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また、出会えたら 2

 寝てる間に何が起きたのだろう。


 一葉の声で目が覚めると、そこにはなぜか、柊ひなたも一緒に居たのだ。 いつの間にかここで、一葉と喋っていたようだ。 しかもその一葉に迫られて、彼女は真っ赤な顔をしてる。 それを見ると、俺の胸の内が何故かモヤモヤし始めた。



「一葉、お前何か変なこと言ってないよな」

「勿論言ってないよ。 俺は、『聞いた』だけ。 この子がお前の出逢った『"癒やし"の君』ですか?って」

「突然そんな事言われたって『ハイそうです』なんて言うとでも思ってんのか。 いいからもう先に教室に行ってろ!」

「はいはーーい♫ じゃあね、またね」



 そんな件もあって、俺の目覚めは悪かった。


「なんであんたがここにいるんだよ」

「あんたじゃなくて、柊ひなただよ、柳くん」

「あぁ、悪い。 んで、なんで柊さんがこんな所に何の用で来たんだ?」

「実は、昨日のお礼が言いたくて……。 それに、ちゃんと乾いたから返そうと思ったの、これ」


 彼女が手に持っていたのは、昨日渡した清めの塩を入れた巾着だった。 昨日の内に、わざわざ洗って持ってきてくれたのか。


「気を使わせて悪かったな。 でも一度あげたモンだし、別に返さなくていいよ」

「いいの? こんなキレイな袋なのに」

「あぁ、大丈夫だ」



 よく見ると、また小さな黒い靄が、彼女の耳元についていた。 余程憑かれやすい体質なのか。 この状況はあんまり良くはない。 しかし、俺は昨日あんなことやらかしてしまったので、迂闊に近づけない。 俺は重たい頭の中で、考えを巡らせた。



「柊さんは、好きな色って、何かある?」

「えっ、突然何で?」

「いや、ちょっと聞きたくて」

「好きな色か……。 やっぱり『赤』が好きかな」


 彼女の口から、思いもよらない答えが返ってきた。

 ふわふわした印象の彼女の事だから、ピンクや水色等、淡い色が好きだと思いこんでいた。


「……なんで?」 


 俺は興味本位で彼女に尋ねた。


「実はね、中学生のとき、周りの目が怖くて、うつむいてばかりだったんだ。 でも好きな人ができて、告白したかったけど、勇気が出なくて…。 そんな時に、友達が私に、赤色の小さなくまをプレゼントしてくれたの。 初めて友達にプレゼントをもらったから、それがすごく嬉しくて。 おかげで、勇気出して頑張ろうって思えたの。 ほら、これ!」


 そう言って、彼女は制服の胸ポケットから、赤色の小さなくまを取り出した。


「へぇ、かわいいサイズのくまだな」


 彼女の掌に、ちょこんと座る程の小さなサイズだ。 自分が思ってたよりも小さかったが、よく見るとなかなか愛らしい顔をしていた。 俺に嬉しそうに話してくれる彼女も、同じ位に可愛らしかった。


「で、その後はどうなったんだ?」

「残念ながら、『君のこと知らないから』って振られちゃった。 仕方ないよね、自分を知ってもらう努力をちゃんとしなかったんだから」

「そうか……」

 

 俺はそのまま、彼女の話に耳を傾けていた。

 『自分を知ってもらう努力』か。 確かに自分を知ってもらおうとすると、努力もいれば、勇気もいる。

 だが俺は、それをずっと避け続けていた。 自分のことをあまり知られたくなかったし、知ってほしいとも思わなかったからだ。 だから彼女が、そんな風に前向きに、失恋から立ち直ったと聞いた時は、素直にすごいとおもった。 そして、少し羨ましくなった。



「そういえば、昨日初めて会った時の柳くんの瞳も、キレイな色をしていたよね」



 彼女の不意な告白に、一瞬にして俺の心がざわついた。


「茶色とかじゃなくて、もっと鮮明で、すごくキレイな赤色でびっくりしたよ。 実はあの時に起こった事が何なのか、話が聞きたくて柳くんを探してて……」


「これ以上喋るな!」



 俺は話を遮るように彼女の口を塞ぎ、声をあげた。



「もうそれ以上喋るんじゃない。 それでなくても、あんたは憑かれやすい体質なんだ。 これ以上危ない目に遭いたくなけりゃ、昨日の事は忘れろ。 そして、もう二度と俺に近づくな。 いいな」


 そう告げると、彼女は驚きと、悲しみが混ざった様な表情をした。 それを見て胸が痛んだが、彼女にはこれ以上思い出してほしくなかった。 俺は別れの言葉もかけず、彼女を置いてその場を離れた。



 やっと頭がスッキリした。

 きつい言い方をして、申し訳ない気持ちではあったが、黒い靄から彼女を守る方法は、きっとこれが最適だ。 俺はそう自分に言い聞かせた。



 だが、別れ際に見た悲しげな彼女の顔がなかなか忘れられず、心に小さな棘が刺さったような気分だった。




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