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幕間『ある家族の一つの結末』

 いつの間にか俺は、暗く狭い部屋に独り立っていた。正面には微かに開いた扉があり、蛍光灯らしき明かりが差し込んでいる。

 扉の向こう側からは、耳を覆いたくなるような男女のどなり声が響いていた。そしてそれが一旦落ち着くと、今度は何もかも諦めたような声が聞こえてきた。


 「……もうこれ以上は一緒にいれない。娘も大きくなったし、来月に離婚しよう」

 「私もあなたの顔を見たくないですし、ちょうどいい頃合いです」

 続く話し合いは事務的なもので、どちらが自分たちの娘を引き取るかというものに変わっていった。いたたまれない思いで立ち尽くしていると、背後から女の子のすすり泣く声が聞こえてきた。


 振り返ると、そこには眼鏡をかけた黒髪の女の子がいた。女の子は部屋の隅にうずくまり、溢れる涙を手で拭い続けている。その見た目は中学生ぐらいで、どことなく見覚えがある気がした。

 (…………この子は、たぶん)

大人しそうな印象の顔立ちを見て、目の前にいる女の子が魔王に憑かれたミクルだと思い当たった。同時に今まで悪夢として見てきた光景が、ミクルの見てきたものだと分かった。


 (勇者の資格を持つ者同士だから、夢の中で繋がっているのか……?)

 根拠はないが、恐らくそうだろうと思った。試しに声を掛けてみるがやはり反応はなく、俺は手持無沙汰な気持ちで、ミクルの自室らしき場所を見渡した。すると壁に寄せて置かれている学習机の上に、倒れた写真立てがあった。

 気になって手を伸ばすと、意外にも触れることができた。そして女の子に気づかれぬようそっと写真立てを起き上がらせると、そこには楽しそうな家族の姿が映っていた。

 

 遊園地らしき場所でマスコットキャラに囲まれ、ミクルとその父と母は心からの笑顔を浮かべていた。小学生ぐらいのミクルは中心に立って二人と手を繋ぎ、本当に幸せそうにしていた。三人が三人とも、この先にある未来の輝きを信じていた。

 いつからこうなってしまったのか、もう戻ることはできないのか。そんな疑問を考えている内に、夢の空間がどんどんと暗く消え始めた。


 もう一度ミクルの方を見てみると、泣きはらした顔で一冊の本を読んでいた。タイトルは俺も知っている有名なもので、子ども向けの異世界冒険活劇だった。

 「……誰も必要としないなら、……私は」

 そう決意するミクルの声には、何かにすがるような寂しさがあった。


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