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第三十七話『家族団欒の時間と決戦への誓い』

 玄関先で靴と防寒着を脱いだところで、ルインだけでなく俺も危険な状態となっていたと気づいた。全体的に肌が霜焼けで真っ赤になっており、足はもっと酷いことになっていた。

 「……感覚が無いとは思ってたけど、思ったよりヤバそうだな。……って、どうしたエリシャ?」

 赤黒い肌を見てエリシャは絶句して固まり、即座に俺とルインの手を引いて自室に連行した。


 エリシャは焦りつつもテキパキと布団を敷き、俺とルインを並べてそこに横たわらせた。すぐに回復魔法による治療が始まり、そのおかげで肌の色も徐々に元へと戻っていった。

 そろそろ動いても良いかと身体を起こそうとすると、エリシャはむっとした表情で俺をベッドに押し戻した。

 「いいですか? レンタは重症なんですから、完治するまでそこにいてください」

 「大げさだって、ルインの方がやばいんだし。後はそっちに集中してくれ」

 また身体を起こそうとすると、エリシャがニコリと怖い笑顔を浮かべた。


 「―――レンタ、もう一度だけ言いますよ。黙ってそこに寝て治療を受けてください。い・い・で・す・ね?」

 「…………はい、分かりました」

 一瞬エリシャが魔王以上に恐ろしく見え、俺は大人しく従うことにした。


 顔を横にしてルインを見ると、今のエリシャの表情が怖かったのかプルプルと震えていた。もしかしたらだが、ルインも俺と似たようなことを言おうとしたのかもしれない。

 そこから三十分ほど治療を続け、ようやく起き上がる許可がもらえた。


 「よし、こんなものですかね。もうお風呂は入れてありますし、夕食前にいつも通り三人で入るとしましょうか」

 「そうだな。身体は治っても、まだ芯の方が冷えている感じがするし」

 「……うん、ルインも賛成」

 恒例の三人お風呂を、ルインは迷わず肯定した。記憶が戻ったこともあり断られるかもと思ったが杞憂だったらしい。俺たちはそれぞれ着替えを持ち、温かな浴室へと向かった。

 

 湯気が沸き立つ風呂場の浴室で、俺たちは三人一緒に湯につかった。俺とエリシャが両脇に座り、中心のルインは風呂の縁に背を預けている状態だ。

 かなりギュウギュウ詰めだったが、今日ぐらいはこれで良いと思った。

 「あー……生き返る。ルインはどうだ……」

 「はふぅ……ポカポカ……。何だか溶けちゃいそう」

 「だなぁ…………」

 会話すら溶けかけた状態でしていると、エリシャがふふっと笑みを浮かべた。そしてルインをそっと抱き寄せ、白銀の髪の上に自分の顎をそっと乗せた。


 「ママ……、どうしたの?」

 「お仕置きです。このままお風呂から上がるまで、私の抱き枕になってもらいます。……お仕置きなので、痛いぐらい……ギュッとしちゃうかもしれません」

 「………うん、いいよ」

 エリシャはルインを抱きしめ、静かに泣き出した。俺とルインは何も言わず、エリシャが落ち着くまでずっと傍に居続けた。


 風呂上がりの後、夕食ができるまでルインの髪をドライヤーで乾かしてあげた。ルインは俺の膝の上に座り、気持ちよさそうに目を細めている。こうして見ると以前と何も変わっていないようで、俺は嬉しくなって小さな頭をポンポンと撫でた。

 「んぅ? どうしたの、パパ」

 「いや、こうして過ごせるのが嬉しいなって思っただけだよ。ルインは違うか?」

 「…………うん、ルインも同じ気持ち」

 表情は見えなかったが、ルインは楽し気に足をパタつかせていた。

 エリシャが作った夕食はカレーで、瞬く間に完食となった。それから腹やすめもかねて一時間ほど各々過ごし、疲れもあるので今日は早めに寝ることにした。

 

 俺たちはいつも通りにベッドで川の字になり、中心のルインにぐっと身を寄せた。さらに左右からルインの両手を握り、身体を傾け空いた片手でエリシャと手を握り合った。

 「パパ、ママ。その体勢は窮屈じゃない?」

 「いいんだよ。これなら今日みたいに、ルインを手放してしまうこともない」

 「ふふっ、そうですね。それに温かくてすぐに眠れてしまいそうです」

 三人で身を寄り添っているので熱いぐらいだが、今日ぐらいはこれでいいと思った。それはルインも同じだったようで、満足げに微笑んだ後にふぁと欠伸をついた。


 「あのね……、ルイン。二人に会えて、本当に幸せだよ……」

 そう言ってルインは目をつぶり、すぐに深い眠りについてしまった。俺とルインはそのあどけない姿を見て笑みを交わし、心地よい気持ちのまま目を閉じた。

 「…………なぁ、エリシャ」

 「なんでしょう、レンタ」

 「絶対に、あいつに勝とうな」

 「はい、必ず」

 勝算は未だ薄かったが、俺は以前ほど不可能と感じていなかった。


 俺たち三人が力を合わせれば、どんな困難が立ちはだかっても乗り越えていける気がした。

 

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