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『クリスマスに向けて』

 仕事休みの午後、俺たち家族はショッピングモールへと出かけた。

 もう十二月に入ったからか、店内はクリスマスの飾りつけで派手に彩られていた。店内の中心に位置する吹き抜けの広場には、二階ほどの高さのツリーが立っている。

 「パパ。あの木はなぁに?」

 ルインが興味津々に辺りを見回し、ツリーを指差していた。クリスマスについて大まかに教えると、ルインは話を聞き逃すまいと終始耳を傾けてくれた。


 「……んぅ、クリスマスってそういうことだったんだね。保育園の皆もね、クリスマスが楽しみーって話しをしてたの」

 「ルインも良い子にしてれば、サンタさんがプレゼントを届けてくれるぞ」

 「本当? じゃあルイン、良い子にして待ってる!」

 白銀の髪を嬉しそうに揺らし、ルインは足を上機嫌にスキップさせた。俺はその期待する姿を見て、プレゼントは気合を入れるようだと考えた。


 エリシャからの反応が無いのでそちらに顔向けると、どうやらさっき話したクリスマスについて思考を巡らせているようだった。

 「レンタ……、この国のルールを完全に理解したわけではないですが、さすがに夜な夜な家に上がり込む赤服の男性というのは危険では?」

 「……まぁ、言いたいことは分かる。詳しい話は帰ってから教えるけど、一応安全だ」

 「一晩で町中の子どもたちにプレゼントを届ける……。かなり大規模な組織のようですが、いったい何のために……?」

 あまりここでサンタについて話をすると、賢いルインはすべてを察してしまいそうだ。俺は並んでいる商品などに意識を向けさせ、この話題を一旦遠ざけることにした。


 冬も本番になってきたということもあり、二人には新しい防寒着を買ってあげた。

 エリシャはベージュやブラウンなど地味目な色を選び、それが派手な髪色を際立たせてよりエリシャ本人の魅力が増していた。


 「レンタ、この二つのマフラーはどっちが良いでしょうか?」

 「うーん、そうだな。全体的に色を抑えているんだし、マフラーぐらいはその薄ピンク色の奴でもいいんじゃないか? 少なくても俺は似合うと思うぞ」

 「ふむ……、確かに。ではこちらにしますね」

 直感で選んだが、エリシャも納得してくれたようだ。他に必要な物がないか話し合っていると、脱衣所のカーテンを引いて真新しい装いのルインが姿を現した。


 「パパ、ママ! これどうかな!」

 ルインが選んだ防寒着は、全体的にクリスマスらしい赤を基調にした色でまとめられていた。

 首元にはラッピングリボンのような飾りもあり、所々にあるチェック柄が派手なデザインをほどよく落ち着かせていた。少女用にデザインされたサンタ服のようだが、普段使いも可能な仕上がりだった。

 ルインの愛らしい顔立ちと白銀の髪が合わさり、まるで天使が降臨したかのような存在感を放っていた。


 「よし、それにしよう」

 さすがは俺たちの娘だと内心で誇り、俺はルインが選んだ服を買うと決めた。

 デザインだけでなく生地もしっかりしていたので値段はかなりしたが、仕事を始めたことも合わさって少しも苦ではない。ついでに防寒着に似合う厚手の手袋なども買ってあげた。


 レジで会計を済ませた後、俺は二人におもちゃ売り場に寄らないかと提案した。

 俺の方に用事はまったくないが、さっかく三人で出かけたのでルインのプレゼントの目星をつけたかった。

 おもちゃ売り場に入ると中は思いのほか広く、商品も中々充実していた。


 (おっ、あれは俺が子どものころに見てたロボットアニメのプラモか。新作コーナーに置いてあるけど、こんな最近にキット化されてたんだな)

 プラモコーナーに行きたい気持ちはあったが、目的は別にあると沸き立つ思いを強引に押し込めた。そして二人と一緒に、日朝にやっている魔法少女アニメの玩具コーナーに向かった。


 「ママ、ママ。これプリンセススターズのステッキだよ」

 「本当ですね。お値段はしますがそれに見合った出来のようです。私の好きなシリウスウイッチの物はあるんでしょうか?」

 「あった、これだよ。凄い、アンタレスちゃんのもあるよ!」

 楽しそうにしている二人を後ろから眺め、俺は家族全員で来て良かったと改めて思った。


 一通りの買い物を済ませ、俺たちはショッピングモールを出ることにした。

 エスカレーターを降りて出口へと向かうと、そこでルインがハッとして足を止めた。視線の先にあるのはペットコーナーで、ショーウィンドウの先には子犬や子猫がじゃれ合ったり昼寝したりしていた。


 「ほわぁ……、可愛い……」

 ガラスに張り付き、ルインは子犬に目を輝かせていた。端から一匹ずつじっくり時間を掛けて見つめ、一番奥の方にいた白いポメラニアンの前で足を止めた。

 「ふわふわだぁ……、目もクリクリで凄い」

 よほどポメラニアンがお気に召したようで、俺たちが連れて行かなければずっとここに居そうなほどだ。見つめられたポメラニアンはルインに気づき、近づいてガラスをペロペロと舐め始めた。


 「……ふっ、きゅう」

 愛らしさ前回のポメラニアンに心を射抜かれたようで、ルインは謎のダメージボイスを発して辛そうに胸元を抑えた。

 試しに俺から「抱いてみるか?」と提案すると、ルインは表情をパァっと輝かせた。だがすぐにシュンとなり、「いい」と言って首を横に振るった。


 「……この子を忘れられなくなりそうだから、今回は我慢する」

 「そっか、まぁ良くなったらいつでも言うんだぞ」

 「うん、……うん。じゃあね、バニラ」

 バニラというのはポメラニアンの名前のようだ。

 それからルインは店内を出るまでバニラを見つめ、ずっと名残惜しそうにしていた。そして店を出て見えなくなるところで手を振り、ようやくお別れをしたようだった。


 (……あのアパートはペット禁止だっけか? 後で大家に聞いてみる必要があるな)

 ルインが経験する初めてのクリスマスプレゼントだ。ならば大奮発してやるのが、男の甲斐性の見せどころといえるだろう。

 バニラと名付けられたポメラニアンと触れあうルインを想像し、俺はその光景が現実になればいいと願った。


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