリア様はというと、今は今度行われる第一王子殿下の婚約パーティーに参加するためのダンスのレッスンを一緒に受けている。こちらもこちらで、よそ者に対して純粋な瞳で話しかけてくるものだから、ルシフェーヌ家では危機感というものを教わって居ないのかと心配になった。



 ***



 ある日のこと、アメリア様がお義母さまに叱られているのを見かけた。いつものように突飛のない行動でもしたのだろうか?


 僕が仲裁に入ると、何故か泣き出してしまった。咄嗟に落ち着かせようとしたが、ポロポロと大粒の涙が溢れるばかり。お義母さまも頭を冷やすと自室に戻ってしまった。


 過去に母様がしてくれたように抱きしめ、頭を撫でる。分を弁えていない行動だと反省したが、暫くのうちに眠ってしまった。つい過去の自分を思うとどこからか悲しみが込上がってきそうだったが、急いで蓋をする。


 アメリア様を部屋に運び、自分の与えられた部屋に戻ると、弟が描いてくれた絵が目に映る。自分とは違う母様似の顔をして愛されて育つことになるだろう。自分が叶えられなかった父親とたくさんの思い出を作り、ルシエル領を継ぐことだって出来るだろう。そう思うと寂しくなってきた。


「父様、母様。あの頃に戻りたい……」



 そんな気持ちを、父様のように上手なポーカーフェイスで隠していた気持ちを夜に訪ねてきたアメリア様に言い当てられた時は驚いた。


 それと同時に、ようやくルシフェーヌ家の一員になる決意が出来た。守らなければと思ったのだ。寂しそうな顔をしたアメリア様を、家族として、兄として。



「ようやく私の家の子になる決意が出来たみたいだねオリバー君。」

「はい、ルシフェーヌ侯爵。…いえ、お父様。」

「君に父と呼ばれるのは慣れないな。まるでオスカーに言われているみたいだ。」

「父様に?」


 そう言うと、お義父様は遠くを見つめるように目を細めた。まるで昔の事を思い出し、感傷に浸っているようだった。


「あぁ、その目。オスカーによく似ている。ルシエル領で流行り病が広がった時、あいつは自分にも病の兆候があったにもかかわらずここまで馬車を飛ばして来てね。手紙でも出せばいいものの、自ら医者を貸してくれと頼みに来た。帰りも泊まるように進めたが、愛する妻と息子が待っているとすぐに帰ってしまった。あいつはオスカーは私から見ても領主、そして、父親の鏡のようなやつだったよ。」

「父様がそんなことを……」


 幼い頃の何も知らず、バカと言い放ってしまった自分が情けなくなった。その後もお義父様は沢山の思い出を話してくれた。学園での生活や僕が生まれたばかりの頃の記憶まで。聞いていると、愛されていることがひしひしと伝わって来て、少し恥ずかしくなった。



 トントントン


「お父様!早くお兄様を解放してください!すぐだと言ったから譲ってあげたのに、もうすぐ一時間をすぎてしまいます!!」

「おや、アメリア。オリバー君はお父様の息子であるから私がオリバー君をアメリアに譲ってあげてるのではないかな?」

「なっ!でも……お兄様は私のお兄様です!お兄様なら妹のめんどうを見るのが普通です!そうではなくて、お父様はもう子どもにめんどうを見られる歳になってしまわれたのなら話は別ですけど?」


 全く困った娘だと笑うお義父様と早く行きますよ!と手を引くアメリア様。これが僕の新しくて、幸せな家族だ。


「オリバーお兄様、今日はお母様の許可が出たので、お庭でピクニックをします!今日は一日私と遊んでくれますか?」

「もちろんだよ、お兄様ならお転婆な妹のめんどうを見ないといけないらしいからね。」

「あっ、またお兄様が私のことを揶揄った(からかった)!罰として、今日は私の機嫌を損ねないように蝶々よりも、お花よりも丁寧に扱ってください!」

「承知しました、プリンセス。では、僭越ながら、私にエスコートさせていただきますか?アメリア様?」

「やっ、やっぱり、今のななしで!!」



 喜んで、怒って、哀しんで、楽しんで、そうして家族はできていく。過去に囚われず、前を向けばこんなにも素敵な人たちが僕を歓迎し、大切にしてくれる。僕もこの人たちに恥じないような人になりたい。そう強く思った。ルシフェーヌ家を守るために、アメリア様を守るために……



Side  オリバー・ルシフェーヌ


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