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婚約を発表する事になりました

次の日曜日、司祭様からお誘いを受けた日曜礼拝に参加した。

礼拝に行くと伝えると、侍女としてアリスがついてきてくれた。


「アデレイド伯爵令嬢。礼拝にちゃんときてくれたんですね」

司祭様は礼拝の後、声をかけてくれた。

「はい。両親の無事を祈るために参りました」

と伝えると

「是非またいらっしゃってください」

と司祭様が言ってくれた。

先ほどから、司祭様と、司祭見習いの少年が忙しそうにしているので

「この教会はお二人で切り盛りしているのですか?」

と伺うと

「そうなんです。なにせ人手不足で…。神に仕える仕事は何かと守秘義務があるもので誰でも雇えないのですよ。身元が保証されている方でないとなかなかと難しいのです」 

と、困った顔をしてお答えになった。

今のところ、私とトレド様の接点はこの教会しかない。

ここのお手伝いをしていればトレド様に会えるかもしれないと思ってお手伝いを名乗り出た。


「本当に良いのですか?」

と聞かれたので

「はい。もちろんです」

と答えた。


午前中はお祈りに訪れる人が少ないため、事務処理や掃除など雑務が中心だ。

婚約していなければ、私は修道院に入り、修道女として一生を終えるつもりだったのだ。


侍女のアリスは

「お嬢様が、旦那様や奥様の無事を祈って奉仕活動をされるのですから私も行わせていただきます」

と言ったのだが、奉仕活動は自分一人で行いたいと思い、帰宅してからその旨を執事のノエルに伝えた。

ノエルは、

「確かに、奉仕活動は侍女を伴って行うものではありませんね」

と理解をしてくれて、私は3日に一回お手伝いに通う事にした。



それから数日後、無事一隻が見つかったと発表があり、乗船していたのは、使節団として遣わされた文官や書記官とその奥様方だった。


この船にも両親は乗っていなかった。




きっと両親は元気なはずだと信じて、教会のお手伝いをしながら毎日神に祈った。

でも、不安を口にしてはギルバートに良くないと思って、屋敷ではいつも通りの態度でいた。





屋敷の中で気を張って生活するのも楽じゃなくて、教会に行くのが気分転換になった。

司祭様はいつも優しくて紳士的だし、何よりお話が面白い。

見習いのヒューは12歳ということでまだまだ落ち着きがないが、もう一人弟ができたみたいな感じですぐ馴染んでくれた。


教会に訪れる人は近所のお店の人が中心だが、庁舎の職員も礼拝に訪れた。

ここに訪れる人は皆優しくてすぐに打ち解けてくれた。


あの事件から一切の人付き合いを辞めて屋敷に閉じこもっていだけど、教会に訪れる方々によって少しずつまた日常を取り戻していける気がしてきた。




そうして3日に1回教会に通うようになって1ヶ月が経過しようとしていた。




国王陛下は捜索隊の規模を縮小すると発表した。

見つかっていない一隻に乗船しているのは王弟殿下、シラウト侯爵夫妻、アデレイド伯爵夫妻、第五騎士団、金細工師などの主要産業の技術者の一団だ。



まず、主要産業である金細工師や魔石加工師、魔道具開発者などの技術者の家族が集められ、説明会が行われた。


説明会では国王の使者が国王陛下からのお言葉と、国の発展に貢献したとしてまだ見つかっていない技術者達に勲章が贈られた。

そして、その後、労働省の職員から、技術者である使節団員や船の乗組員の家族は国からの今後の生活保障として資金が支払われ、希望した者に職業斡旋が行われると説明がなされた。

