プロローグ「目が覚めると…」
「う、うぅ…」
頭が痛い
脳の血管一本一本が脈うっているのが分かるぐらいだ
「ここはどこだ?」
辺りを見回すが知らない部屋だ
ぬいぐるみやらおいており雰囲気としては全体的に薄いピンク色の部屋であった
そこからどこかこの部屋の持ち主は女の子ではないかと感じられた
ズキズキとする頭に手をあてようとするとジャラジャラと何処か聞き覚えの無い音が聞こえた
「冷た…!」
肌に当たった瞬間、俺はそれを見て驚愕した
俺の両腕には鎖をつけられていた
「くそ!何なんだこれは?」
それを外そうとしても施錠しており鍵が無ければ外せそうに無かった
(何かこの部屋の手掛かりはないのか!?)
手が動かせる範囲で探すと枕の下に何かが有るのに気付いた
(懐中時計?)
何故か枕の下には懐中時計が置いてある
(針が動かない、壊れているのか…)
他に分かる事が無いか五感を研ぎ澄ました
するとこの可愛らしい部屋には何処か似合わない鼻につく臭いが気になった
その臭いの元に目線をあわせると何十枚ものこの部屋には似つかわしくない絵が積み重ねられ臭いはその絵からの発せられているみたいだ
(この臭い、知ってる、何処か懐かしいこの臭いは油の臭い?)
部屋の隅にあるその絵は臭いから察するに油絵の様だが部屋の隅にあるのに加えてその部屋の薄暗さからどんな絵が書いてあるのかは分からなかった
(とりあえず他に手掛かりは何か無いのだろうか)
動ける範囲体を動かそうとする
上布団をめくる
「マジか!こっちもか…」
俺の脚もがっちりと施錠されており動けない
「どうしてこんな俺だけがこんな目に…」
そう思った瞬間ふとある事に気付いた
「俺は一体誰なんだ?」
あまりの異常さにパニックになり自分が一体何ものかも分からなかった
「俺の名前は…」
黒い長ズボンに半袖のポロシャツ
(格好としては俺は学生なのか?)
思い出そうとするとやけに頭が痛む
すると誰かの足音がこの部屋に近くのに気づく
その足音はこの部屋の前で立ち止まる
ガチャリ、ガチャリ、ガチャリ…
そいつは丁寧に何重も掛けられた鍵をゆっくりと開けていく
開けられて行く度に俺の心臓の鼓動が早くなっていく
そして遂にその扉は開らかれた
「だ、誰、です、か?」
思ったより声が恐怖のあまり出てこず途切れ途切れだが一言一言言葉を紡いで入って来た者に問いかけた
「ウッ、スン、スン…」
「えっ?」
入って来た者は予想に反してすすり泣いている
「ねぇ…どう…して…?」
暗くて顔は見えないがその声は綺麗な女の声だった
「頼む、誰かは知らないが助けてくれないか?」
「誰か…わからないの…?」
「あ、あぁ、記憶が、無いみたいなんだ…」
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
その女のつんざく様な悲鳴が部屋いっぱいに木霊した
「い、いきなりどうしたんだ?」
「嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ…」
その女に俺の声は届かずただ騒ぎ散らすのみだった
一通り騒ぐとふとその女は一言
「結婚したのに…」
そう言いながら左手を擦っている
(いや、あれは左手の薬指を触っているのか)
それに気付いた俺はもしやと自身の左手の薬指を見ると指輪をしている
(もしかして俺は、結婚をしてるのか?あの女と!?)
それに気を取られているとその視界の端に何かが動く
ゆっくりとその女は積み重ねられた絵の方へ歩く
その絵の束を足で押し退けるとそこにある何かを女は拾い上げた
それを持って女はゆっくりと近づいて来た
一歩近くと一言
「あなたの眼を潰したい、ただあなたの視界に私以外を写して欲しくないから…」
ドクン
もう一歩近く
「あなたの口を縫い付けたい、ただあなたの声で私以外の名前を呼んで欲しくないから…」
ドクン、ドクン
さらにもう一歩
「あなたの耳を引きちぎりたい、ただあなたが私以外の声を聞いて欲しくないから…」
ドクン、ドクン、ドクン
「あなたの腕を捥ぎたい、ただあなたの腕で私以外を抱きしめて欲しくないから…」
その女が近く度に鼓動が早くなる
ドクン、ドクン、ドクン、ドクン
「あなたの脚を切り落としたい、ただあなたが私の傍から居なくなって欲しくないから…」
そして遂にその女は俺の目の前に立った
ドクン、ドクン、ドクン、ドクン、ドクン
俺の心臓の鼓動はピークを達する
「あなたとの結婚を無かった事にしたくないの、ただ私はあなた以外を愛する事なんて出来やしないから…」
ついさっき拾い上げたのであろうそれはかなりの大きさの出刃包丁で迷いなくそれを俺の胸に突き刺した
痛いのは一瞬だった
後は、刺されたところが燃えているかの様な熱を帯びたかと思うと次第と全身に寒気が走る
返り血を浴びた女の白いセーラー服は段々と赤く染まってゆく
薄れゆく意識の中、俺をその女は抱きしめた
(暖かいな…)
「あなたを一生愛してます…」
耳元に囁かれた寂しげな言葉だけは鮮明に聞こえた