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【完結】虐げられて自己肯定感を失った令嬢は、周囲からの愛を受け取れない  作者: 春風由実


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かつての伯爵家で起きた騒動


 同じとき、当主の婚約者を亡くした伯爵家にて、大きな問題が生じていた。

 オリヴィアの母のお腹には、すでにオリヴィアがいたのだ


 貴族令嬢が婚姻前に妊娠することは、ご法度である。

 そのうえオリヴィアの母は当時爵位を得てからまだ日が浅く、貴族として見本となるような人間性を領内外に示さねばならない時期だった。


 とはいえ少し出産が早まったくらいでは、それを聖剣院に咎められることはまずないことで。

 結婚式まで残り僅かとなった時点で発覚した妊娠に、伯爵家の多くの者は喜び、子の誕生を待ち望んでいた。

 ただ一人、これを知らされていない者もあったが。


 そんな折だ。

 突然に、婚約者が亡くなったという連絡が入ったのは。


 喜びから一転。

 当主の慢心と油断が招いた事態に、伯爵家は大きく揺らぐことになる。



 オリヴィアの記憶にはない祖母は、古き正しき貴族と言える人だった。

 元々オリヴィアの母とは折り合いが悪かったのだという証言は、伯爵家の使用人たちからいくらも出ている。


 婚約者を失って気が動転していたオリヴィアの母は、ついに母親である先代夫人に隠していた妊娠を知られてしまった。

 そこで祖母はこれまで溜めてきた鬱憤を晴らすかの如く、母と、そして亡き人を罵り始めたのだ。

 この祖母は元からオリヴィアの両親の結婚には反対の意志を示していた。


 自分が薦めた相手を幾人も拒絶してきた娘が選び連れて来たのは、格下の子爵家の次男。

 そのうえ、弟の素行まで怪しいとなれば。

 

 伯爵家には相応しくない相手だと祖母は何度も夫と娘に説いてきたが、娘は意に介さず、娘に甘い夫もまた夫人の意見を軽々と無下にした。

 それにこの夫、ダニエルの次兄の優秀さと温厚な性格をすでに気に入っていたのだ。


 伯爵家の仕事を学ぶためにと、ダニエルの次兄がよく邸に宿泊するようになってからは、疎外感を覚えていたのか。祖母は一人部屋に籠りがちだったと言う。


 オリヴィアの祖父が亡くなったあとも、それは変わらず。

 いよいよ権力が新しい伯爵夫妻に移り、祖母はもう何を言っても無駄だと大人しくしていたのだろう。


 それで二人もどうしようもなく気が大きくなっていたのかもしれない。

 祖父の喪が明け、まもなく結婚という運びになると、二人は時を待てなかった。  

 ある意味で次兄もまた、ダニエルと似た貴族としては失格と言える甘さをその身に抱えていたのだろうか。



 娘の妊娠を知った祖母は、ここぞとばかりにオリヴィアの母を罵った。

 その叱責は生まれたときから、このときまでの、オリヴィアの母のすべての行いに及んでいく。

 それはオリヴィアの母の人生の全否定、つまり存在そのものを否定することだった。


 ただでさえ精神的に不安定になりやすい妊娠中だったからだろうか。

 オリヴィアの母がこの頃には様子がおかしいように見受けられた、と証言した使用人は複数名。



 祖母はこの頃、オリヴィアを極秘で産むよう主張している。

 つまり、オリヴィアをこの世にない者として扱えと言ったのだ。

 そして別の誰かと結婚し、改めて後継を産むように伝えていたのである。


 愛した人の血が流れぬ子に継がせるくらいなら伯爵家など……。

 と思ったかどうかは定かではないが。


 オリヴィアの母が結婚への決意を固めたのは、亡くした婚約者の葬式でダニエルに会ったあとのことだった。

 ダニエルの異常に怯えた態度から、彼が何をしたか、見極めてしまったのだろう。


 彼の願いを叶えよう。

 そして復讐しよう。

 そのために伯爵家が終わってもいい。


 と思っていたかどうかも、やはり定かではないが。



 婚約者を亡くしたあとに、婚約相手を兄弟へと据え変えることは、貴族社会ではままあることだ。

 もちろん祖母はこの結婚に大反対したが、オリヴィアの母は伯爵としての権限を用いこの結婚を強行している。


 それも喪に服す期間も取らず、それどころか元々の予定通りに結婚式を行った。


 こうしてダニエルは無事にオリヴィアの父へと収まり、この娘としてオリヴィアが生まれたというわけである。



 当然ながら、退屈していた貴族たちはこれを噂の的にした。

 出産時期が早過ぎたこともあってか、オリヴィアの父親を疑う声は多く。

 そのうち妙な噂も出回るようになった。

 本当は最初からダニエルと良き仲で、次兄が邪魔だったのではないか。

 好きな相手と結婚出来ないことにいじけていたから、ダニエルはあのように遊び歩いていたのではないか。


 ところがその噂は、ダニエルの素行が結婚後も変わらなかったことで、すぐに立ち消えた。

 代わりにこれは偽装結婚ではないかと疑う声の方が強まっていく。



 そんな噂話がある日一斉に静まったのは。

 オリヴィアの祖母の死のあと、オリヴィアの婚約が発表されたからだ。


 公爵家が出て来たことで、貴族たちはこの件に口を固く閉ざした。


 どこまで考えオリヴィアの母が娘の婚約を決めていたか、それは誰にも分からない。

 レオンの両親が何を想い婚約を受け入れることに決めたのか、これも不明だ。


 だが今のレオンは確信する。

 すべて知ったうえで、両親はオリヴィアを守るためにと婚約を受け入れたのであろうと。


 特にレオンの母は、思い返せば過剰と言えるほどにオリヴィアを気にしていた。

 オリヴィアの母が亡くなったあとには、頻繁に伯爵家を訪ね、直接的な世話も行っているくらいだ。


 そのままオリヴィアを公爵家で引き取っていたら、ダニエルはもっと早く捕らえられて裁きを受けていたに違いない。


 いや、その予定だったのだ。

 レオンは間違いなくそうだと信じている。


 その算段は出来ていたのに、死後にその情報が自分の手元にやって来なかった理由は明白。

 相手が息子の婚約者であるがゆえに、二人は極秘に動いていたのだ。

 聖剣院にもまだ何も伝わっていなかったのは、オリヴィアを引き取って、伯爵家と縁を切らせてからと思っていたに違いない。

 オリヴィアをどこかの家の養女にしてから、結婚させようとしていたのではないか。


 誰にとっても、レオンの両親がそれからすぐに亡くなったことは誤算だったのである。




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