求めるものに、手を伸ばして
さっき、誰かの声が聞こえた。
知ってるような、知らないような。
けれど、もう思い出せない。
大事なことだったような気がするけど、それを思い出せば、また苦しくなるような気がする。
それは嫌だ。
だからもうどうでもいい。
このまま投げ出したら、きっと楽になる……。
すると、暗闇の中で、突然小さな光が見えた。
『ここで落ちたらそこで終いだ!!
変わりたきゃ、足掻いて自ら手を伸ばせ!! 』
あぁ……この声は知ってる。
これは、柳くんの声だ。
どうしてここまで聞こえるんだろう。
私はもう諦めたはずなのに。
何故か彼の言葉は私を叱ってくれてる。
ここで終わるなと。
こんな私が、また柳くんを追いかけてもいいの?
近づきたいと、欲を出してもいいの?
それが叶うのなら、ここで諦めたくない。
諦めるわけにはいかない。
また苦しい思いをするかもしれないけれど、それでも、今は柳くんの所へ行きたい。
私は思いきり手を伸ばした。
でも、体が重くて思うように動かない。
そして声も出ない。
全身を暗闇に摑まれているようだった。
手を伸ばせば伸ばすほど、光が遠くに見えてしまう。
それでも私は、必死に足掻いた。
『まだ……いける筈だ……』
手を伸ばせ。 もっと手を伸ばせ。
諦めるな。 絶対に諦めるな。
私は、柳くんがいるあの光の方へ行くんだ。
『お願い、届いて……!』
すると突然、桜の花びらが嵐のように、私の目の前を塞いだ。
何が起こっているのだろう。 全く前が見えない。
私はギュッと目を瞑り、花の嵐がおさまるのをじっと待った。
そっと目を開けると、暗くも寒くもなく、新緑の香りがする。 ここは外だろうか。
そして目の前には、会いたかった朱い瞳をした彼が側にいた。
「自力で出てこれたか。 よくがんばったな」
そう言って、笑顔で私の頭を優しく撫でた。
どうやら私は、暗闇から還ることができた様だ。
彼の笑顔を見て、私は『ただいま』と呟いた。