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【完結】虐げられて自己肯定感を失った令嬢は、周囲からの愛を受け取れない  作者: 春風由実


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驚く行動に出ていた奥様


「わざわざあの二人との面会の機会を作ったわけではない。ただ同じ場所にあっては、会わずには済ませられなかったというだけだ」


「同じ場所って?どういうことだい?」


 歯切れの悪い言い方をするレオンに、ルカは早く分かりやすく話せと先を促す。


「……妻は先に更生施設へと入っていたのだ」


 ここからルカはしばらくの間停止した。

 動かなくなったルカを前に、レオンとオリヴィアは再び顔を合わせているが。


「は?なんだって?」


 再生したルカが聞き返すと、レオンは肩を竦めてもう一度同じ言葉を伝えるのだった。


「妻の方が先に更生施設に入っていて、後からやって来たあやつらが泣き喚いた夕食の席で顔を合わせることになったのだ」


「はぁああ?」


 流石のルカもこれは想像していなかったことだ。

 オリヴィアが貴族用の更生施設に入る意味が分からない。


「そう騒ぐな。菓子でも食べて落ち着くといいぞ」


「いやいやいや。意味が分からないよ。説明してくれるね?」


 驚き過ぎて腰を浮かせていたルカは、咳払いをしたのち、ソファーに深く腰掛けると、レオンの言ったように菓子をひとつ摘まんで口に放り入れた。


「夜会であのように伯爵家の愚かさを提示してしまったであろう?その伯爵家出身であるオリヴィアが、何も罰を受けずに公爵夫人の座に納まってしまっては、周りに示しが付かないのではないか。妻はそう考えたのだ。一度言い出したら聞か……いや、俺も妻の意見に想うところがないわけではないし、施設で改めて正しき貴族とは何か、学んできてはどうだろうかという話になってな」


 まさかダニエルの引継ぎが終わったあとで、こんなにも驚かされることになるとは思わなかったルカだ。

 それも理由が、ダニエルやその妻、娘ではなく、オリヴィアにあるなんて。


「……奥さんは何日入っていたんだい?」


 ここでまた、公爵夫妻は思わせぶりに顔を合わせた。

 オリヴィアは困ったように首を傾げ、レオンは肩を竦めている。


「もしかして奥さんも長くはいられなかったのかい?」


 レオンが沈黙したせいで、ルカに問われたオリヴィアはおずおずと申し訳なさそうに口を開いた。


「お恥ずかしい限りですが、施設では一晩しか過ごすことが出来ませんでした。その後は邸から通うことにいたしまして、あの二人が来た日も同じく、夕食後には帰宅していたのです」


「いや、何も恥ずかしいことはないけれど。ん?邸からと言った?」


「……俺が迎えに行ったのだ」


「は?」


「オリヴィアは何も恥じるところがない。俺が我慢出来ず迎えに行って、仕方なく帰宅しただけだからな。逃げ帰ったのとは違う」


 むすっと機嫌悪そうに言うレオンに、ルカは先までの驚きを忘れ笑っていた。


「あはは、そうだろうねぇ。いやぁ、驚いちゃったよ。レオンが奥さんを施設に入れるなんて、信じられなくてさ」


「俺は最後まで……いや、もういい。とにかくオリヴィアが施設に留まらなかったのは、俺のせいだ」


「そうだろうね。奥さんはレオンの迎えで仕方なく邸に戻ったんだからさ。それで、何日通ったんだ?」


 オリヴィアは困ったようにレオンを見ている。

 レオンは渋々と「それもすぐに辞めさせた」とぶっきらぼうに答えるのだ。


 笑いたければ笑えばいいと、その顔に書いてある。


「レオンは通いでも許せなかったんだ?」


「許す許さないの話ではないが、嫌なものは……違う。そうではない。あのときは施設の職員たちが、俺に泣き付いてきたのだ」


 ルカは目を丸くした。

 また想像していない言葉を浴びせられたからだ。


「職員が?え?何があったの?もしかしてあの二人が……」


「あの二人?あぁ、あやつらならば、十日は泣きながら貴族教育を受けていたが、オリヴィアに構う余裕などなかったはずだぞ。そうではなくてだな」


「皆様には私がご迷惑をお掛けしてしまったのです。公爵夫人などが来ては困らせてしまうということに思い至ることが出来ず、大変軽率な行いをしてしまいました」


 すっかり落ち込んだ声で言ったオリヴィアを励ますように、レオンは声を大きくする。

 実はどこかの誰かと『特別な特訓』をしてきたせいで、レオンは最近、大きな声を出す癖がついていた。


「オリヴィアに悪いところなど何もない。どの職員もオリヴィアを褒めていたではないか。いつでもまた来て欲しいとも言っていたな?」


「ですがご迷惑だからこそ──」


「そうではない。オリヴィアがあまりに完璧で教えることがなく困っているのだと言っていたではないか。むしろ教えて欲しいとまで言われていたのだぞ?」


「それもこれも公爵夫人としての立場があってのことです。皆様には気遣わせてしまって大変申し訳なく。本当にどの先生も素晴らしく見習うところばかりで、私なんかが──」


「オリヴィア!それは後にしよう」


 一時忘れていたが、ルカがいることを思い出したレオンは、妻を止めることにした。

 ここでオリヴィアの頬がほんのりと赤く染まったのは、「後に」と言ったレオンが邸に戻ってからすることを予想したからに違いない。


「あ、はい……そうします。それで、その、お二人とご一緒に終了することになりまして」


 最低でも十日は通ったのかとルカはまた驚いた。

 施設の厳しさは有名で、更生のために入った貴族たちすら早く出せと泣き喚くことがある。


「奥さんは何日いる気だったんだい?」


「通常は最短でも三か月はいるものだと聞きましたので、最低でもそれくらいはと思っておりました」


「……レオン、止められて本当に良かったねぇ」


 ルカはもうにやにやと笑いながら言っていた。





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