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【完結】虐げられて自己肯定感を失った令嬢は、周囲からの愛を受け取れない  作者: 春風由実


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歩んできた破滅の道


 ダニエルはとうとう親としての義務を放棄して、オリヴィアを虐待していた事実を己で認めてしまった。

 一度認めてしまったら、あとの尋問でどうなるか。

 そこに考えも及ばないのだろう。


 この通り機転のきかない男が、常に幸運を受け取れていたとしたら、それは他者から与えられたものだったに違いない。



 怒りを込めてオリヴィアの父だった男を酷く冷たい視線で睨みながら、レオンは男を憐れにも思った。


 ダニエルに幸福を与え続けていた者。

 レオンにはその復讐心を責める気はないし、気持ちが分かると同情する気もないが。

 そこにオリヴィアを巻き込んだことだけは、どうしても許せないレオンである。


 だからと言って、ダニエルを許してやる気などさらさらないし、こうなってしまえば、ダニエルの先はもうないに等しく、すぐにレオンにその役目が回って来ることは決まっていた。


 だがまだこの時点では、ルカたちの役回りだ。

 しっかり仕事をして貰わねばならないという気持ちもこめて、妻に見えぬようにしながら厳しい顔をしてレオンはこの場にあり続ける。



「マリア嬢にだけは良くしていたと言うが、貴族を自称し娘として申請した時点で、その娘には貴族となるべく教育を与える義務が生じ、それを怠れば、貴族として罪に問われる行為であるが。まさかあなたは、それを知らなかったとでも言う気だろうか?」


 そのまさかであるダニエルは、酷く慌てた。

 知らぬことを知らぬと言えぬ男なのだ。


「そ……まさかそのようなことは……はは……ですが、私が教育を与えなかったわけではなくてですね。マリアが……その……あまりにも嫌がるものでして」


「貴族として本気で認めさせる気であったなら、娘の望むままに家庭教師らを退け、教育を怠るべきではなかったのだよ。これは貴族ならば、皆が分かっていることだと思うけれどね。あなたはもしや、生家で貴族としての教育も受けてこなかったのか?」


 貴族ならば知っているはず。貴族としての教育が足りていない。

 それはこの窮地にあってなお、男がカチンとくる言葉だった。


「それくらい知っていましたとも!私も正統な貴族ですからね!ですがっ……それくらいのことで、聖剣院など大袈裟な……」


 カッとなって強気で言ったくせに、ダニエルはすぐに青褪め声を小さくした。

 このどうしようもない気質の矯正を子爵家が諦めたときから、あるいはダニエル自身がこれを拒んだときから、ダニエルと子爵家は共に破滅の道を歩み始めてきたのだろう。


「貴族としての義務を怠れば、我ら聖剣院は正しくその罪を裁くことに決まっている。その罪の重さや大小で、これは変わらないのだよ。だが、そうだね。その程度の罪で終わっていれば、このような公けの場であなたを捕らえることはしていなかったかもしれないし、あなたもせいぜい更生施設行きで済んでいただろうね」


 ルカがこの場であえてダニエルの話に付き合っている意味を周囲の貴族たちはよく理解して、ルカの言葉を正しく忠告として受け止めていたが、もちろんダニエルがそれを知る日は来ない。


 貴族の血が流れているだけでは、貴族ではない。


 これをダニエルの存在がここで証明し、貴族たちへの戒めとされているのだ。


「こ、更生施設ですって?それだけは……」


 この期に及んで何も分からぬダニエルは、まだそれだけで済むと信じていたようだ。

 ルカがはじめに言った「第一に」という言葉も聞き逃していたのだから、この男は本当に幸せな男だったのかもしれない。


「何か勘違いしているようだね。あなたの罪がマリア嬢に対する教育義務の放棄のみだった場合には、更生施設行きが妥当だろうと話しただけだ。あなたには娘への虐待を含め、それ以上の罪があり、それ相応の裁きを受けて貰うことになる。では、これから続けて罪状を──」



「お父さま、わたくしを虐待していたんですの!なんてことっ……」


 突然の娘の声に、ダニエルは驚き、目を瞠った。


 同じく驚いた顔をしてしまったのは、ルカとレオンだ。

 その驚きの意味は、虐待という言葉は知っていたのか、という感心であったが。


 マリアはそれから腕を掴む騎士に顔を摺り寄せるようなことをして、「聞きましたぁ?わたくし、とても悲しいですわぁ」と甘えてみせた。


 分かりやすい甘い言葉でも囁いて大人しくさせておけ、と二名の騎士に指示をしたのはルカである。

 やり過ぎたとルカは少々反省しながら、あえてこの娘に辛辣な言葉を投げた。


「悲劇的な自己に陶酔しているところに悪いけれど、君も間違いなく更生施設行きだからね?」


「なんですの?とうすい?」


「……あなたは娘がこの様子でも、本当に何も思って来なかったのか?」


「それは……」


 本当に何も思ってこなかったダニエルは、問われたところで言葉が出ない。

 ルカはひどく呆れ、一度頭を振ってから言った。


「こんな娘を伯爵家の当主に出来ると、本気で思っていたのか?」


「え、いえ?この子ではなくわた……」


 この言葉を止める頭は、ダニエルに残っていたようだ。

 だが言い掛けてしまったら、途中で止めたところで何の意味もない。





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