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【完結】虐げられて自己肯定感を失った令嬢は、周囲からの愛を受け取れない  作者: 春風由実


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進化を続ける公爵領で


 レオンとオリヴィアが結婚してから、もう幾分の月日が流れた。


 膿も出し切り、仕切り直した公爵領の変化は目まぐるしく。

 そんな公爵領に昨年あたりからまた違う変化が起きている。



 その変化のはじまりは、さらに少し前の王都から。



 レオンはオリヴィアが貴族用の更生施設に入ったことや、たった数日で貴族としての適性を認められたことを公表していた。

 もちろん、公爵領内の話だ。

 初めはこれを真直ぐに信じない者も多くいた。いや、信じない者の方が多かった。


 はじめてオリヴィアが参加したあの夜会に同席した貴族たちならば、そのように疑うこともなかったが。

 彼らはあの夜のことについて固く口を噤み、オリヴィアについても誰も何も言わなかったのだ。


 何も知らない貴族たちの多くは、それでなくとも身内に甘い公爵だと認識し始めていた頃である。

 オリヴィアの施設行きの話など、どうせ公爵が口利きをしたのだろうと考えた。


 その少し前に、聖剣院がダニエルの起こした件を正式に公表していたからだ。

 瞬く間に国中の貴族たちにその内容が広まると、貴族たちは若い公爵を侮り始めた。


 被害者であったとしても、あのように不祥事を起こし取り潰しとなった家の娘。

 これを妻に据えたままにしているなんて。


 そのうえ自領の更生施設を利用して、妻の印象を操作するとは。


 あの公爵は若過ぎて未熟なのではないか。

 王家が指導に入るか、誰か他の貴族と交替させた方が……とまで言う者もあったとか。


 もちろん賢い貴族たちは、それを身内の集い場だけで囁き、外に漏らすことはなかったが。

 レオンはそれが耳に入らずとも、何を言われているか予測出来ていた。



 だからレオンは、妻に関する公表を終えたあとに、公爵夫妻に関する悪い噂を払拭すべくすぐに行動に出た。


 忙しい合間を縫って、妻を連れ、頻繁に王都に出向くようにしたのだ。

 いくつもの晩餐会にも参加したし、妻を連れて王都の街をよく巡り歩いたのである。


 途中から目的は怪しくなって……いや、どうだろう?レオンのことだから、初めからか。

 それはいつしか、たまには羽を伸ばし王都で妻と遊んでいたい、というレオンの本意からの行動に完全に変わっていたが、これに少しの異を唱えたのはルカくらいだった。



 そして公爵夫妻は、稀ではあったが晩餐会後の夜会にも参加するようになる。

 すると貴族たちは、怯え始めた。


 二人としては、せっかく習ったダンスをお披露目しようというだけの意図しかなかったが。

 レオンがいるだけで、今度は誰が断罪されるんだ?と疑念を持ってしまうのだから、貴族たちが怯えてしまったのは無理もない。


 ところがいつもその場で誰かの断罪が始まることはないのだと分かった頃には、気の緩んだ貴族たちはそう怯えることもなく公爵夫妻と付き合うように変わっていた。

 そこにはもう、若い二人を侮る気持ちはない。


 晩餐会での品位ある振舞い、夜会で踊る二人の美しさに魅せられた彼らは、むしろ二人に敬意を持つようになっていた。


 特にその公爵夫人の美しさたるや。


 外見の美しさだけでなく、淑女として完璧な振舞いを見せる公爵夫人に、同じ家庭教師を願おうと話し掛ける貴婦人らも増えていく。

 すると、彼女たちは公爵夫人から驚く話を聞かされた。


 今でも定期的に更生施設に入り、礼儀を学び直している。

 公爵夫人はそう言って、これを公爵も肯定したのだ。


 レオンは身内に甘いと信じてきた貴族たちは、これをまた違う意味に穿った。

 すでに彼らはレオンの妻への溺愛ぶりを知っていたからである。


 もしや今はあの恐ろしいと聞く施設も、もっと優しい場所に変わっているのではないか。

 あの公爵が愛する妻が厳しい施設に通うことを認められるだろうか。

 否、考えられない。

 そうだ、きっと公爵の権限で優しく品位を学べる施設に様変わりさせたのだ。



 そのうち噂は流転する。


 王都にて公爵夫妻の仲睦まじい様子を見掛けた貴婦人たちから始まった話だ。


 更生施設を出た令嬢は、あの公爵夫人のように凛とした美しい佇まいを身に付けて、良き縁談に恵まれるのよ。

 あの方もそうよ。ほら、あの方も──。



 あれほど嫌われた更生施設が、順番待ちをするほどの人気施設に変わっていた。

 すると貴族たちはよく公爵領に足を運ぶようになる。


 これは公爵家の長い歴史上、起きたことのない変化だ。


 

 貴族がよく来るとなれば、産業も変わり始める。

 街には王都さながら貴族御用達の店まで増えていき、ますます公爵領は潤っている次第。


 もちろんレオンは抜け目なく、更生施設に入る貴族たちからも資金を調達していた。

 元々は問題ある貴族を収容し更生させる施設で、マナー教室の場ではないのだから。

 それは授業料を取るだろう。


 そしてますます潤った分は、新たに得た領地を含めた公爵領の発展へと費やす日々で。

 




 そのようにして頻繁に王都に通いながら、領内のあちこちを飛び回り、忙しく働き続けてきた公爵夫妻は、この日はまだ公爵領の邸にいた。


 レオンはソファーに座るオリヴィアの前に跪くと──。


「オリヴィア、頼むから。頼むから、今は大人しく邸で過ごしていてくれないか」


 妻に出掛けぬようにと頭を下げて懇願している。

 こんな情けない公爵の姿を、貴族たちは知る由もない。





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