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第一話『夜の街並みと待ち望む目覚め』

 スペース入れているはずなのに反映されない場所があります。随時修正していきますが、読みづらかったら申し訳ございません。

 数年ぶりの景色はどれも見覚えがあり、ただ歩いているだけでも涙が出そうなほどだ。

 途中何度かパトロール中のパトカーの光が視界に入り、その度に路地に身を潜めた。さっきの子が通報でもしたのか、それとも別の理由か、今日はやけにパトカーや消防車といった乗り物のサイレンが聞こえる。

 「…………行ったか? よし、進むか」

 今のボロボロな状態のエリシャと女の子を抱えてる姿を見られたら、確実に署にご同行をお願いされてしまう。自分自身でも何が起こっているか分からない状態なので、上手く説明してやり過ごすこともできない。細心の注意を払う必要があった。


 深夜という時間帯が幸いし、ほぼ誰ともすれ違うことなくアパートにたどり着いた。錆びた古い階段を登っていき、二階にある自室を目指した。

 ちゃんと部屋の鍵を持っているのか不安になったが、バッグの内ポケットに入っていた。扉を開けて中に入り、すぐに部屋の電気のスイッチを押した。軽い点滅のあと玄関が明るくなり、視界には少し散らかった1LDKの部屋があった。


 俺は急いでエリシャと女の子を自分のベッドに寝かせ、寒かったのでエアコンの暖房を入れた。ふと目覚ましにしている電波時計の日付を見てみると、時期は俺が旅立った時点の十一月下旬となっていた。

 (…………どういうことだ? あっちでは五年も暮らしたはずだよな)

 スーツの上着を脱いで自分の姿を見てみたが、異世界の冒険でついた筋肉はなかった。全体的に痩せ型の体形で、懐かしさと同時に違和感があった。まるで時間そのものが戻ったようで、鏡を見ても顔立ちに覇気は感じられない。

 エリシャという存在がなければ、間違いなく夢を見ていたのだと諦めていた。だが連れてきた女の子と、俺たちを見た女子高生という別の要因もあった。

 「夢じゃないとしたら、あの戦いのあとに何が起こったんだ?」

 いくらでも疑問は湧いてくるが、今はとにかく二人の看病が先だ。ヤカンに水を入れてガスコンロの火を点け、常備していた救急セットと飲み水を用意した。


 必要そうな物を持って自室に戻ったが、どちらもまだ目を覚ましていなかった。

 エリシャの方は怪我のせいか体調が悪そうで、頬を赤くして荒く息をついている。寝る邪魔になる魔道具の類やドレスを緩め、拭ける場所の汗を拭って傷に包帯を巻いた。絞りなおした濡れ布巾を額に乗せてあげると、だいぶ楽になったのか呼吸が落ち着いてきた。

 「よし、とりあえずは良さそうだ。……あとはこの子だけど」

 穏やかな寝息を立てている姿に、危険そうな気配は一切なかった。

 顔立ちは柔らかそうな丸っこさで、ぱっと見大人しそうな印象を受けた。だが俺が今まで相対してきた魔族は、子どもであっても容赦なく攻撃を仕掛けてくる恐ろしさがあった。

 「目が覚めてすぐ暴れられたら厄介だな。そうなったら、今の俺じゃ守れない」

 現状、今の俺に勇者としての力は残ってないと思われる。もしこの子が魔法を使えた場合は、何の抵抗もできず殺されてしまう。せめてエリシャが起きていれば良かったのだが、少なくても今夜は無理そうだ。


 「……今はどちらかが起きるまで見張ってるしかないか」

 夜の内か明日の朝か、気長に待つしかないだろう。今の貧弱な俺を見てエリシャがどんな反応を見せるか不安になったが、虚しくなるだけなので深く考えないことにした。

 自室の中央にあるローテーブルに肘をつき、エリシャを眺めながら時間を潰した。三十分、一時間と時が過ぎていき、少しずつ眠気が襲ってきた。

 (そういえば、明日は平日だし仕事か。さすがに出られる状態じゃないし、会社の人には悪いけど体調が悪いって言って有給にしてもらうか)

