表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/84

怒り狂う旦那様


「どういうことだ!」


 部屋に入るなり怒鳴り始めた夫に、オリヴィアはびくりと肩を揺らした。

 そのままドカドカと音を立てながら近付いてくる夫が「何も変わっていないではないか!」とさらに怒鳴ったとき。

 オリヴィアは両手で顔を庇うようにして小さくなると、ぎゅっと固く目を閉じた。


 カシャンと高い音は鳴ったが、それ以上は何も起きない。


 おそるおそる、オリヴィアが目を開けようとしたときだ。


「ひっ」


 手首を掴まれ、オリヴィアは開きかけていた瞼を一段と固く閉じることにした。


「一体誰が──」


 夫の声色は激しさを増すも、掴まれている手首に掛かる力は意外と弱く、オリヴィアは不審に思った。

 だが、まだ目を開ける勇気はない。


「どうかお許しください」


「誰だ?誰にやられた!」


 大きな声が恐ろしくて失神したくなるオリヴィアだったが、どうにか耐えて震える声で言った。


「も、申し訳ありません。この通りお詫びいたしますので、どうかお許しを」


「そうではない!その反応について聞いている!」


「申し訳ありません。これからは態度を改めますので」


「違う。謝罪など要らんから、まずは顔をよく見せてくれ」


 暴力は降ってこないようだと察したオリヴィアは、薄めを開けつつ、まだ怯えながらではあるものの、顔を上げようと試みた。

 だがそれも──。


「誰がお前を殴った?」


「ひっ」


 冷え切った声が恐ろしくて、オリヴィアが急いで顔を俯けたときに、ようやく夫は掴んだ妻の手が震えていることに気付いたらしい。

 慌てて声色の質を変え、優しく問い掛ける。


「俺も怖いか?」


 目を精一杯閉じて、ぶるぶると震えながら首を振られても、その否定に信憑性はない。

 レオンはふーっと息を吐いて、まずは自身の行いを諫めるのだった。


「大声を出してすまなかった。怖がらせたな」


 座るオリヴィアの前に跪くと、握っていた手首から指先の方へと手を滑らせて、レオンは妻の手をそっと握った。


 一段と変わった声色の柔らかさと、手を取られたことに驚いて、目を開けたオリヴィアの瞳が、ようやく真面に夫の顔を見据える。

 そこに先までの怒りが見えなかったことで、オリヴィアは深く息を吸い込み、体に生じていた震えを止めることが出来た。


「落ち着いたら、話したいことがある。あぁ、すまない、紅茶を零してしまったか。おい、そこに誰かいるな。部屋を片付けて、新しい紅茶を淹れてくれ。いや、俺の部屋に移動するか。うむ、その方がいいな。おい、聞こえているか。俺の部屋に、急ぎ茶を用意しておけ。すぐに移動する」


 レオンが廊下に控えているであろう侍女らに声を張り上げると、命じられた彼女たちが慌ただしく動き出す物音がオリヴィアの耳にも届いた。

 この公爵家に嫁いでから、こんなに慌てる侍女たちの様子をオリヴィアは目にしたことがない。


 オリヴィアは自分だけが何もしていないことに、申し訳なさを感じ始めた。


「あの……」


「話したいことがある。二度と大きな声を出さぬと誓うから、安心してくれ。もう夜も深いが付き合ってくれるか?」


「分かりました」


 オリヴィアは実際には自分の置かれた今の状況をよく分かっていないが、夫に話があると言われたらそれに従うまでだ。


 夫婦は場所を移動することになる。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