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洗濯物が揺れていたから

作者: 岩本ヒロキ

交差点に差し掛かり、信号の止まれを受けブレーキをかけた。

信号待ちという時間は原付バイクでは音楽を聴くことも携帯電話もできず、数分間の無が訪れる。その時間というのは日常生活において、僕にとってトイレにこもる時と今くらいかもしれない。

 交差点脇のアパートに見慣れない洗濯物を見た。確か、先日までその窓には賃貸情報のポスターがあったはずだ。交通量の多い交差点の角にあるアパートの2階である。排気ガスとか、騒音とか色々あるだろう。ピッタリと閉められた窓の向こうに等間隔に並んだ白いシャツが見える。新しい住人はよほどの几帳面なのだろうか。


 白い肌着、白いシャツ、黒い靴下の順に行儀良く並んだそれを見ながら新しい住人を想像する。


 その住人は、この窓がこの交差点を向いていることを知っている。そしてどんな洗濯物があるか見られていることもきっと知っている。したがって、あの洗濯物はある種のカムフラージュで、実は見えない部分に色とりどりの洗濯物が干してあるのではないか。ならば、単調な白と黒で固められたそれを想像するに、僕の中で新しい住人は男性であったが、そうとは言い切れないのかもしれない。大きな交差点に面しているからこそ、実は新しい住人は女性で、あの洗濯物は防犯用のカムフラージュかもしれない。ならば、その生活感のなさそうな色のそれがカムフラージュという使い方をしている可能性があるのだとしたら、女性や男性というだけでなく、実のところ、人が住んでいないのかもしれない。人が住んでいるように見せかけて、アパートの空室を少なく見せるという不動産屋の算段かもしれない。人が住んでいるというカムフラージュだとしたら、もしかするとあの部屋では何か事件が発生していて、住人があたかもまだ生きているように見せかけて犯人が丁寧に洗濯物を干してアリバイ工作をしているのかもしれない。


 僕は眼鏡を押し上げ、アクセルを回した。


 今日の昼はラーメンにしよう。

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