第十一話 海のペンダント
「殿下、さすがに言い過ぎなんじゃないですか?」
そう言いながら奥の扉から出てきたのは、テオ・アーレス。アーレス伯爵の息子であり、幼いながらも剣の道で頭角を現し初めている少年だ。
時々騎士団の訓練にも混じって実力を磨いているらしく、将来は王族の一番近くで警備する近衛兵のトップにまで上り詰めるだろうと言われている。
「うるさいな、別にこれで良かったんだよ。アメリアが僕の誘いに応じてくれていたのも王族からの招待を無下には出来なかったから、それだけでしょ。」
「はぁ、全く分かってないなぁ。僕の姉さんたちによる女性の扱い方講座殿下も聞きますか?」
不要なお世話だとその提案を軽く一蹴しておく。ちょうどカップの中の紅茶を飲み終えたところでパーティーの参加者から兄様への挨拶が終わりそうだと報告を受けた。
舞踏会では何事も身分の順にがルールなので、必然的にローゼス嬢の次のダンスパートナーは僕になる。兄様のパートナーは僕の婚約者となるはずだが……今回はこの会場でローゼス嬢を除いた最も身分の高い令嬢と踊るそうだ。
「行くよ、テオ。僕は兄様の晴れ舞台に泥を塗るほど落ちぶれた弟じゃないからね。」
そう言ってホールへと歩き出す。どうせこのパーティー後には僕の婚約者を決めるパーティーなるものが開かれるのだから一曲だけ踊ったらまた抜けて来たいものだが、そうはいかないのがめんどくさい社交界といういものだ。
「殿下、そんな好きな人にこっぴどく振られた乙女なんて顔してたら王太子殿下にもその婚約者殿にも笑われますよ?」
「誰が、こっぴどく振られた乙女だって?だいたい僕とアメリアは所詮……命令されたから来てくれていただけなんだよ。今日だって隣に居たやつにキラキラした笑顔を振りまいてたし。」
気が乗らないのを何とか隠そうと早歩きで廊下を進む。聞くところによると、あの男はルシフェーヌ侯爵家の分家の出身らしいじゃないか。家を継げない娘に変わって婿入りした義息子が家を継ぐ…爵位が全ての貴族にとってはよくある話だし、何もおかしなことはない。ましては分家の子なら尚更だ。
今更何も変わらないのに、全部夢だったらいいのになんて思ってしまう。黒いモヤモヤとしたものが頭をよぎった気がした。
「……いつもそうだ。僕は二番にはなれても、一番にはなれない。」
そう吐き捨てた言葉は廊下の隅へと消えていき、煮え切らない思いを抱えたままエスコートに臨む他無かった。
その日から少しづつ中庭の花壇も色褪せて見えた。
***
ディアン殿下の婚約発表パーティーから少し時間が経って、早一ヶ月。あれからルシアン様からの手紙もなければ、彼宛に書いた手紙の返事もない。どうか、ルシアン様がこのお手紙を読んでくれますようにと願ってからメアリーに手渡す。
彼女は私が十歳の時から仕えてくれているメイドさんで、今年で十五歳になるらしい。ちょうど三歳差なので、私からしたらなんでも相談できるお姉ちゃんみたいな存在だ。
「ねぇ、ルシアン様はもう私なんて友達って思って下さらないのかな…?」
「そんなことはありませんお嬢様!お二人はあれほど仲がよろしかったのですから、きっとまた元通りの関係に戻ることは出来ますよ!」
メアリーは本当に優しい子だと思う。こんなに親身になって話を聞いてくれて、幾らかは気持ちが落ち着いた気がした。
「ありがとうメアリー。いつまでも悩んでいたって変わらないのだから、外に遊びにでも行きましょう!そういえば、最近話題のカフェがあるの。ちょうどお茶の時間だし、お母様に見つかる前に。ね?」
「お嬢様!お待ちくださ〜い!」
︎
***
大通りを走り、角を曲がると一軒のお店の前に止まる。
お店のウィンドウにはきれいなブリザーブドフラワーが飾られていて、白を基調とした内装に天井には凝った装飾のされたシャンデリアが輝いている。
店内にはどこかで見かけたことのありそうなご令嬢がお茶の時間を楽しんでいる。カップルのデートスポットとしても有名なのか少し奥の方の席には仲睦まじくケーキを食べているお客さんもいる。
「ティーセットを。」
案内された席に着くとこの店の一番人気のメニューであるティーセットを注文する。ケーキスタンドと日替わりの紅茶がついているもので、お喋りしながら食べるにはピッタリだと巷の令嬢たちの間では有名なのだ。
しばらくするとかわいいカップと三段重ねのケーキスタンドが運ばれてくる。パーラーメイドさんがそそいでくれた紅茶は新しい品種のフルーツティーらしく、オレンジの酸っぱくて甘い香りが広がった。
(いつか飲んだ薔薇の紅茶もちょっと酸っぱかったっけ…?)
