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第二十一話『竹田家の皆と賑やかな飲み会』

 竹田家との飲み会は、夕方の六時ごろの開始となった。エリシャとルインを連れて店内に入ると、奥の小上がりから先輩の声が聞こえた。

 「――――おう! レンタ、こっちだ!」

 先輩の大柄な見た目と声に動揺したのか、ルインは俺の足に抱き着いた。大丈夫だと言い聞かせ近づいていくと、壁の影にいた先輩の妻らしき女性が姿を見せた。

 「初めまして、竹田勝男の妻です。今日はよろしくお願いします」

 「あっ、これはどうもご丁寧に」

 先輩の奥さんは『竹田凪』というらしく、美人でクールな印象の人だ。パリッとしたスーツが似合いそうで、今着ている私服もシンプルに整ったものだった。

 「お話は旦那から聞いてます。あなたがルインちゃんで、そっちがエリシャさんね」

 「ハッ、ハジメマシテ。ルインです」

 「初めまして、エリシャと申します」

 慣れない日本語なのでルインはだいぶカタコトだったが、エリシャはだいぶ発音を寄せて自己紹介をした。事前にエリシャとルインが外国人だと説明していたので、二人は感心しつつ納得していた。


 対面席に座って軽く話をしていると、トイレの方から子どもが一人歩いてきた。一見した年齢は五・六歳ぐらいで、顔立ちがどことなく先輩に似ていた。

 「よう、オレは真人だ。よろしくな!」

 小上がりに上がってすぐ腕を組み、何故かドヤ顔で真人少年は自己紹介をした。鼻先には少年らしく絆創膏が貼っていて、服装は十一月なのに半袖短パンだ。物怖じせず快活そうな印象を感じた。

 こちらからも返事をしようとすると、先輩の奥さんは無言で真人の耳をつまんだ。そしてニコッと冷たい笑みを浮かべ、小脇に引っ張り寄せて強引に座らせた。

 「……真人、いつも言ってますよね? 初めての人にはちゃんと自己紹介なさい」

 「たっ、竹田真人です。……よろしく」

 「よろしい。ほんと誰に似たんだが」

 奥さんのその言葉を聞き、先輩は冷や汗を浮かべて苦笑していた。家庭内の立場は奥さんが強いようで、両脇に座った二人は怯えたように居ずまいを正していた。


 俺たちが揃ったのとほぼ同時に、テーブルにはいくつかの料理が運ばれてきた。どうやら一通り注文してくれていたようで、足りない分は改めて足すこととなった。

 「煉太、お前は生ビールで良かったよな」

 「はい、俺はそれでいいです。二人はどうする?」

 そう言って視線を向けると、ルインはメニュー表に載っていたコーラを指差した。エリシャはだいぶ迷っていたが、せっかくなのでと日本酒に決めた。


 (……そういえば、エリシャって酒大丈夫なのか?)

