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『エリシャの休日』※エリシャ視点

 レンタとルインが出掛けたのを見届け、エリシャは溜まった家事を片付け始める。皿洗いや洗濯に掃除などなど、午前はやることがいくつもあった。

 (……でも私一人ですし、午後はどうしても暇になってしまうんですよね)

 生活費を稼ごうと午後に働くことを提案したが、レンタはあまり乗り気ではなかった。

 エリシャ自身まだ日本の生活に慣れていないところはあるので、家事を進めつつ手ごろな仕事を探している段階だ。


 (ファミレスの給仕は楽しそうですが、朝早い時間か夜遅くまでしかないですね。コンビニも難しそうですし、他には……うーん)

 暇な時間で求人雑誌を眺め、いくつか候補を絞っていく。名前だけではどんな仕事内容か分からないものもあるので、それは後でレンタに聞く予定だ。

 次は自分のスマホを取り出し、操作方法を実際に使って覚える時間だ。女神様のおかげで戸籍が手に入ったので購入できたが、機械類になじみがないこともあって難儀していた。


 現時点でエリシャが使える機能は、メールの送信と通話ぐらいだ。仕事の内容などもスマホがあれば検束できると聞いていたが、今はまだそこまで使えていない。

 説明書と睨めっこしていると、ポンという電子音が鳴って誰かからメールが届いた。相手は日本で仲良くなった代々木楓で、短い文に可愛い絵文字が添えられていた。

 『エリちゃん、今ヒマ?』

 エリシャは指を画面に滑らしていき、楓への返信をすぐに送った。


 『暇ですよ。かえちゃんの方はどうですか?』

 『ヒマと言いたいところですけどー、今日はこれから予定があるんですよね。色んな手続きが溜まっているので、午後は市役所とか行く予定です』

 『さてはかえちゃん、私を時間潰しに使いましたね』

 『バレちゃいました? さすがはエリちゃんですです』

 そこから互いの近況や世間話をいくつか交わし、ほどほどのところで会話を切り上げた。


 「ふぅ……そろそろお昼にしますか」

 今日は前日の夕飯が残っているので、それを使って簡単な昼食にするつもりだ。

 キッチンンに立ち、レンジの電源を入れて食べ物を温め、みそ汁を加熱するためガスコンロに火を入れようとした時のことだった。

 「……あれ?」

 ふとエリシャはどこかからかスマホの着信が鳴っていることに気づいた。テーブルに置いてある自分のものではなく、レンタが持っているスマホから聞こえている音だ。


 自室の方に移動してみると、そこにはレンタのスマホがあった。朝は慌ただしかったので、職場に持って行くのを忘れてしまったようだ。

 画面には「母親」と表示されており、エリシャは思わずスマホを手に取った。

 「レンタの……お母さま」

 ルインを探していた雪の日に、その声を聞いたのを覚えている。とても素敵な考えを持つ人で、エリシャは一度話をしてみたいと考えていた。


 (でもそれは、レンタに直接言ってお願いすればいいだけですよね)

 ここで通話に出るのは、勝手にスマホを使ってしまったことにもなってしまう。それは非常識だと思い、エリシャは元の場所にスマホを戻そうとした。

 しかし運命のイタズラか、指が滑って通話ボタンを押してしまう。聞こえてきたのはレンタの母親の声で、エリシャは少しパニックになって電話をまた手に取ってしまった。


 『煉太、煉太? もしもし、あれ繋がってないのかね……?』

 こちら側からの返事が無いので、レンタの母親は疑問を浮かべていた。エリシャはどうするべきかグルグルと思考を巡らせ、とっさに「あの」と声を掛けていた。

 「はっ、初めまして。……レンタのお母さまですよね?」

 『え? おたくは……どちら様?』

 「レンタと暮らさせてもらっている者です。急なお返事で困惑しているかと思いますが、一度話をしたくて電話に出てしまいました」

 エリシャという存在がいると知り、レンタの母親はとても驚いていた。そこからエリシャは質問攻めに合い、同棲生活の詳細を赤裸々に告白することになった。


 『……信じられないねぇ、あの子にこんな立派な彼女がいたなんて。……ずっと気になってはいたんだけど、もしかして子どもとかもいる?』

 「それは……はい。血は繋がっていないですが、親子として暮らしています」

 『あぁ、そういうことだったの。ようやく合点がいったわ』

 母親はなるほどと納得して呟き、今度はヒソヒソ話をエリシャにした。


 『それじゃあ、エリシャさんにお願いしたいことがあるんだけどいい?』

 「お願いしたいこと……ですか?」

 『今度の土日に、そっちの方に妹を送ろうかと思っててね。今回の連絡もそのためのものだったんだけど、レンタには黙っててくれないかい?』

 レンタの母親は、妹にもエリシャや子どものことを話さないと言っていた。驚かせて互いの反応を見て、後で報告を聞きたいとのことだった。


 エリシャ的にも面白そうだと判断し、その提案に乗ることにした。電話番号もメモに残し、エリシャのスマホにレンタの母親の連絡先も残した。

 『それじゃあ、エリシャさん。これからもあいつのことをよろしくね』

 「はい、それではまた」

 通話を切り、エリシャはテーブル席にどっと腰を下ろした。内心ではかなり緊張していたので、ようやく一息つけて安心した。


 (……レンタのお母さまが、優しそうな人で良かった)

 会話の中で、レンタの母親はいずれ実家にも遊びに来るよう言っていた。以前写真で見た田舎風景を思い出し、エリシャは久しぶりに自然に触れあえることが楽しみになった。

 「妹さんを迎える準備も、少しずつ進めて行きましょうか。ふふっ、今日からはやることがいっぱいですね」

 ここ数日は今まで以上に楽しくなりそうだと考え、エリシャは中断していた昼食作りへと戻っていった。


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