もちろん、無事に帰宅したとしても資金は返還不要であるとの事で混乱なく会議は終了した。





そして、貴族籍のある使節団員の親族宛には、貴族院での会議の日時の案内が届いた。

アデレイド伯爵家にも会議の出席要請の信書が届いた。


その案内が届いてから、すぐに、トレド様から手紙が届いた。


『婚約者として一緒に参加しなければならないが、当日はどうしても業務がある。

どのような追及があるかわからないため、婚約証明書を持って行くことと、返答できない質問には、帰って検討する、と伝えてその場では返答しないように』と書かれていた。



当日、指定された会議場に行くと、国王陛下ご夫妻や複数の王族。そして宰相様や護衛の騎士や、書記としての文官など沢山の高位貴族や職員がいた。


私は執事のノエルと会議に参加した。

ノエルは執事だが、アデレイド伯爵家の分家であるコノリ子爵家の当主だから、付き添いをお願いした。

トレド子爵様が参加できないのなら、適任はノエルしかいない。



その中で話し合いが始まった。


今回会議に参加しているのはまだ見つかっていない船に乗船している貴族の親族である。


王弟殿下の船に乗船していた貴族は、王弟殿下の警護をしている第五騎士団と、文化庁長官のシラウト侯爵様ご夫妻。それから我が両親のアデレイド伯爵夫妻だ。



第五騎士団には主に独身の貴族の子息が在籍している。

今回派遣された騎士団員全員に勲章と一段昇級が発表された。

そして、第五騎士団は諸外国への外遊の際の要人警護の部隊なので早急に再結成すべき所だが、現行のままにしておく事も合わせて発表された。




次に、シラウト侯爵家についてだった。

シラウト侯爵家は、嫡男様が既に文化庁の保護課課長として勤務しており、この会議の後から公爵籍を継ぐ事になった。

もともと、シラウト侯爵様が外遊から戻られたら隠居されるおつもりだったようで、その旨を外遊前に貴族院に提出してあったのだ。


そして我がアデレイド伯爵家の話になった。


私は

「嫡男のギルバートはまだ7歳ですが、嫡男としての領地経営や家業の引き継ぎなどは、少しずつ行なっていくつもりです」

と伝えると、貴族院代表から

「7歳であれば、後見人が必要ですが未婚のアデレイド伯爵令嬢では後見人になれません。ですが、婚約を既に済ませていれば別です。

ただし、婚約している証明書を提出してください」


と言われたので、持ってきていた婚約証明書を提出した。


婚約証明書を受け取った貴族院代表は証明書をしげしげと隅々まで見た。


「この証書は教会が発行したもので、確かに本物です。

トレド子爵家と婚約で、立会人はザルバ子爵ですか…。」


そう言うと、貴族院代表は、最新貴族名鑑を出してきた。

これはこの国の全貴族が記載されている最新名鑑で、当主が変わったり結婚があったりすると自動的に本の項目が追加される。



確認に長い時間がかかっている。

多分、書類の偽装を疑われているのだろう。

だって、ここにいる貴族院代表はラナス侯爵家の嫡男、ワルキューレ・ラナス侯爵子息。


「トレド子爵…貴族名鑑によるとつい最近叙爵された新興貴族であるとしかまだわかりませんね。

しかし貴族である事は確認できました。

次に、立会人のザルバ子爵ですが、辺境にある国有林につながる小さな森を管理している一族ですね。

貴族の立会人が必要である事、そして教会発行の書類で婚約をしていますからこの婚約書は公的なものです。」

と不満そうな顔で書類を返してきた。  



もしもこの証明書を捨てられたとしても証書は教会にも、トレド様の元にもある。


貴族間の婚約は、お互いの家紋の入った書類で手続きして教会には出さないというのが最近は多いとトレド様が言っていた。

教会での婚約手続きは、いくら『簡単に婚約破棄できる』と書いてあろうが、一度結んだ縁は、破談になると『A家とB家が、男性の浮気で破談になった』とか、詳細な記録がずっと何百年も残る。

未来に遺恨を残さないために、近頃では教会での婚約手続きをせずに婚約書面を交わす貴族がほとんどだと、教会の手続きの時トレド様は教えてくれた。



トレド様が『やるなら徹底的に』と言ってくれてよかったわ。

でないとこのままでは無理矢理ケレイド・ラナス侯爵子息と結婚させられていたもしれない。


会議が始まってから、気のせいなのか右手が熱いような気がする。両手は緊張からか汗で手袋が湿っている。

これは『トレド様がここにいてくれたら心強いのに』と考えているからなのか、それとも裏方にトレド様がいるからなのか。

トレド様は守秘義務の多い立場だと言ってた。

ここに沢山の文官様がいるし、当然王族が参加する会議では見えない所にも沢山の職員が配置されている。

トレド様はもしかしたらこの会場のどこかにいるのかもしれない。

そう思うと、少しだけ心強く感じた。



「アデレイド伯爵令嬢は婚約しているとはいえ、相手は新興の子爵籍。

それで後見人が務まると思っていますか?

それなら、ギルバート・アデレイド伯爵子息に有力な婚約者を迎えて、婚約者のご両親に後見人になってもらったら良いのでは?」

と貴族院代表のワルキューレ・ラナス侯爵子息が聞いてきた。


まさか、そう来るとは思っていなかった。

相手にもなんらかの秘策があるのかもしれないが、これに対抗できる知恵が今は思い浮かばない。



私が無言で立ち尽くしていると



「アデレイド伯爵家の行く末を心配する気持ちはしかと理解した。ならば、私がアデレイド伯爵令嬢と、トレド子爵の相談役となろう。

現アデレイド伯爵は今回の外遊で多大な成果をもたらした。この成果は国庫に多大な変化をもたらすだろう。

その夫妻の功績に報いるために、二人の婚約期間中は私は喜んで相談役になる」


そう言ってくださったのは宰相様だった。


ワルキューレ・ラナス侯爵子息は笑顔を張り付けて

「それなら安心です。もしも婚約が無くなったらどうするおつもりですか?」

と言ったら

宰相様が

「教会での手続きをしておいて解消という事はなかろうが、万が一そうなったら時は、アデレイド伯爵令嬢の新しい婚約者、又はその家族が後見人になるであろう。もしも、後見が難しいようなら私が引き続き後見を行うがね。