 そう簡単に有給が取れるようなホワイト企業ではなかったが、さすがにここは無理を言ってでも押し通すしかない。今からでも電話するべきだとスマホを手にすると、タイミングを合わせたかのように着信が届いた。


 画面に映っていた相手は、会社でお世話になっていた先輩だった。俺は体感で五年ぶりとなる相手とどう話したものか考え、自室を出て恐る恐る通話ボタンを指で押した。

少し間を置いて聞こえてきたのは、特徴的な低い男性の声だった。

 『おう、谷原か。今少し時間大丈夫か』

「えぇ、大丈夫です。何かありましたか?」

 こんな夜中にいきなり飲みの誘いということはないはず。となれば会社の方で何かあったのかと察したのだが、どうもそれは正解だったようだ。

『あー、何というかな。とても言いづらいことなんだが……』

 「もしかして、会社関係で何か起きました?」

 『……まぁ、そんなとこだ。先に結論から言うが、ついさっき会社が火事になって無くなっちまった』

 「え……?」

言っている意味が分からず、俺はポカンとした状態で固まった。


 詳しく話を聞くと、先輩は会社で何が起きたのか説明してくれた。ことが起きたのはわずか数時間前で、カギ閉めをして帰ろうとした先輩の目の前で会社に落雷が落ちたそうだ。

 『あの落雷は本当にやばかった。バリバリって映画みたいに連続で落ちてきて、すぐに建物から火が出たんだ。慌てて消防車を呼んだが、到着するころには全部焼けちまった』

 「あの鉄骨の建物が、そんなすぐに焼けたんですか……?」

 『信じられんのも無理はない。動画でもあれば良かったが、動揺してそれどころじゃなかった。ただ他にも見てた奴はいるし、ニュースにも出てるはずだぜ』

 気になったのでリビングのソファに座り、リモコンでテレビの電源を入れた。普段から見ている国営のニュースチャンネルをつけると、そこには凄まじい落雷を受けて燃え上っていく建物が映っていた。


 「…………これは、赤い雷?」

 建物以上に気になったのは、空から降り注いでくる雷の色だった。脳裏に思い浮かぶのは異世界で最後に戦った魔王の魔法で、俺は何かしらの関連があるのかと疑問に思った。

 『実はついさっきまで取り調べを受けて、たった今解放されたところなんだ。会社からの詳しい連絡はまた後日するが、色々と覚悟はしてた方がいいだろうな』

 元々大きな会社ではなかったので、このまま潰れる可能性もあるとのことだった。一応従業員は横のつながりがある会社に移れるそうだが、それもいつになるか分からず現状は自宅待機するしかないらしい。

 『まぁ用件はこんなとこだ。だいぶ仕事も慣れてきてたのに残念だったな』

「いえ、先輩もお気をつけて。それではお疲れ様です」

 対面してるわけではないがペコリと頭を下げ、俺は先輩との通話を終了した。そしてソファの背もたれに身体を預け、ハァと深々としたため息をついた。


 「……さすがに、考えることが多すぎて疲れた」

 異世界から日本に始まり、エリシャと魔族の女の子ときた。さらには会社の火事と魔王の存在など、どこから手をつけていけばいいのだろうか。

 (考えても答えは出ないな。後は明日の俺に任せるとするか)

 諦め半分で部屋に戻ると、二人はまだ寝入っていた。それを見守りながら床に腰を掛け、ローテーブルに肘をついて時間の流れに身を任せた。

 「…………明日……には、またエリシャの……声が聞きたい……な」

 部屋の電気を落とす間もなく、俺の意識はゆっくりと闇の中へと包まれた。ふと脳裏浮かんできたのは、異世界最期の冒険の記憶だ。


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