第26話 どうしたら恋人同士に
更新遅くなりすぎて大変申し訳ないです! ちょっと色々ありました……。完結までしっかり紡いでいきますので、どうかよろしくお願いします!
全ての授業も終わり、帰りのホールムールも終わったところで、俺は固まった背筋を伸ばしながら放課後のことを考える。放課後に何があるのかと問われれば、もちろんバイトだ。日曜日しか休みのない職場とかブラックとしか言いようがないぜ? 陽子伯母さんももう少し俺のシフトについて考えてくれってんだ。
「あれ? そういえば」
シフトについてふと思い出したことがある。陽子伯母さんが店の前に求人を出していたのも、人員を増やしたのも、それは俺の負担を減らすためのものであった。だから冬乃が新しくアルバイトとして入ったということは、俺のシフトは減らされるのではないだろうか。
これまでだったら嬉しいことこの上ないことである。だって楽できるじゃん。バイトない日は遊べるじゃん。
しかし、今ではそれは少し違った。今は俺が教えながら冬乃と一緒に働くことができているが、こいつも後々は独り立ちをしなければならないのだ。それはつまり、冬乃が一人でシフトに入るということであり、そうすると俺が冬乃と同じ時間を過ごす機会が減るということだ。
それは俺にとって、とても寂しいことだった。
「寒崎くん、一緒に帰ろ」
冬乃が俺の側に寄ってきて、屈託のない笑顔でそう言った。「一緒に帰る」と言われると、この後ドキドキイベントでも待っているのではないのかと勘違いしてしまいそうになるが、要は「一緒にアルバイト行こう」の意である。アルバイトをしていることを学校では秘密にしている冬乃であるから、こう言うしかないのだ。
「寒崎くんったら椿とどこに行くのかしらねー。もしかしてラブホとか?」
と、突然の雪兎カットインである。昼休みの「もしかしてヤッた?」発言といい、こいつは俺と冬乃の関係を勘違いしている節がある。ヤッてないし、そもそも高校生が制服のままでラブホに行ったらお巡りさん呼ばれるだけだろうが。
「たま子! いいかげんにしなさい!」
「あっははは! 冗談だってば椿」
冬乃は恥ずかしそうに顔を赤く染めながら雪兎を一喝する。が、対して迫力がないのは、冬乃のその見た目の可愛さ故であろう。
「はいはい、分かったから安心しなさいな」
「たま子、絶対に分かってないでしょ?」
うん、俺もそう思う。こいつ絶対に分かっていない。
最近少しずつ分かってきたことであるが、雪兎は若干夢見る乙女なところがあり、それが暴走しすぎて想像、もとい妄想を膨らまして勝手に楽しむタイプであると俺は認識するようになった。女子って楽しい生き物だな。いや、雪兎がか。
「それでさ、寒崎くん」
「ん? どうしたんだよあらたまって」
冬乃が誰にも聞かれないよう、俺の耳元に顔を近づかせて囁くように言った。冬乃の吐息が耳にかかる。俺はちょっとしたぞくぞく感と興奮を覚える。男子高校生なんてこんなもんだ、俺は簡単な生き物なんだよ。
「自転車の後ろに乗ってって、いい?」
* * *
さて、学校の教師やらお巡りさんの補導に遭わないことを願いつつ、俺は自転車の荷台に冬乃を乗せて学校を出た。
ここから自転車で飛ばせばアルバイト先まで二十分とかからないが、しかし今日は冬乃を乗せているわけで、いつもより若干時間がかかることが予想される。加えて俺がいつもより疲弊することも予想される。だって冬乃、意外と重いんだもん。これ言ったら冬乃にぶん殴られそうだから絶対に言えないけど。
「ねえ、寒崎くん?」
「なんだよ冬乃」
自転車の荷台に乗り、俺の体に手を回して密着しながら冬乃は言う。さっきから柔らかな感触が背中に当たってどうしようもないんですけど。まるでハッピータイムだ。燃料が補給されてペダルを漕ぐ力がみなぎってくるぜ。
「寒崎くんはシタことあるの?」
「シタって、何が?」
「何ってその……え、エッチなこと」
冬乃の突然の質問に、俺は慌てて急ブレーキをかけそうになってしまった。
「……何言ってんだよ冬乃」
「だって、私だけ処女ってばらされて恥ずかしいじゃん。だったら私も寒崎くんがそういう経験あるのか把握しておきたいし」
いやいや、ばらされたんじゃなくてさ、それってお前が勝手に言っただけだからな? 自爆しただけだからな? そこに俺を巻き込むなっちゅーねん。大体だな、そんな俺の情事を把握しておいてどうすんだよ。
「……俺は童貞だよ」
「ふーん、安心した」
「何に安心してるんだよ。悲しめよ、俺の寂しい高校生ライフを」
「いいじゃん別に、安心したって。じゃあさ、次の質問。キスしたことはある?」
後ろに乗っているから分からないが、今、冬乃は一体どんな表情をしているのだろうか。やたら積極的な質問が続いて、俺はドギマギしてしまう。
「……キスっていうのは恋人同士がするもんだろうが」
「ふーん、そうなんだ。じゃあどうしたら恋人同士になれるのかな」
「そりゃお前、相手に好きだって告白してオーケーしてくれたらだろ?」
「好きだって告白、か」
冬乃は小さくそう呟き、俺の背中に腕をぎゅっと強く回し直した。そして背中に顔を埋め、それからしばしの間黙り込んでしまった。
表情が見えないから、冬乃が今、何を考えているのか俺には分からない。分からないが、俺にはこの沈黙が決して嫌な時間ではなかった。黙ったままでも冬乃の温度を感じることができるし、気持ちも感じることができるような気がする。
なんならこのまま、アルバイト先に行くことなく、二人で逃避行したい気分になっていた。冬乃と一緒にどこか遠いところに行きたくなった。
冬乃とだったらどこへでも、俺はこの自転車を漕げる。
そんな気がする、若干二十分の短い道中だった。
第26話 どうしたら恋人同士に
終わり
【作者より】
更新遅くなりすぎて大変申し訳ないです! ちょっと色々ありました……。完結までしっかり紡いでいきますので、どうかよろしくお願いします!




