縮まらない、距離 2
あれから後悔が付き纏っていた。
やはり彼女には、俺の瞳が朱に視えていた様だ。
それがわかり、俺は思わず声を荒らげて、彼女に酷いことを言ってしまった。
あの日から、彼女に会っても顔が見れなかった。
「弦太ーー。 ひなたちゃん、こっち見てるぞ」
「あぁ、知ってる」
「何だよ。 声かけてあげないの?」
「これ以上関わるのは良くない」
「……まぁお前がそれでいいなら、ね」
一葉は何か気づいたのか、それ以上は聞いてこなか
った。
俺の瞳を、見られたくなかった。
気づかないでいて欲しかった。
『関わるな』と言ったあの時、自分の都合ばかりで、彼女の気持ちまで、汲み取る余裕がなくなっていた。
怒っているだろうか。
怯えているだろうか。
ただ笑った顔が見たいのに。
最後に見た、彼女の悲しそうな顔が、なかなか頭から離れなかった。
もう、胸の奥がぐしゃぐしゃだ。
あの後も彼女を見かけると、黒い靄がついていたり、ついてなかったりする。
やはり引き寄せやすい体質なのだろう。
だが、もう俺が祓う資格はない。
俺がこれ以上近づいたら、前よりももっと大きな靄に、巻き込まる危険がでてしまうかもしれない。
そもそも、近づいていいわけがない。
これで良かったんだ。
なのに……なぜ未だに悩んでしまうのだろう。
『赤が好き』
俺はふと、彼女の言葉を思い出した。
忘れてくれと言ったのに、本当は忘れてほしくない。
矛盾して纏まらない気持ちが、少しずつ俺の足を動かした。
その足で店に行き、赤い色の石を選んでそれにチェーンをつけた。 これなら持ちやすいだろうか。
そこに詫びの手紙を添えて、彼女のロッカーにしまった。
持っていれば、多少の靄からは彼女を守ってやれるはずだ。
だが、受取ってくれる保証はない。
だからこれは、俺のただの自己満足だ。
例え覚えていてくれなくても、記憶の片隅に残ればそれでいい。
彼女が他の場所で、笑っていられるのなら充分だ。