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【完結】虐げられて自己肯定感を失った令嬢は、周囲からの愛を受け取れない  作者: 春風由実


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調査報告と決意表明


 公爵家の一室にて執事長ら数名の男たちが集まり、机に向かうレオンを取り囲んでいた。

 中でも今、レオンが真正面から見据える相手は、しばらくこの邸でその顔を見ることのなかった男である。


「こんなに早く戻るとは驚いたぞ。何か分かったのか?」


「えぇ。私自身もこれほど簡単に調査が進むとは思いもしませんでしたが。()()()伯爵家は驚くほどの愚かさにございました」


 頭を下げた男は、レオンの机に書類を置いた。

 レオンは礼を伝えると、ぱらぱらとそれを眺めていく。


 よくまとめられた報告書は、男が言った通りであることを示していた。

 レオンはふぅと息を吐いた後、机にて頬杖をつく。


「二家で済ませられる話ではなくなったと」


「えぇ。誠に遺憾ながら」


 悔しそうに顔を歪ませた男は、ぐっと唇を噛んでさらに悔しさを滲ませた。

 レオンもまた同じ気持ちにあったが、どうせ正しい手順で公爵家が関わることになるのだからと、私情を抑えるために一度目を閉じる。


「仕方ない。あいつに連絡しよう。書類は後でじっくり読ませて貰うが」


「はい、簡単にご報告を」


 男が話している間、部屋にある誰もが波立つ感情を表に出さぬよう苦労した。

 だがレオンが耐えている前で、騒ぐ愚か者はここにはない。


「……ということになります。連絡の付いた者たちに関しては雇用する方向で話を通してもよろしいでしょうか?ちょうどこちらでも人員整理の運びとなっているようですし」


「意欲があるならば検討する旨伝えてやれ。あとは俺が直々に面接を行った上で判断する」


「……旦那様自らが行うということですか」


 声に動揺を示すことはなかったが、男は酷く驚いていたようだった。

 だが、他の者たちは違った。

 執事長など、「それがようございます」と肯定まで示したので、男は黙る。

 よく立場を弁え、疑問を追求する場所を選べる男だった。


 

 レオンはもう一度目を閉じて、息を長めに吐いてから、今度は誰かに伝えるでもなくこう言った。


「この問題を長く放置した俺もまた、罪を償わねばならんな」


「それは……」


 執事長が何事か言い掛けたが、後に続く声はなかった。

 レオンに責任がないとは言いにくいし、ここにいるどの者たちも自責の念に駆られていたのだから。


 若い当主を支えることばかりに重きを置いて、未来の当主夫人に対して誰もが気を回せなかったことは事実。

 伯爵家の異様さだって、皆がそれぞれに感じていたのに、それでも他家のこととあえて放置してきたのはレオンだけではない。

 いくらでも進言出来たが、公爵家を優先してそれを怠ってきた結果が、今のオリヴィアである。


 誰が慰めてくれなくとも。

 レオンは自分に言い聞かせるように、宣言する。その瞳には迷いがない。


「だが俺は、責任を取って辞することなど出来ないからな。いいや、出来るが、俺はしない。絶対にそれだけはない。どんなにそれを願われようとだ」


 それは独り言のようでもあったが、そこから続く言葉は、目の前にある男たちに向けた言葉へと変わっていた。

 若干一名、戻ったばかりの男だけは、今のレオンの発言の本当の意味を理解してはいなかったが。


 続く言葉には、強く心を震わせた。


「俺は変わることで、妻に償おうと考えている。だからお前たちも責任を感じるならばこそ、辞意ではなく、これからの言動で償ってほしい。俺とオリヴィアをどうかよく支えてくれ」


 都合よく、男たちは自責の念をこれからの未来に向けて。

 意志を共有しては、絆を固くするのだった。




「…………以上だ。では、頼んだぞ」


 レオンは公爵らしく見事な采配を行ったあとに、席を立つ。

 足早に向かうは、もちろん妻の元だ。


 ところが。


「お待ちください、旦那様」


 レオンが廊下を歩み始めたところで、そこに待ったの声が掛かった。

 振り返ったレオンは、ぎろりと執事長を睨む。


「まだ何かあったか?」


 不機嫌なレオンの顔など慣れたもので、執事長は慌てもせず淡々と要件を伝えるのだった。


「いいえ。奥様はこの時間、庭を散策予定となっております」


 レオンはくるりと向きを変えて、今度こそ妻の元へと急ぐ。

 その背中に男たちは激励の念を贈り、そろそろ当主夫妻の仲が落ち着きますようにと願った。


 その後戻ったばかりの男は、皆から事情を聞いてレオンの言葉の意味を悟り、その身に余ることと知りつつ少々主人を憐れみながら、また邸から旅立っていくのだった。





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