贈り物
トレド子爵の喪が開けると、結婚式とパレードの準備が大々的に行われ始めた。
ドレスの仮縫いや、招待状の準備、警備の打ち合わせなど、やる事はいっぱいあった。
その中で、私は、暇を見つけては結婚後の引越しの準備を始めていた。
ドレスや宝石などは、アリスが準備してくれるので、私はお気に入りのペンや、大切にしている小説など、身の回りの物の整理を始めた。
少しずつ、箱に詰めている時、トレド様と婚約した記念でザルバ子爵からいただいたオルゴールが目に止まった。
オルゴールを鳴らすと、トレド子爵として出会ったリスト様の事を思い出した。
つい数ヶ月前の事なのに、教会で初めて顔合わせをしたリスト様の事がずっとずっと前のように感じる。
リスト様のおかげで今の私がいる。
それまでは、家に引きこもっていたのに。
トレド子爵との思い出は刺激的で楽しい事ばかりだった。
司祭様と出席した夜会では、最後は新聞社の馬車に乗った。
次の夜会では、トレド子爵の屋敷に刺激的な格好の女性がいたり。
それからリサ様と仲良しになった。
あのホワイトナイトは本当に幻想的だった。きっとずっと忘れないと思う。
もう、トレド子爵に扮したリスト様に会うことがないと思うと寂しくなった。
『トレド子爵』の事を考えながら、オルゴールに施された細かな細工を見ようと手に取ろうとしたら、落としてしまった!
カタッ
とオルゴールの中から音がした。
急いで拾い上げるてオルゴールを鳴らしてみた。
何かが外れたのか、それとも何かが入っているのか。
時折擦れるような音がする…
オルゴールの箱をどうにかして開けようと箱を持ち上げて手の上に乗せてみると、まるでセンサーでもあるかのように、手の上で綺麗に開いた。
そして中からは、青みがかった大きなエメラルドの指輪が出てきた。
これは…。
翌日、王城に着くと、魔法の講義の前にリスト様の執務室に寄った。
「おはよう。マリーナ。
どうかしたの?」
「実はリスト様に見ていただきたい物があるんです」
と言って人払をしてもらった。
そしてリスト様の前にエメラルドの指輪とオルゴールを置いた。
「ザルバ子爵から『トレド子爵との結婚のお祝い』に貰ったオルゴールの中に入っていたんです。
昨日、オルゴールを落としてしまって初めて中に何か入っている事に気づいて。」
「この指輪が入っていた?」
「はい。どう見ても本物です」
「こんな大きなエメラルド見た事がない…。国宝の宝飾品でももっと小さい。」
リスト様はオルゴールの事を知らなかったようで、執事のトーマスさんを呼んでくれた。
「お呼びでございますか?クリストファー殿下」
すぐにトーマスさんは来てくれた。
「以前、私がトレド子爵としてマリーナと婚約の手続きを取った時に、トーマスに『ザルバ子爵』として立ち会ってもらったが。
その時にトーマスからマリーナに贈ったプレゼントのオルゴールの中に、この指輪が入っていたそうなんだ。」
と、オルゴールと指輪をトーマスさんに見せた。
トーマスさんは指輪を見ると嬉しそうに
「先代王妃様のプレゼントを受け取られたのですね?
おめでとうございます。
まさか指輪だったとは!」
と言った。
「このオルゴールは、既に他界した先代王妃様がお元気だった頃、『未来のクリストファー殿下のお妃様』にお渡しするために準備された物です」
先代の王妃様はリスト様が10歳の時に他界された。
すごくカリスマ性のある方で、亡くなった時の国葬には世界中から沢山の弔問客が訪れ、国内外を問わずに人望があった事を感じさせた。
当時子供だった私も国葬の事はうっすら覚えている。
先代王妃様がお元気だった頃、専属執事のトーマスさんに預けた物だそうだ。
「先代王妃様は、王妃様だけが使える不思議な魔法をお持ちでした。
そのオルゴールは、『クリストファー殿下に相応しい結婚相手だ』と先代王妃様が認めた方だけが開けられる魔法がかかっているそうですよ」
と嬉しそうにオルゴールを眺めていた。
「婚約の手続きの時に執事のトーマスに『ザルバ子爵』として立会いをお願いしたけど、まさか婚約のお祝いとしてマリーナに
オルゴールを贈っていたとは…。
しかもお婆様の魔法がかかったオルゴールだとは」
「先代王妃様はサプライズが大好きな方でした。
驚いていただけだなら先代王妃様もお喜びになっているでしょう」
とトーマスさんは
「先代王妃様からもう一つプレゼントを預かっています。それは、ザルバ子爵が管理する国有林に隣接した小さな領地です。
湖があって、夏は避暑、冬はスキーができる豊かな土地です。
こちらはクリストファー殿下にお渡しする様にと言われています。」
この事は、国王陛下夫妻にも報告した。
オルゴールの事は、お二人も知らなかったようだ。
先代王妃様の指輪は国宝級の宝石のため、結婚式に身につけてお披露目する事になった
「先代王妃様は不思議な方で、まるで未来を知っているかのような方だったわ。
先代王妃様の所有していた宝石や魔道具で行方不明の物が多数あるから、また色々な方法で相応しい方の手に渡るのかもしれないわ」
と今代の王妃様は笑顔ておっしゃっていた。