表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/49

暗闇から、立ち上がるには

 俺は彼女を探して走り回った。




 帰ろうとしたら、彼女の靴箱のそばに、封筒にいれていた赤い石が落ちていた。


 やはり受け取ってくれなかったようだ。


 仕方がない。


 俺は諦めて持ち帰ろうと、赤い石を拾い上げた。



 すると、そこには黒い靄とは違う、殺気に似たものを感じた。



 まさか……。



 俺は咄嗟に走り出した。




 やってしまった。



 早く彼女を見つけなければ、取り返しのつかないことになってしまう。




 俺はあの日から、後悔してばかりだ。



 自分のことばかり考えて、祓う事を怠ったせいだ。

 きっと彼女についていた靄が増幅して、力を持ってしまったんだろう。

 なんて情けない話だ。





 気配を追いながら走りついた中庭には、妙な気配の男が、大きく黒い靄の側に立っていた。



「誰だてめぇ?」


 そいつは俺に気がつくと、ニヤリと笑った。


 こいつが彼女を連れ去ったのだろうか。





「聞くがお前、横についてる黒い靄、視えてるか?」


「あぁ、これか? さっき女を喰ったら大きくなったよ。 すごいよな」




その言葉に俺の心がざわついた。




「悪いことは言わない。 さっさとその靄から離れて彼女を返せ」


「なぜ? 足掻きもしないで、自分の意志でここにいるのに」



「そんなことはない筈だ。 お前がその靄を支配してるから動けないんだろ」


「どうかな。 この子を捕まえたときは、既にどん底の顔をしてたぜ」




 人間に取り憑いた靄を祓う事は、面倒だがさほど難しくはない。

 ケガをさせずに上手く祓えばいいだけだ。



 厄介なのは、取り込まれてしまった人間を、黒い靄から引きずり出すことだ。

 出ることを望まなければ、俺の力だけでは出してやれるとは限らない。




 俺のせいだ。


 あのとき、ちゃんと彼女に向き合っていれば、こんなことにはならなかった。

 彼女だって巻き込まれずに済んだ筈だ。



 後悔がまた俺に付き纏う。



 どうすればいい? 

 どうすれば、彼女を救えるのだろうか。




「そんな腐った顔してるネズミごときに、女は救えねぇよ」




 ニヤニヤと笑う奴の言葉を聞いて、俺はハッと目が覚めた。

 


 

「へぇ……じゃあその鼠ごときにやられんのは、さぞ屈辱だろうな」



 俺は奴を睨みつけ、力を溜める様にグッと手を強く握り締めた。




「聞こえるか!!」




 そして靄に向かって大きな声で叫んだ。



「ここで落ちたらそこで終いだ! 変わりたけりゃ、足掻いて自ら手を伸ばせ!!」



 彼女へ向けてというより、俺への叱咤だ。


  


 俺はあの日から、どんな時だって、誰かを守れる様な人間になると決めた。


 ならば迷う事は何も無いはずだ。


 それが例え、先の見えない道の上だとしても、俺はそう覚悟を決めたのだから。




 思い出せ、己の欲を!




 俺は自分の中び起こし、瞳を朱く染めた。



「何だっその瞳の色は……」



 俺の朱い瞳と威圧感に怯んだ隙に、手に溜めた力を弓へと変え、奴に向かって矢をつがえた。




「俺は祓い屋『(ねずみ)一門(いちもん)次期(じき)(かしら)、柳弦太。 一般人に手を出した罪は重いぞ」



「鼠……一門だと? お前まさか本物のネズミか! こりゃ驚きだ!」


 奴は大声で嘲笑って見せた。


「あぁ、本物だよ。 但し、そこら辺のとは格が違う。 神に仕えた(ヤツ)だけどな」



 そう告げると、俺は奴の首をめがけて、光の矢を放った。



 その矢は、奴の後ろにあった木を勢いよく居抜き、奴のちょうど首元でバチバチと弾く音を立てた。



「はっ…………ははっ!! 大した(かしら)じゃねぇか!! かすり傷すらつけられねぇ、というか矢すら見えねぇ。 所詮ネズミだな!!」



 この矢が見えてないということは、元は取り憑かれただけの人間だな。 

 それが分かって安心した。



「てめぇなんかを射抜く矢なんか、端から持ち合わせてねぇよ。 余波(それ)で十分だ」



「何ぃっ? ーーーーぎゃあぁぁぁぁっ!!」



 矢が刺さった箇所から光熱を放出させ、取り憑いていた邪気をあっという間に焼き祓った。



「なめんじゃねぇぞ」



 男からは邪気が抜け、そのまま気を失い、地面へ倒れ込んだ。


「無事で良かった……」


 俺はその男に危険がないよう、少し離れた場所へと移動させた。



「あとは、あんただけだな」



 そして今度は、彼女を取り込んでいる黒い靄に近づいた。











評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