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【完結】虐げられて自己肯定感を失った令嬢は、周囲からの愛を受け取れない  作者: 春風由実


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妻を上手に甘やかせない旦那様


 後妻としてやって来たときから、女は明らかにオリヴィアを敵視していた。

 娘をダニエルの子だと騙した女だ。

 伯爵家の女主人となり好き放題したいという浅はかな欲を持って、ダニエルの後妻の座に納まったことは間違いない。


 そこに前妻との娘が居座っていられては、大変面白くないというわけである。

 しかもその娘は正統な貴族で、元々平民である女が望んでいたものを生まれながらに持っていたのだ。


 貴族らしい華やかな暮らしに女は幼い頃から憧れを持っていたと言う。

 それならそれで、オリヴィアに教えを乞えば良かったというのに。


 女はオリヴィアの貴族らしい振舞いのすべてを、気色が悪いの一言で一蹴した。

 自身の娘や、今まで市井で見てきた子どもたちとの違いがそう想わせたとしても、女はこれが貴族だと知る機会をここで失ったのだ。


 ダニエルが娘を厭うているとすぐに気付いた女は、あの娘を家から早々に排除するようダニエルにいつも囁いていたそうである。

 その後、王都を好んだ母娘は、滅多に伯爵領の邸には戻って来なくなったが。

 それでもたまに戻ってきては、忘れずにオリヴィアを罵倒してから去っていった。



 王都で知った貴族たちとあなたはまったく違っている。

 皆はもっと美しく立派なお貴族様だった。

 あなたのように気味の悪い娘は一人もいない。

 あなたの存在は伯爵家の恥だ。



 後で聞けば、何を知ったように語っているのか、という話だが。

 当時のオリヴィアは王都を知らず、見知った貴族も少なかった。


 だからオリヴィアの心に響いてしまったのだ。



 伯爵家を継がなくていいと言われたことも。

 実の父親(当時は信じていた)に顔を見せるなと殴られていたことも。

 物置小屋に隠れて過ごせと言われたことも。

 婚約者にも会いたいと乞われないことも(オリヴィアには隠されていた)。

 婚約者が共に出掛けることを拒んでいることも(こちらも同様)。


 すべては私が恥ずかしい存在だから。



 使用人たちからも大事にされなくなっていたことが、オリヴィアのこの考えに拍車を掛けた。

 伯爵位を継げぬ恥ずかしい私だから粗末に扱われている、と捉えたのだ。


 実は最後まで伯爵家にはオリヴィアを想う使用人たちが残っていた。

 けれども彼らはオリヴィアの母が亡くなった当時から一枚岩では決してなく、オリヴィアの母、そしてオリヴィアの祖母へ忠心を置くものたちが両方存在していたために、オリヴィアを救おうと考える方向性がそれぞれに異なっていたのだ。

 たとえば一部には公爵家との婚約を解消して、オリヴィアにこそ伯爵になって欲しいと願う者たちがいて。彼らはダニエルがレオンとオリヴィアを会わせぬように命じた時には大変協力的に動いたが、そうするとまた一部の使用人たちから彼らは裏切り者というレッテルを貼られたのである。といった具合に。


 しかもダニエルたちは古くからある者らを厭い、目立ってオリヴィアを擁護する者たちから解雇していくと、新しく浅慮で技術のない使用人を多く雇って、彼らの仕事を増やしていく。


 このような理由から、全員で協力出来なかった使用人らは、各々がこそこそと動くことになり、オリヴィアにその想いが伝わることもなかった。


 これを聞かされたオリヴィアが素直に驚いていたくらいなので、彼らは何もしなかったに等しいと言えるだろう。

 どの者も自ら罰を受けさせてくれと願うくらいには猛省しているようで、それで今は、彼らの多くが公爵領に存在していた。




 さて、この後妻について。

 レオンは今でも深く恨んでいることがある。


 それはオリヴィアの容姿について、散々悪く言っていた点だ。


「あの女たちの目はどうなっている?」


 そのように呟きながら、レオンが忌々しいと顔を歪めたのは、聖剣院から出てきた彼女たちの調査報告書を受け取ったときだ。

 オリヴィアからすべてを聞いた気になっていたレオンは、妻が彼女たちに言われた内容から丁寧に棘を取り、優しい表現に変えてレオンに伝えていたことを知ったのである。


 はじまりはやはりダニエルが後妻を連れて伯爵邸に戻った日から。

 後妻が初めて見たオリヴィアにひととき見惚れていたことは、複数の使用人らが証言している。

 しかし直後には、酷い形相でオリヴィアを睨み付けていたらしい。


 その頃のオリヴィアは、伯爵家の後継となるか曖昧なところにあったとしても、伯爵令嬢として正しく使用人たちに世話を焼かれていたのだ。


 つまりは、美しかった。


 その美しさを、後妻は恐れたのか。はたまた嫉妬をしていたのか。


 後妻はオリヴィアを見れば必ずと言っていいほど、その容姿を貶した。

 そして自分や娘がいかに美しいかを語るのである。


 オリヴィアが今でも『醜い私は人一倍努力をせねば』という考えに支配されるきらいがあるのは、確実にその影響であろう。


 レオンはもう何度オリヴィアに美しいと伝えたか分からない。

 侍女長たちも同じように何度も言った。


 それでもオリヴィアは、身内だから彼らはそう言うのであって、客観的な意見ではない、と信じており。

 いくら言っても、まだ醜い、足りない、と思っている。

 


 貴族を騙し、傷付けた平民として、もっと重く裁いてやればよかったのだ。

 何なら聖剣院を通さずともこの手で──。



 今でもレオンはそんな物騒な考えを持っているが、本意ではなく彼女たちの罪が軽くなるよう動いたのは、妻のためだった。

 あの様子では、もうあの女がオリヴィアに何かしようと考えることもないだろう。

 だからレオンは、本意を抑え、これからも罪人である彼女たちを管理していく。




 ルカもまた、謙遜し過ぎるオリヴィアの発言から、あの二人のことを思い出していたのだろう。

 またひとつ菓子を頬張ったあとに、紅茶を味わい終えると、ルカは優雅に問い掛けた。


「そういえば、先に送ったあの二人はどうしている?」




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