第十二話 やくそく
「さぁアメリア、どういうことなのか説明してもらいましょうか?それにメアリー、あなたもアメリアの侍女であるというのならこの子の奇行を止めてくれなくてどうします?」
「すみませんでしたお母様。で、でも、メアリーは何も悪くないんです!私が勝手に連れ出しただけで…」
「いいえ、奥様。私にアメリア様の侍女であるという自覚が足りていなかったがために起きたことでございます。全ての責任に私に…」
侯爵家の令嬢としてはしたないと怒るお母様に、メアリーは何も悪くない、アメリアお嬢様は何も悪くないと庇い合う私達。その堂々巡りで一向に騒ぎが収まらないでいると……
「お義母さま、アメリア様も反省しているようですからその辺にしてあげてはどうですか?お部屋の紅茶も冷めてしまいますよ?」
「オリバーさ……お兄様!」
「ふふっ、アメリア様とても可愛いのですが、無理にお兄様と呼んで頂かなくても良いのですよ?」
そう上品な笑みを浮かべて庇ってくれたのはオリバー様で、事実上私の兄に当たる人物だ。とは言っても前世と今世を含め兄という存在がいなかった身としてはどう接するのが正解か分からず、ビミョーな距離感なのは否定出来ない。
「そうは言ってもねオリバー、アメリアは侯爵家の娘として将来は大きな家に嫁ぐことも考えられるのよ?今のうちからしっかりしていないと、立派な女主人になんてなれないでしょう。」
うぅ、お母様の正論が痛すぎる…でも、今まではゲームの世界だからと気にしていなかったが、もし学園を卒業してもこの世界が続いていくとしたら、私は侯爵令嬢として結婚し、嫁ぐことになるのか……
漠然とした不安が寂しさを産み、目から大粒の涙が零れ落ちた。
よく考えてみると、現代の日本とは全く別の王侯貴族が支配して、魔法が存在するようなゲームの世界に飛ばされて、右も左も分からないまま相談出来る相手すら居ないなんて。そっか…ずっと寂しかったんだ、私は。
「…アメリア様!大丈夫ですか?」
「っ!アメリア、ごめんなさい泣くほどまで叱りつけて」
「お母様これは、ち、違うんです。そうじゃ、なくって、」
床に座り込んでしまったのがダメだった。止めようとしても、蛇口の栓が壊れたみたいに涙が止まらなくなった。お母様は一度頭を冷やしてくると自分の部屋に戻られたので、大きなホールにオリバー様と2人きり。気まずいなんて気持ちも忘れて、寂しさを紛らわせるように身を預けて泣いてしまった。
結局、泣き疲れた私をベッドまで運んでくれたのはオリバー様だそうで、夕食の時に顔を合わせると、アメリア様に元気が戻って良かったと頭を撫でられてしまった。少し気恥しかったが、なんだかとても安心した。
***
トントントン
「アメリアです。少しお話ししたいことがあって、開けて頂けますか?」
「…どうぞ、空いてるから入って来ていいですよ。」
「失礼します。」
私のとそれほど変わらない大きなお部屋に、窓際に置かれた机には勉強の為なのか、趣味の読書をするためなのか大量の本が積んである。そして、備え付けのチェストの上には小さな子どもが描いたかのような似顔絵(?)が何枚か。恐らくルシエル子爵家にいる弟さん達が描いたものだろう。
「あっ、すみませんお見苦しものを。アメリア様がいらっしゃると分かって入れば事前に片付けましたのに。」
「そんな、気にしないでください。えっと、今日はお昼のお礼を言いに来ただけですし。」
「どうぞ」と2人がけのソファに座るように促される。しばらくした後、2人用の紅茶とクッキーが目の前に置かれた。
「そう緊張しないでください。僕が元々食べようと貰ってきたものですし、何も入っていませんよ?」
「いえ、疑ってる訳では……ありがとうございます。いただきます。」
サクサクとしたクッキーは私がよく作ってもらうものよりも甘さが控えめで、何枚でも食べることが出来そうな気がした。紅茶を飲んでから、急に泣いてしまったことの謝罪と、ずっと傍にいてくれたこと、お部屋まで運んでくれたことの感謝を伝える。
オリバー様も初めは驚いていた様子だったが、次第に、安心したという表情に変わっていった。
「アメリア様が急に泣き出してしまうものですからとても心配しましたが、いつも通りの突飛な行動に出られるまでに元気が戻ったなら安心です。」
「それ、私の事を揶揄っているおつもりですか?」
「さぁ、どうでしょうか?」
