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第四話『賑やかな朝と二人の朝食』

 キッチンに移動して朝食の準備をしていると、俺がテーブルに運んだとある機械にエリシャが興味を持った。

 「レンタ、これは何でしょう?」

 「それはパンを焼くため道具だ。『トースター』って名だよ」

 「トゥスタァ……ですか。中に火種を入れて、それで加熱していく感じですかね?」

 興味津々といった様子のエリシャが可愛く、さっそくパンを用意してあげた。実際に中に入れてスイッチを押すと、キョトンとした目をして俺に視線を向けた。

 「レンタ、火種を入れなければ中が温まらないのでは?」

 「そのまま待てば大丈夫。ほら、徐々に中が赤くなり始めてる」

 「本当です。ちゃんと暖かくもなってきて、どういう仕組みなんでしょう」

 むぅと口を結んで目を細める姿がかなり愛らしく、思わず笑ってしまいそうになった。

 「そこに繋がってる線から電力って力を送って動いてるんだよ。あっちの世界でいうと、備え付けの魔道具の仕組みと似てる感じかな」

 「デンリョク……、魔力とは根本から別の力なんですね」

 「この世界で動くほとんどの物は、電力に頼ってるんだ。今俺が開けているこの冷蔵庫って物もそうだし、今部屋を照らしてる灯りもそうだな」


 話をしながら牛乳と卵を取り出し、フライパンに個包装されているバターを置いた。調味料も入れた溶き卵を静かに落としていき、フライ返しで軽く寄せながらスクランブルエッグを作っていった。するとエリシャはトースターから目を離し近寄ってきた。

 「卵炒めですか。なじみのある食べ物ですが……アルヴァリエの物より色がいいです」

 「そういえば卵はどっちも似たような感じだな。特に考えずいつも通りの味付けにしたけど、エリシャには濃すぎたかも」

 「それならその時ですよ。異国の味に翻弄されるのも旅の醍醐味ですから」

 「だったら、こっちは色々と楽しめると思うぞ」

 他にも冷蔵庫に入っていたカットキャベツを皿に盛り、レンジで解凍したミートボールも付けた。タレで黒茶色に輝く球体をエリシャはまじまじと見つめ、続けて背後でチンと音を立てたトースターに「ひゃっ」と可愛い悲鳴を上げた。


 一通りの準備を終え、おかずの皿を持って四人掛けのテーブル席に移動した。

 (……彼女ができたら同棲するかもと見栄を張って買ったテーブルだったけど、ようやく意味ができたな)

 明らかに持て余してたので、エリシャが座ってくれてこいつも本望だろう。自室のベッドもダブルほどではないが大きいもので、リビングのテレビ前にあるソファも三人掛けだ。控えめに見てもちょっとした黒歴史であり、今日という日が来て心底助かった。

 そんなどうでもいいことを考えながら調味料類を運んでいると、自室の方に移動していたエリシャが困った顔をして戻ってきた。

 「レンタ。やはりあの子も起こした方がいいでしょうか?」

 「あんまりにも起きないようなら、その時はその時で考えることにしよう。体調が悪いようにも見えなかったし、ここは慎重に行くべきだ」

 「……ですね。魔族となると注意するに越したことはないです」

 二人で女の子の対応を決めて席につき、異世界式の食前祈りを捧げようとした。するとエリシャが、せっかくなので日本の方法を試したいと提案してくれた。


 「それじゃあ、手を合わせて。いただきます」

 「えっと、イタダ、キマス」

 エリシャが何から食べるのか気になって見ていると、焼いた食パンを手に取った。

 「ん、おいしいですね」

 サクサクとしつつ柔らかい食感が気に入ったようで、何も乗せぬまま半分ほど食べた。そこでジャムも使ってみないかと言い、ブルーベリーとマーマレードの瓶を差し出した。

 「…………すごく綺麗に作られてますね。まるで宝石のようです」

 「そっちはオレンジって木の実からできてて、甘みと酸味と微かな苦みが特徴だ。ブルーベリーの方が甘みが強いから、そっちの方から試すといいかも」

 「ふむふむ、それではこちらの方から」

 エリシャはブルーベリーの瓶を手にし、パンの端にちょっと塗ってみた。口に入れてすぐ目が輝いたので、気に入ってくれたのだと分かった。続くマーマレードも美味しかったようで、満足そうな表情で食パンを食べきった。


 だいぶ食べ物に対する抵抗は消えたようで、スクランブルエッグも食べてくれた。卵が似たものでも異世界とは味の濃さが強く、ちょっとだけ驚いていた。それも気に入ってくれたようで、すぐに満足した表情でスプーンを口へ動かしてくれた。

 「レンタ、このソース漬けのような茶色い食べ物は何でしょう?」

 「あぁ、それはミートボールって言ってね」

 未だ問題は残されていたが、この一瞬だけでも忘れ二人で食事を楽しんだ。


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