意義のあるものは?」


宰相様の意見に意義を唱えることができるものはこの場にはいなかった。


「ありがとうございます。宰相様」


私は頭が真っ白になってそれしかいえなかった。

宰相様が相談役になってくれるという想像していなかった出来事にびっくりした。



これは毎日教会でのお手伝いとお祈りが効いたとしか思えない!

神様ありがとうございます!

私は心から神に感謝した。

本当に天の助けだと思えたのだ。



閉会後、宰相様に呼び止められ、お祝いの言葉を賜った。

「婚約おめでとう。ご両親が戻ったらいち早く知らせようと思って公表してなかったのであろう?

こんな形で公表する事になってしまったが、何にせよよかった。

ご両親は君のことを本当に案じていたからね。

何かあれば相談に来なさい」

と優しく言ってくれた。


1人議会場から遅れて出た私は浮かれた気分でなんの警戒もせずに歩いていた。

ノエルは馬車の用意をしてもらうために先に議会場から出てもらっていた。


それがいけなかった。

ここが国の施設で近衛兵が沢山いることもあって気が緩んでいた。


議会場から続く廊下は今は1人で歩いている事に何も思っていなかったら、別れ道の影から出てきた人に急に腕を掴まれた。



ケレイド・ラナス侯爵令息だった。


「お前が婚約したと聞いていち早くやってきた。

お前と婚約する奴なんて遊び人かなんかだろう?

あっ、新興貴族だから爵位を買った金持ちのジジイか。

身売りでもしたのか?

俺が手を出してないから、初めてを高く売ったのか?」


私は恐怖で震えたが、その時、右手の指輪から電流のような雷のようなものが出て、ケレイド・ラナス様の手を攻撃した。


「痛っ」

ケレイド・ラナス様は私を掴んでいた手を引っ込めると

「そのジジイに魔道具をもらったのか!

そんなに高く買ってもらえたのか!

よかったな。ただし、相手は高齢者だろ?結婚前に死ぬかもしれないしな!その時は俺がお前をもらってやるよ。」


さっきの指輪から出た雷で、魔法を感知した近衛兵がやってきた。

「どうされましたか?」

と聞いた近衛兵にラナス侯爵令息は

「なんでもない」

と答え私の方を向き

「せいぜい期待しておいてくれ」

と言うと帰って行った。


「さっき感知した魔法は防御魔法。何かありましたか?」

と近衛兵に聞かれて

「曲がり角でぶつかったのを魔道具が攻撃を受けたと勘違いして作動したの。」

と私が言うと近衛兵は


「そうでしたか。今後のために調節をお願いしますよ。また誰かにぶつからないように出口までお送りします。」

と笑顔で申し出てくれた。


まさか指輪に防御魔法が付与されているなんて!

トレド子爵様ってすごい人なのかもしれない。と思いながら近衛兵に出口まで送ってもらった。

出口には馬車の前で微笑むノエルが待っていてくれた。


帰りの馬車の中でノエルが

「お嬢様、誰もお嬢様の婚約を知りませんでした!

おめでとうございます。

まさかそんな秘策を持っていたとは」

と言って嬉しそうに笑った。

「トレド子爵様は文官で、ラナス侯爵家に乗っ取られないために婚約したの。

ギルバートは絶対に廃嫡させないし、この家の資産は守ってみせるわ」

と言うと

「あの事件の後のお嬢様は家に閉じこもり気味で心配しました。もしやいつも奉仕活動をしている教会で出会いがあったのですか?

教会は庁舎近くだと聞いてますし。」

と終始ニコニコしていた。



屋敷に戻ると、他の使用人やギルバートにも婚約の件を伝えた。

皆、祝福してくれた。


私専属の侍女であるアリスは

「お嬢様、奉仕活動に行っていて出会ったんですか?

教会で婚約の手続きを取ったってロマンチックすぎるじゃないですか。

うちのお嬢様を射止めた子爵様に会える日を楽しみにしていますよ」

と言われて、その日のディナーは使用人を含めた簡単なパーティーをした。




次の日、司祭様に 

「トレド様にありがとうございますと伝えてください。

とりあえず、一難は去りました。」

と笑顔で伝えた。 


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