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第3話 面接を始めます

「それでは、今から面接を始めます」

「は、はい! よろしくお願いします!!」


 冬乃の若干緊張しつつも凛とした声が店内に響いた。


 しかし、こうして対面して冬乃の顔を改めて見てみたわけだが、こいつ本当に可愛いな。絶対にモテる、モテるに違いない。そしてこのアルバイトに応募してきたのも、彼氏と遊ぶお金が必要だからに違いない。


 くそ……リア充爆ぜろってんだ。


「じゃあ冬乃、早速だけど履歴書を見せてくれないか?」

「え……やっぱり寒崎くんが履歴書も見ちゃうの?」

「そりゃ、履歴書を見ないと面接にならないからな。いいから渡してくれ」


 俺の催促に「むーっ」と膨れて不満をあらわにした冬乃だったが、観念したのか両手で履歴書を俺に差し出した。


 俺はそれを受け取り、まずは履歴書に貼られた顔写真に目をやった。そこには、学校で見せる自然体の笑顔とはちょっと違う、少しだけ大人びた表情をした冬乃がいた。しかしこいつ、写真写りまでいいときたか。まあ被写体がいいからな。


「あ、あの、寒崎くん、さん?」


 履歴書に目を落としていた俺は顔を上げる。すると冬乃がおずおずと手を上げていた。というか『寒崎くんさん』ってなんだよ、『さかなクンさん』みたいになってるじゃねえか。恐らくクラスメイトとして接するべきなのか、面接官として接するべきなのか、冬乃なりに迷った結果だとは思うのだが。


「なんだよ冬乃? また『帰るぅー』とか言い出すんじゃないだろうな」

「ち、違う! そうじゃなくて……本当にこの面接のこととか、私が履歴書に書いたこととか、クラスで絶対に言わないって、もう一度約束して」


 冬乃はとても真剣に、俺の目を真っ直ぐ見ながらそう言った。


「言わないよ、約束する。冬乃がアルバイトに応募してきたことも、面接で喋ったことも、もちろん、この履歴書に書かれている内容についてもだ。これは大切な個人情報だから、俺は絶対外に漏らしたりはしないし、面接の後も大切に保管させてもらう。どうだ? 信じてくれるか?」


 俺の言葉に、冬乃は黙ってこくりと頷いた。

 それを確認してから、俺はもう一度履歴書に目を通し始める。まずは住所からだ。えーと、川崎市宮前区……あれ?


「なんだ冬乃、お前この店の近くに住んでたのか? いつも徒歩で登校してたから、俺はてっきり学校の近くに住んでるのかと思ってたよ」

「え!? そ、そうだね、実は最近引っ越してさ、あははは……」


 なるほど、引っ越していたのか。まあ、そこら辺は家庭の事情もあるだろうからあまり突っ込まないほうが良さそうだな。とりあえず冬乃がどうしてここをアルバイト先として選んだのかちょっと分かった。通勤が楽だからだな。


 で、この後。俺はざっと履歴書に目を通したわけだが……ツッコミたいことはあったのだけれど、ここは順を追って話を進めていくとしよう。


「……冬乃、まずは志望動機を聞かせてくれないか?」


 俺の質問を聞いたその瞬間、冬乃の目がキラリと輝いた。そして背筋をピンと正し、両手を太ももに軽く置いたまま、


 冬乃は志望動機を語りだしたのだった。


「はい! 私は以前から社会勉強のためにアルバイトをしたいと考えておりました。そんな折、偶然こちらでアルバイトを募集している旨の張り紙を見つけ、これだ! と思い、今回志望させていただきました。なぜなら私は可愛いものが大好きで、子供の頃から、このような素敵な物で溢れる雑貨屋さんで働くことが夢だったからです!」


 そして冬乃は胸を張り、やり切ったという満足感を顔いっぱいに表現した。


 俺はしばし、あっけにとられてしまった。マジかよ、立派な志望動機じゃないかよ。俺はどうせ『彼氏と遊んだりイチャイチャするのにお金がかかるから、手っ取り早く稼げそうな近場の職場を選びました』くらいの回答が返ってくるものと思っていた。なのに、本当は社会勉強のためだったなんて。俺の心は汚れているぜ。


 でも、ちょっと流暢すぎるし、動機が立派すぎやしないか?

 そして、気になる点がもうひとつ。


「そっか、ありがとう冬乃。それでさ、この履歴書の志望動機の欄の端っこに『炊飯器』って書いてあるんだけど、これ何?」

「ええ!!?」


 さっきまでの凛とした冬乃はどこかに行ってしまい、急に大きな声を出して驚いてみせた。いや、「ええ!?」って言いたいのは俺の方だぞ。


 そして冬乃は動揺しまくり、目を泳がせまくったところで、


「す、炊飯器、欲しいなー! って思いまして……書いちゃったみたいです……」


 そう、志望動機を付け加えたのであった。無意識に書いてしまうくらい炊飯器を欲する女子高生って、なんだよ。


「そ、そっかー、炊飯器っていいよな。お米炊けるし。分かる分かる」


 俺も若干動揺し、意味が分からない同意をしてしまった。全然分かってないしな。


「じゃ、じゃあ冬乃、次に行こうか。この『趣味・特技』の欄に書いてある『体が柔らかい』ってなんだ? 俺に教えてくれないか?」


 俺は炊飯器から話題を逸らすため、次の質問に移った。

 冬乃はその質問を待ってましたとばかりに、曇らせていた顔を一気にぱーっと明るくさせた。そして両手を合わせてニコニコしている。ちょっと怖えーよ。


「それね、柔軟運動! 私ね、すっごく体柔らかいんだー。じゃあ特別に、今から寒崎くんにも見せてあげる。よーく見ててね、ほっ!」


 掛け声とともに椅子から立ち上がった冬乃は、その場で大きく脚を広げた。


「あ、あのー、冬乃? お前何やって……」

「見ててくれれば分かるって」


 少しずつ、ほんの少しずつ。冬乃はどんどん脚を広げていった。


「ちょ、ちょっと待て冬乃! そのままだとお前……!」


 そして最後、180度に開脚した冬乃はペタンとそのまま床にお尻をついてみせた。するとどうなるか、誰でも分かることが起きる。


 スカートがその意味をなさなくなり、太ももは丸出しに、加えて、冬乃の白いパンツが丸見えになった。


「どう、寒崎くん? 私の体、柔らかいでしょ」


 俺は素早く、冬乃の股間から目線を逸した。こいつ、何? こういうの無防備っていうの? それともあれか? 面接で採用してもらうためのサービスなのか? 戦略なのか?

 とりあえずお前は、女子なんだから男子の前で簡単に股を広げるな!


「そうだな、柔らかいみたいだな……すごいすごい」

「えへへー、やっぱり?」


 目を逸し、顔を逸しているから分からないが、恐らく冬乃は先程と同じくやり切った満足そうな顔をしているに違いない。両脚を180度広げてパンツ丸出しにしながら。


 そんな状況でも、俺は面接は続けなければならない。



 第3話 面接を始めます

 終わり

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