縮まらない、距離
どうやら彼を怒らせてしまったようだ。
そんなつもりではなかったけれど、自分の気持ちを優先してしまって、彼の気持ちまで考えてなかったらしい。
私の好きな色の話や、過去の事を聞いてきたから、私に興味を持ってくれたのかと思ってしまった。
初めて彼が、笑ってくれたのも嬉しかった。
その表情がすごく優しくて、つい踏み込んだ事を言ってしまった。
人と違う部分に触れるには、もっと慎重にならなければいけなかったのに。
それはわかってたはずなのに。
嫌な思いをさせてしまったな……。
沈んだ気持ちで教室に戻ると、凪ちゃんが来てくれた。
「どうしたの?昼休みどっかに行っちゃって。
……なんて顔してるのよ。」
落ち込んでるのがバレてしまった。
やはり凪ちゃんには敵わない。
私は、こらえてた涙が溢れてきた。
「ちょっと! ひな、どうしたの? 」
人がいるのにも関わらず、私はその場で泣いてしまった。
泣いた所で、時間は戻らないのに。
私の胸には、後悔しか残っていなかった。
あれから彼を見つけ、目があっても、すぐ逸らされてしまう。
廊下で出会っても、私の事など見えてないかのように、すれ違うだけ。
横にいる白井くんが、振り向いて申し訳なさそうに手を振ってくれた。
彼にも、気を遣わせてしまっている。
謝りたい。
だけど、目も見てくれないのにどうすればいいのだろう?
どうすれば、また彼に近づけるのだろう……。
◇
あれからもう3日も経っていた。
今日も彼とは相変わらずで、私も殆ど諦めていた。
ここまで来たら、もう忘れるしかないのだろう。
こんな形で終わりたくなかったけれど……。
後悔ばかりだけど、帰ったら、もう忘れる努力をしよう。
私は重い足取りで、下駄箱に向かった。
靴を取ろうと扉を開けると、中に、封筒が置いてあった。なんだろう。
封筒を開けた途端、私の心が揺さぶられた。
『この前はごめん。これを持っていれば大丈夫だから。』
中には、手紙と、赤い石のついたネックレスが入っていた。
名前は書いてないけど、きっと柳くんからだ。
折角忘れる覚悟ができたのに、こんなことされたら忘れられる訳がない。
傷つけたはずなのに、彼はどこまで優しいんだろう。
会いたい。 今すぐに会って話したい。
謝って、ありがとうと伝えて、仲直りして、また一緒に話がしたい。
私は、彼を探しに行こうと決めた。
「君、かわいいねぇ。」
その瞬間、突然後ろから声をかけられた。
驚いて振り向くと、いつの間にか知らない男子が立っていた。
「ねぇ、俺と付き合ってくれない?」
好意……違う。
これは、殺意だ。
私が逃げようとすると、突如現れた黒い靄が、私に纏わりついた。
「勘がいいねぇ。でも、もう遅いよ。」
私は声も出す間もなく、一気に黒い靄に飲み込まれてしまったのだった。