早く妻を甘やかしたい旦那様
血の気が完全に失せたとき、人は本当に真っ白になるものなのだな。
としばし静観してきたレオンは思う。
その白さは、オリヴィアに通じるものがあるも。
オリヴィアの肌にある透明感が微塵も感じられないのは、その生き様が肌にも表れているからだろうか。
ダニエルとオリヴィアは、確かに似ていた。
前伯爵を知っている者も多いこの場では、オリヴィアの整った顔立ちがダニエルから引き継いだものであろうとまだ信じて疑わない者も多いのではないか。
だがルカが含みある言葉を何度か繰り返していたことで、その父娘関係を疑っている者もすでに多くいるに違いない。
それを当事者であるこの男は、すべて聞き流した。
似ているところのないマリアのことは色々と言っていたが、オリヴィアに関して何も語らなかったのも、本当に何の想いも寄せて来なかったということを表しているのではないか。
心苦しくなってオリヴィアを見れば、すぐに目が合い、微笑まれて、癒されるのはいつもレオンだ。
オリヴィアの心の内は読めず。
今のレオンに分かることは、妻がその手をしっかりと握り返してくれている、ということだけ。
もう早く邸に戻りたい……。
甘えたことを考えながらレオンが前を向けば、あまりに多い罪状を告げられた達成感で、晴れ晴れとした顔のルカと目が合った。
それでつい特に意味もなく顔を顰めたレオンは、ついでに嫌味まで言ってしまう。
「まだ足りていないぞ。我が公爵家への侮辱罪を忘れている」
ルカは笑いながら首を振った。
「あれ?それも申請していた?」
「しているはずだが。まぁ、いい。担当官に確認するついでに、今日の無礼を追加して改めて提出しておく」
「そうだと思って、実は承認を保留にしていたんだよ」
「それならば、知らぬような顔をして聞いてくるな」
「まぁまぁ。まだ承認していなくてよかっただろう?」
「それならそれで、追加の申請を行うだけだぞ」
「それだと僕たちが面倒なんだよ。出来るだけ書類はひとつにまとめてくれないとね」
ここで周りを見渡したのだから、ルカはこれを他の貴族たちに伝えたかったのだろう。
一人、青褪めて目を逸らした貴族があったから、彼はきっと、一つにまとめられる書類をいくつにも分けて提出してきたに違いない。
そういうことで、仕事を多くしている体を保つ貴族がいる、ということはレオンも聞いたことがあった。
この男がそうなのだろう。
「俺を使ってくれるな」
「まぁまぁ。それにここでそう大っぴらに出来る話でもないだろう。その辺は後でじっくりとね」
罪状が二つ以上ある場合には、一つの罪状を告げるだけで聖剣院では罪人として連行することが可能だった。
捕らえた後に追加の罪状をいくら告げても良い規則となっているのだ。
だから別に、ルカはここでダニエルの罪状をいくつも告げる必要はなかったのだが。
わざわざ時間を取って長々と語った意味。
すでに、この場の貴族たちはよく分かっていて、黙って聞いていたのである。
「何故……?」
呟き声に、ルカとレオンは言葉を止めて同時にダニエルを見据えた。




