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第十七話『白の庭園と女神からの呼びかけ』

 ふと目を開くと、俺はどこか見覚えのある庭園に立っていた。

 辺りには色とりどりの花が咲き誇る花壇が並び、中心を通る道や仕切りの壁などはすべて真っ白な石で造られている。そして視線の先には白いテーブルと椅子が置いてあり、そこには湯気を立ち昇らせる紅茶が置かれていた。

 (ここは……女神の領域か?)

 女神というのは、俺を異世界アルヴァリエに呼び出した張本人だ。対談場所は基本この庭園で、普段通りなら女神が先に待っていた。


 しかし今日は姿が見えず、仕方がなく椅子に腰を掛けた。紅茶を飲みつつ待っていると黄金の光が対面座席に舞い降り、それは徐々に人型へと形を変えていった。

 「――――やっ、久しぶりね。救世の英雄、勇者レンタちゃん」

 砕けた口調で喋るのは、間違いなく俺が知っている女神だ。

 しばらくぶりにその姿を拝めると思ったが、光で構成された身体の輪郭はあいまいだ。どうしてその状態なのかと聞いてみると、女神はふぅと疲れ混じりのため息をついた。

 「これはアルヴァリエからそっちの世界に、無理やり思念を届けた影響ね。この空間もあまり長くは維持できないから、できるだけ簡潔に話をした方がいいわ」

 「分かりました」

 「まぁとはいえ、向こうの近況も知りたいだろうし、レンタちゃんと関りが深いところはちゃんと教えてあげるわよ」

 そう言うと女神は、今現在に至るまでの状況を話してくれた。


 まず疑問だったアルヴァリエの状況だが、こちらは魔王討伐の戦勝ムードの真っ只中だそうだ。勇者一行のメンバーも無事だそうで、今は全員療養の最中らしい。

 行方不明となっている俺とエリシャに関してはまだ詳細を隠しているらしく、傷を癒しているので表に出られないと公表してるそうだ。

 「困っているのは精霊人の長よ。まだ三日しか経ってないのに、早くエリシャ姫の姿を見せろって騒いで暴れて鬱陶しいのなんの。孫娘がかわいいのは分かるけど、もう千歳になるんだからそのへんどっしり構えてほしいわ」

 「もし俺が一緒にいるって知ったら、次元をこじ開けてでも来そうですね」

 「それは本当にそう。……はぁ、めんどくさ」

 女神は本当に疲れたようで、シルエット状の身体をぐでっとテーブルに預けた。


 それを苦笑しながら眺めつつ、俺はエリシャをめぐって起きたある一件を思い出した。

 (……そういえば、あの爺さんには苦労させられたな。故郷に立ち寄ったエリシャを無理に城に監禁して、最終的に俺が乗り込んで連れ出したんだよな)

 精霊人の長は大の人嫌いで、俺もかなり嫌われていた。エリシャを誘拐まがいの方法で連れ出して以降会っていないので、もし出会ったら殺されてもおかしくはない。

 (心配ならまだしも暴れるってのが、あの偏屈爺さんらしい……あれ?)

 ふと気になったのは、両世界の時間の流れが同じというものだ。それならば俺が日本に戻った時には時間が進んでいなかったのは、いったいどういうことだろうか。


 「そこは私も気になってた。本来なら二つの世界に流れる時間は、それぞれ別のものになっているはずなの。だけど今はどちらも、まったく同じ時の流れにあるわ」

 今アルヴァリエは夜で、民衆は祭りの準備に大忙しだと教えてくれた。

 「となれば、今日本とアルヴァリエは何らかの方法でつながっているんですか」

 「そうなるわね。恐らく魔王が関係してるんでしょうけど、そこに関してはこっちから調べようがなくて。レンタちゃんの方は何か知らない?」

 「一応ありますけど、現時点では何とも言えません」

 先輩に聞いた話や赤い雷のことを説明し、ルインのことも教えてみた。俺が話し終わると女神は身体を起こし、指の爪を噛むような仕草をしてぐぬぬと唸った。

 「……あいつ本当にどうやったら死ぬのよ。前にも伝えたと思うけど、先代の勇者が何人もあいつを倒してきたのに、魔王ガイウスはその度によみがえってきたわ」

 「何らかのカラクリがあるのは確実……、それがこっちでも成功したのが何とも不穏ですね。あまり考えたくはないですけど、ルインも無関係ではなさそうです」

 「えぇ、間違いなく二人の間に繋がりはあるでしょうね。現状で救いなのは、魔王も魔力不足で力を温存してそうって部分かしら」

 そこで一旦話が止まり、俺は他に聞くべきことがないか思い返した。


 (……そういえば、勇者の力が消えたことを言ってなかったな)

 日常生活に支障がないので忘れていたが、それも十分に大事だった。早速話をしてみると、女神は目を見開いて「信じられない」と呟き驚いた。

 「――――レンタちゃんが持っていた勇者の力は、そう簡単に消えるものじゃないわ。だってあの力は、資格を持つ者の肉体にしか宿らないはずなの」

 「日本に魔力がないから、俺が感覚を掴めないだけとか?」

 「まったくないとは言わないけど、なんか腑に落ちないわね」

 女神は怪訝そうにし、ああでもないこうでもないと思案し始めた。俺の方でも可能性を探っていると、庭園の景色が急にノイズが走ったようにブレた。すると女神をそれを見て落ち着き、やれやれとため息をついて居ずまいを正した。


 「……残念だけど時間切れね。今回はここまでとしましょう。またこうやって話せるかは分かんないけど、可能な限り努力してみるわ」

 「ならその時のために、俺の方でも手掛かりを集めておきます」

 「そうしてくれると助かるけど、絶対に無理しちゃだめよ。エリシャ姫とその魔族の子だけじゃ、その世界で生きていくことは無理なんだから」

 「……はい、肝に銘じておきます」

 徐々に女神の身体を構成している光が弱くなり、庭園も霞のように消え始めた。時間が経つと茶飲み場だけが残り、女神は席から立ち上がって俺の前に立った。


 「――――せめてもの手助けとして、私の加護を授けるわ。魔力的な攻撃や不慮の事故から、その身を守ってくれるありがたい力よ」

 そう言い、女神は俺の手を取った。すると手を通して魔力のようなものが流れ、身体の奥底に強い力が宿るのを感じた。

 「ありがとうございます。本当に助かります」

 「……重ね重ねになるけど、絶対に無理はしないで。約束よ」

 そう女神が言ったところで、光の身体は完全に消えた。連動するように辺りも暗くなっていき、俺の視界も徐々に薄れてきた。

 (やっぱり明日は、会社跡まで出向くべきだな。その前にエリシャへ今回の話をして、それで…………)

 色々と考えているうちに、俺の意識は眠りの暗闇へと落ちていった。


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