 勇者一行として各地を回っていたこともあり、酒を飲むタイミングは多かった。だがエリシャはさほど飲まず、酔った仲間の介抱をしてた記憶がある。

 「日本酒ですか……、国の名前が入ってるということは、変わった製法や原料で作られたお酒なのでしょうね。どんな味なのか楽しみです」

 「もし口に合わなかったら、その時は言ってくれよ。俺が代わりに飲むから」

 「ふふっ、ではその時はお願いしますね」

 それから運ばれてきた飲み物で乾杯し、各々並べられている料理に箸を伸ばした。ふと隣を見てみると、エリシャは美味しそうに日本酒を飲んでいた。


 「……これは、とてもスッキリしていいですね。どこか果実的な甘さがあって、それをひき立たせるほどよい苦みもあります」

 「あまり酒が好きな印象はなかったけど、故郷では結構飲んだのか?」

 「そうですね、立場上飲む機会は多かったと思います。レンタと会った頃は忙しかったですから、酔わないように抑えてました。……ふふっ、何だか懐かしいです」

 エリシャはぽわっとした表情で微笑み、日本酒をまた口にした。少しすると酔ったのか顔が赤くなり始め、それに合わせコロコロと笑うようになった。

 「ふふふっ、レンタ。このカラアゲって料理は美味しいですね。ふふっ、せっかくですし私が食べさせてあげましょうか? ぜひそうさせてください」

 「いっ、いや。人目があるし、今はいいかな」

 「そうですか? ふふふっ、残念です」

 普段はしっかり者のエリシャが、酒を飲むと笑い上戸になるとは知らなかった。意外な一面を目の当たりにしてドギマギしていると、先輩が空になったビールジョッキをドンとテーブルに置いて俺に話しかけてきた。


 「それにしても、煉太にこんな素敵な彼女がいたとはな。電話では海外の人って言ってたけど、いったいどこで知り合ったんだ?」

 「あはは……、まぁネットの関係でちょっと」

 「ふーん、何にしてもめでたいことだな。ルインちゃんのことを聞いた時は独りで大変だって思ってたが、エリシャさんがいれば安心だな」

 幸いなことに、先輩は俺たちの出会いの詳細を聞いてこなかった。それに感謝しつつビール瓶を持ち、先輩の空ジョッキにゆっくり注いでいった。ふと視線を子どもたちの方に向けてみると、真人がチラチラとルインに視線を向けていた。

 (……髪飾りの下の角には気づいてはいないか。あの感じはルインが可愛いから気になってるってところかな)

 ルインも真人からの視線に気づいたようで、「どうしたの?」と小動物的な愛らしさで小首を傾げていた。すると真人は顔を赤くし、そっぽを向いたまま話しかけた。


 「……おまえさ、ルインって言ったっけ? どこのほいくえんに通ってんだよ?」

 「ホイクエン? それってなぁに?」

 「なにってそりゃ……。うーん、どうせつめいすりゃいいんだ? えっと、オレみたいなガキがいっぱい通ってて、あそんだりひるねしたりするとこだよ」

 「いっぱいであそぶ……、なんだかたのしそうだね。スズカちゃんも、そのホイクエンってところにかよってるのかな?」

 「……すずか? すずかって、あのぼうりょく女じゃねぇだろな?」

 お互いに手探りな感じだが、仲良くやってるようで安心した。視線を戻しつつ次の料理に箸を伸ばすと、エリシャと先輩の奥さんがいつの間にか仲良く会話していた。


 「ぞれでねぇ、エリシャさん! わだじはあのクソ上司に言ってやったのよぉ! なのにそれを無視して、あいづは現場に迷惑を掛けてざぁ!」

 「ふふっ、そうですね。ナギさんは頑張りましたね」

 「あの件だってわだじが企画したようなもんなのに! ぞれなのにさぁ!」

 「ふふふっ、えらいえらい」

 奥さんの方は酔ってろれつが回っておらず、俺ですら内容が上手く聞き取れなかった。だが辛そうなのは分かるようで、エリシャは優しくなぐさめてあげていた。

 (…………というか先輩の奥さんって、結構酒癖の悪い人なんだな)

 出会った時のクールな印象と違い面食らっていると、対面の先輩が「驚いたか」と言って笑っていた。そして先輩は全員を見回し、俺へと真面目な声で話しかけてきた。


 「煉太、ちょっと外に出ないか? 会社のこととか色々、二人で話そうぜ」

 「……ですね。俺も話したかったです」

 このまま仕事を続けるのか辞めるのか。すでに答えは決まっていたが、改めて先輩と意見を交わしたかった。

 「なら決まりだな。おーい、凪。俺たちちょっと外でタバコ吸ってくるわ」

 「はーい、行っでらっしゃーい」

 「エリシャ、ちょっとだけ外に行ってくる」

 「はい。子どもたちのことはちゃんと見てますので、ゆっくりしてきてください」

 頼りがいのあるエリシャの声を背に、俺と先輩は飲み屋の外へと出た。


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