きゅうりの入ったサンドウィッチとサクサクとしたスコーン、いちごののったショートケーキとチョコレートの飾りが綺麗なケーキ.....食べ始めると案外すぐで、いつの間にか一時間ほどたっていた。
「普段はこんなに砕けたお茶会なんてしないから、肩の力も抜けていい気分転換になったわ。ありがとうメアリー。」
「いえ、私こそこんなに素敵なお店に連れてきてくださってありがとうございます、お嬢様。」
お店の外に出ると眩しいくらいの青空が広がっていて、メアリーに話したおかげかモヤモヤとした気持ちが無くなった気がした。心做しか花壇のお花たちもいっそう色づいてみえた。
大通りに出ると、王室御用達と名の高いスイーツショップや、流行の最先端のドレスショップ。古くから営業しているジュエリーショップなど……煌びやかなお店が並んでいる。
その中で私の目に止まったのは1軒のアクセサリーショップで、そこだけ大通りの喧騒から切り離されたかのように凛と佇んでいた。
朝焼けを切り取ったような色のピアスに、夜空の星を散りばめたブレスレット、前世で見たあの満開の桜の色の指輪。そして、青く凪いだサンゴ礁の海を閉じ込めたようなペンダント。
どれも綺麗なんて一文字では言い表せないような品ばかりだった。
その中でもひときは目を引くペンダント。ルシアン様の瞳の色にピッタリだった。
「お嬢さん目の付け所がいいですね。そいつはこの店一番の商品で、噂によると好きな人の名前を書いた紙をこのペンダントの中にいれると…両思いになれるらしいんですよ!」
「好きな人と両思い……話半分で聞いておきますね。」
そんな代物があればこの世の中の人達はみ〜んなリア充ばかり……じゃなくて、恋人で溢れているだろう。是非とも前世の私に渡してあげたいものだ。
そんなことを思っていたらメアリーが会計を手早く済ましてくれていたので、私はペンダントを受け取る。近くで観察してみると、ペンダントに反射した太陽の光が、海の水面のようにキラキラと輝いていた。
***
「メアリー、あの噂は本当だと思う?」
「さぁ、どうでしょうか?噂と言うのは嘘か誠か分からないから噂なのであって、私は全てを否定すべきものでは無いと思います。」
「そうね……帰ったら、紙とペンを用意して置いてちょうだい。それと、いいと言うまで私以外は部屋に入らないように。」
馬車の中での会話は誰にも聞かれることなく過ぎていって、アクセサリーショップからも少しづつ遠ざかっていった。
その代わりにお説教の時間が近づいているなんてのはまた別のお話……
皆さんお久しぶりです〜(約二ヶ月) 夜桜です✨
きっと多分絶対におわすれになっていたであろう小説の更新でございます。怒涛の新年度すぎて忙しかったと言い訳をしておきますね(ノ≧ڡ≦)テヘ
今回は前後半でかなり感じの違うお話だったのですが、ついてきてくださいましたか?拗らせルシアン様と素直なアメリアちゃんでした〜。
ここから2人のすれ違いが大きくなっていくわけですが、お互にお互いのことを好き(無自覚)ということを念頭に置いて読み進めて頂けたらと思います!!
暑くもなってきましたので、体調には気おつけて作者の更新を待っていてください♬.*゜
それでは次のお話で*˙︶˙*)ノ"




