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妻を知りたい旦那様


「え?それは旦那様の方では……あ、いえ、あの……」


 しまったという顔をして即座に俯くオリヴィアを前に、まずレオンは自身の心を落ち着かせる。

 先のように大きな声を上げては、オリヴィアが怯えるだけだ。


 だが、これはおかしい。


 レオンはこれまでの己の行動を省みた。


 一般的な意味で妻に優しく出来ていたかどうかは怪しいが、少なくともレオンはオリヴィアに対して冷たい態度を取ったことはない。

 確かに忙しくほとんど会う時間は取れなかったが、レオンにはオリヴィアを放置していたつもりはなかった。

 文を添えて季節の贈り物を頻繁に届けさせていたからだ。


 贈り物といえば……。


 嫌な予感に、レオンはオリヴィアの様子を観察する。

 オリヴィアが贈った物を身に付けて見せてくれたときがあっただろうか。


 今着ている邸内用のワンピースとて、レオンの指示で公爵家側が用意した物とは思えない簡素さである。

 また新たな嫌な予感を覚えたレオンはついに頭が痛くなってきた。



「オリヴィア。俺が贈った物は無事にその手に届いていただろうか?」


 はっと顔を上げたオリヴィアの表情がすべてを物語った。


 こうなるとレオンに届いていた礼状もまた、疑わしい。


 幼い頃にお遊びの延長として二人は文のやり取りをしていたことがある。

 だが当時使われていた文字はさすがに子どもの書いたもので、レオンとてその頃とは筆跡が変わっていた。

 だからオリヴィアも、成長と共に字が整えられていったのだと、その筆の相手を疑ったこともなかったが。


 レオンはこれまで自分が見て来たもの、信じて来たものが、ほぼ正しくなかったことを今に悟った。

 これは一から妻に話を聞き出さねばならない。


「そういうことか。つまりオリヴィアは、日頃から何の接触も持たない俺がこの結婚を残念に想っていると。そう信じ込んでいたのだな?」


 オリヴィアはレオンの穏やかな声から怒られはしないと理解したようで顔を上げるも、レオンの言っている意味が分からないと首を傾げた。


「違ったのですか?」


「俺がオリヴィアを嫌うなど、あり得るわけがないだろう。オリヴィアはそれを誰に言われたのだ?」


 オリヴィアは驚いたように、レオンを見やった。

 ついレオンは、にやりと不敵な笑みを浮かべてしまう。


「誰かに言われたから、そのように誤った事実を信じたのだろう?」


 オリヴィアは一変、表情を硬くして、また俯こうとしたが、レオンはそれを阻止しようと言葉を重ねた。


「念のために言っておくが。いいか、これは尋問ではないぞ。俺はただオリヴィアのことが知りたくて聞いているし、オリヴィアが答えたことから誰かに何かをするつもりもない。だから、素直に答えて欲しい。俺がオリヴィアを嫌っているなど、誰から聞いた?」


 何もしないのは、今のところの話だがな。と、レオンは心の中だけで呟く。

 対応を決めるにも、まずは実情を把握しなければならない。



 


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