私がいつも突飛な行動をしているなんて……心当たりがありすぎるかもしれない。これではお母様に奇行と呼ばれても仕方がないかもしれない。
「そういえば、あのチェストの上にある似顔絵(?)は誰が描いたものなんでしょうか?」
「……弟です。と言っても、事実上はもう兄弟関係は無くなってしまいましたけどね。毎年誕生日には絵を描いてくれたんですよ。それが毎年の楽しみで。」
「見ますか?」とオリバー様はチェストの上から小さな額縁に入った絵を数枚持ってきた。それは小さな子どもが描いた絵で、歳を重ねるごとに上手になっていることがわかった。
ふとオリバー様の方をみると、顔に影を落としたように俯いていて、目も心做しか潤んでみえた。
「……寂しいですか?」
「えっ、」
「気のせいだったらすみません、でも、オリバー様がなんだかとても寂しそうに見えたので…」
「……アメリア様には隠し事は出来ないということでしょうかね?全く、もう子供でもないのに家が寂しいなんて幼稚ですね。」
自嘲的に呟いた彼を見て、何を言うでもなく咄嗟に身体が動いた。ここに転生してすぐのホームシックに陥っていた自分が重なったのか、はたまた他の理由かは分からないが。きっと、どうにかしてあげたいという小さな使命感のようなものが芽生えたからだ。
オリバー様が私にしてくれたように優しく頭をよしよしする。
私の場合、寂しくて眠れない夜には私が眠るまでメアリーが傍に居てくれたが、そんな寂しさを埋めてくれる人がいなかったオリバー様はこの一ヶ月と少しの間どんな気持ちで過ごしていたのだろうか?
「ありがとうございます、アメリア。私のことまで気にかけてくれるなんて本当に優しいのですね。」
「これは優しさなんかじゃ無くて、お返しです。今日のお昼にしてくれた分と夕食の前にしてくれたよしよしの分。オリバー様は私にとっても大切な、お、お兄様ですから……」
「!……ならば、兄ならば妹にいつまでもなぐさめられているようでは面目がたちませんね。決めました。私はアメリア様が自慢出来る兄になると誓いましょう。」
そう誓ったオリバー様は先程までとは打って変わって頼もしい顔をしていた。オリバー様が未来へと歩み始めた今、もたもたしていては私だけ過去に取り残されるそんな気さえした。
「オリバー様。昼間は上手に呼べませんでしたが、改めて、お兄様と呼んでもいいでしょうか?それと、私のことは家族なんですから敬称なんて付けずにアメリアと呼んでください!」
「もちろん、私のことはどのように呼んでいただいても舞いません。アメリア…アメ、リア……敬称を取って呼ぶなんて、なんだか慣れませんね。」
オリバー様は何度も言い慣れるように私の名前を反芻する。なんだか聞いているこっちが恥ずかしくなってきた。
「オリバーお兄様、これは私達兄妹の初めてのお約束です。もし、アメリア様なんて呼び方したら、針千本飲ませますからね!!」
「可愛い妹との約束なら反故には出来ませんね。 分かりました。では私もアメリアがオリバー様なんて呼び方をしたら、はりせんぼん?を飲んで貰いますからね。」
「「約束!/約束です。」」
小指を絡めてにこっと笑い合う。『やくそく』そのなんの魔力も言霊もこもっていないたった4文字の言葉だけで私達の絆が深まったと思えるのだから、言葉の力計り知れない。
今日はもうお開きにしましょうとオリバーお兄様が言ったので、明日もまた話したいと伝えると夕方なら空いていると教えてくれた。なんだかとても楽しみだった。
「おやすみなさい、オリバーお兄様。また明日!」
「おやすみ、アメリア。いい夢を。」
夜空には綺麗な三日月が浮かんでいた。
満ちきっていない三日月は私とオリバーお兄様の関係を表しているようで、これから少しづつ満月に近ずいて行くのかと思えば楽しみに感じた。
皆さんこんにちばんは〜!夜桜零です☘️
例年より遅い梅雨入りからの、梅雨明けRTA……今年は低気圧で何人の人が犠牲になったのでしょうか?
今回の話ではオリバーお兄様が沢山出てきてくれました〜!!急に家族と引き離されたら誰でも寂しいですよね…ある意味境遇が同じな兄妹がこれからどのような関係になっていくのかが楽しみです☺️
という訳で、これからも細々と連載を続けて行きたいと思います!いいねも、ブクマもありがとうございます✨️
それでは次のお話しで *˙︶˙*)ノ"




