また、出会えたら
昨日はなかなか落ち着かなくて、眠れなかった。
帰ろうとしたら、突然黒い靄が見えて、恐怖と共に襲われそうになった。 すると、何処からか現れた、柳弦太くんに助けられ、事なきを得たのだった。
その後、『心配だから』と、彼に家まで送ってもらったが、別れ際に櫛で梳かすように、私は髪を撫でられてしまった。
家族や友達にされるのとは違う。 突然の事で驚いたが、その仕草が余りにも優しく、家に着いてからもドキドキと心臓が昂ぶってままだった。
そして彼を初めて見た瞬間、すごくキレイな朱い瞳をしていたのも覚えていた。
その彼の手に触れた瞬間、私の体の中に、不思議な感覚のモノが勢いよく流れたのも、今でも鮮明に思い出せる。
昨日起こったのは何だったのだろう。
彼は何者なんだろう。
気づけば私は、彼の事ばかり考えていた。
「おはようひな! 何ため息ついてんの?」
「あ……凪ちゃん。 おはよう……」
「あらら、クマなんか作っちゃって、何かあったの? 」
仲いい友達には、いつもと違う顔に見えたのだろう。 早々に見抜かれてしまった。
私は、教室に向かう途中で、昨日眠れなかった理由を話すことにした。
「え!? 初対面の男子にセクハラされたの!?」
「しー! 声が大きい! しかもセクハラじゃないってば!」
さすがに彼が朱い瞳だった事や、私の体に起きたことは伏せたけど、今迄男子と縁のなかったのを知っている彼女には、驚かせる内容だった。
「しかも塩もらったって……怪しすぎじゃない? 」
「だよねやっぱり……」
一応彼に言われた通り、家に入る前に体に塩を振り、残りを盛り塩にして置いてきた。
その効果があったのかはわからないが、あの後は何か起こることはなく、今に至っている。
「そういや前に、似た話聞いたことあるわ。 同じクラブの子が、ひなみたいに塩もらったって。 廊下で突然呼び止められて、塩渡されたって。」
「それ、もしかして!」
「何、そいつなの? セクハラ男」
「だからセクハラじゃないってば!!」
きっと彼だ。
確か同じ学校の制服を着ていた。 しかも同じ学年だって言ってたし、もしかしたら今日も校内で会えるかもしれない。
あの恐怖から私を助けてくれたのだから、きっと悪い人じゃない。
私にしてくれたみたいに、他の人にもついたあの黒い靄を払っていたと聞いて、彼が優しい人だというのもわかった。 ……私だけじゃないってことは少し寂しかったけど。 いやいや、何を言ってるんだ私は。
私は昼休みのチャイムと同時に、教室を飛び出して、彼を探しに行った。
彼に会いたい。 話がしたい。
見つけたら、お礼を言って、それから……。
私の心臓は、髪に触れられた時の様に落ち着かなくなった。
そんなことを考えながら必死に探していたら、いつの間にか校舎裏に着いていた。
私は上がった息を整えながら、周りを見回した。
『ここに来れば、会えるんじゃないか』
なぜかそんな気がしてならなかった。
少し足を踏み入れると、少し拓けた場所を見つけた。
そっと覗いてみると、そこには寝ている柳弦太くんと、その隣には知らない男子が座っていた。
やっぱりいた! 見つかって良かった。
「あれ? 君……」
隣りにいたキレイな顔立ちの男子が私に気づき、話しかけてきた。
「もしかして弦太が言ってた、『"癒やし"の君』かもしれない女の子!? なぁんだ、めちゃくちゃかわいいじゃない! あいつなんでこんな大事なこと言わないんだよ! ねぇねぇ、彼氏とかいるの?」
不思議そうな顔で私を見た途端、突然マシンガントークが始まった。
「あの……あなたは?」
「あ、ごめんごめん。 俺は白井一葉。 柳弦太の幼馴染み」
そう言うと白井くんはニッコリと笑った。
柳くんに、幼馴染みがいたんだ。
でも癒やしの君って、なんのこと?
「いやぁ、いいなぁこんなかわいい子! 俺も逢いたいなぁーー!! んで、君は彼氏とかいるの?」
「いや……いてませんが……」
「マジで!? 弦太が羨ましい〜〜!!」
思わず彼の勢いに負けて、突拍子もない質問に正直に答えてしまった。
この人、誤魔化す暇も与えてくれない……。
すると、私達の声で柳くんが目を覚ました。
「うるせぇぞ、一葉。 ……って、何であんたがここに居るんだよ!」
そして私を見つけた途端に、彼の表情が固まってしまった。
残念ながら、私は歓迎はされてないようだ……。