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第92話 「貴様の力は、貴様の存在は脅威だ」と総隊長は剣を向けた

前回までのあらすじ

先輩、大ピンチ!

元勇者、間一髪セーフ!!

総隊長、登場!!

(魔討隊のトップ? もっと最後に出て来るもんだと思ってたけど、早くない?)


 魔討隊を取り仕切る総隊長。その存在を知っていた怜士だが、そんな人物がこれほど早い段階で出張って来るとは思っていなかったためか、面喰っている。


「ふん……。貴様から感じられる力。成程、普通ではないな」


 阿形は、件の人物を値踏みするかのように、その姿をしげしげと見た。


「貴様は何者だ? 何処で、どのようにしてその力を得た?」

「正体は言えない。だから、こんな仮面を着けてるんだ。それと、俺のこの力は気付いたら手に入ったというか、勝手に与えられてたっていうか、何というか……」

「勝手に与えられた? ふざけたことを抜かすな!!」

(本当なんだけどなぁ……)


 阿形の問いに正直に答えたつもりだった怜士だが、これでは阿形は納得しない。仮面の男のふざけた回答に、彼は一気に霊力を放出させ、威圧した。


(これが、阿形隊長の力! お父様と比べても、遥かに上じゃない!!)


 阿形の霊力の波を間近で受けた琴音は、か細い身体を振るえさせる。自分の父親をも凌駕する、濃密で刺々しい霊力。これにただただ圧倒されるしかなく、琴音はその場にぺたんと座り込んでしまった。


「阿形殿……何故、貴方がここに? 予定とは違うようだが」

「幻獣型の大量発生など、流石に想定外だ。看過できん。それ故に出張ったのだ。尤も、既に彼奴が全て祓ったようだがな」


 阿形は、怜士を睨み付けると、腰に携えていた己の刀に手を掛けた。怜士を標的として捉えた証拠だ。ゆっくりと鞘から刀を引き抜いた阿形は、その切っ先を怜士に向ける。


「貴様のおかげで妖魔を祓う手間が省けた。この礼くらいは言ってやる」

(お礼を言うなら、人に刀を向けるのやめて!?)


 不敵に笑う阿形は、再度、怜士に問い掛けた。


「妖魔の大量発生と同じく、想定外なことがあった。それが何か分かるか?」


 怜士は、潔く首を横に振ることで答えを返した。


「簡単なことだ。貴様が度を越した異常な力を持っていたこと、これに尽きる。どうやったかは知らんが、妖魔の大群に加え、魔討隊の隊長格三人と複数の上級隊士を容易く屠る貴様の力。これを異常と言わず、何と言おうか」


 魔討隊の人間が自分の正体を掴もうと躍起になる理由。自分と接触し、戦闘を経て無力化しようとする理由。魔討隊の退魔師たちが、未知を恐れること。自分という存在が、現代世界においては異質なものであることを、怜士は改めて理解した。


「今ここで、その正体も含めた総てを明らかにさせてもらおう」

「……戦いの意志は無いんだけどね」


 怜士は両手を上げ、掌をひらひらと振る。


「ふん。貴様は、ある意味で妖魔よりも厄介だ。放っておくことができようか? ここで儂自らが叩き潰し、連れ帰る。なに、命までは獲らん」

(絶対、嘘だ)


 交戦の意志が無いことを示そうとしたが、それは無駄だったらしい。阿形は怜士の希望を聞き入れるつもりなど、毛頭ないようだ。


「こっちから先に手を出したことは一度もないけど」

「報告は受けている。今のところはそうだろうな。だが、この先の未来ではどうだろうか? 何でも言うぞ。貴様の力は、貴様の存在は脅威だ。我らの与り知らぬところに、正体不明の不穏分子を置いておくこともできん。ここで潰し、捕らえる」

(うわ、こりゃダメだ。話し合いにすらならない!?)


 仮面の男を制圧して捕縛するという魔討隊の考えが変わらないことを悟った怜士は、交戦は止むを得ないと判断した。


(……時間も限られてる。仕方ないな。一気に決めるか)


 ()()が迫っていることを自覚している怜士が覚悟を決め、応戦しようとしたその時だった。


「は~い、双方、そこまで!」


 一触即発の空気に支配された戦場に、些か緊張感に欠ける、柔らかい女性の声が響いた。そんな不意打ち気味に撃ち込まれた女性の声は、両者の闘志の一瞬で削いだ。


「もう此処に妖魔はいないんだから、これ以上の戦いなんかは無駄ではないかな? 阿形隊長。あなたが暴れたら、街一つ吹き飛ぶくらいじゃ済まないでしょうに」


 怜士と阿形の間に割って入るように現れたのは、艶のある栗色の髪を一本に結んだ、眼鏡を掛けた女性だった。


「それは君にも、仮面クンにも言えることだけどね」


 女性は、ゆっくりと首を動かし、“仮面クン”である怜士を見据えた。


(誰だ? 魔討隊の関係者だろうけど、服の感じが違うな。別の組織とか?)


 魔討隊の面々は揃いの装束を纏っているが、眼鏡の女性はそれとは異なる衣服を身に着けている。新たな組織の人間が現れたと考えるのが自然だった。


「久しいね、琴音。もうすぐ終わるから、安心なさいな」


 眼鏡の女性は微笑みながら、未だ座り込んでいる琴音の方を向く。彼女は琴音に向けて、ひらひらと小さく手を振った。


御堂清華(みどう せいか)、何をしに来た?」


 割って入られたことに立腹しているようで、阿形はドスを利かせた声で眼鏡の女性へ、御堂清華へ問い掛ける。


「ああ、決まってますよ。この戦いに一度、幕を引くためです。隊長三人を擁しての戦闘は相当な周囲に大きな被害をもたらしているし、予期せぬ高位の妖魔の出現もあって街はさらにメチャクチャのメチャクチャ……。この惨状、流石に政府だって看過できない。さっきも言ったように、阿形隊長まで暴れたら取り返しがつかないでしょう?」


 両手を上げ、お手上げのポーズを取った御堂は、再び怜士を見やると、にっこりと微笑む。


「仮面クンがなるべく周りに被害を出さないように努めてくれたのは小さな救いでしょうかねぇ」

(何なんだ? この人? そう言えば、さっき、和泉先輩の名前を呼び捨てにした。知ってる人かな?)


 突如現れた、御堂清華なる女性。飄々とした雰囲気を持ち、独特な物言いをする彼女に、怜士が警戒心を抱くのは当然だったが、琴音を名前呼びする間柄らしいことが分かると、それは緩む。


「それと、意地っ張りの琴音を組織ぐるみで追い込んでいく粛清紛いの馬鹿馬鹿しい計画。こんなもの、黙っては見てはいられない」


 それまでとは打って変わって、御堂は厳しく、険しい表情を見せた。


「阿形隊長。私に免じてこの場はこれで納めてもらいましょうか。ああ、ついでに、壮弦さんも」

「……クッ! 女狐が」

「女狐ですか。ま、何とでも言ってくださいな」


 眉間に皺を寄せた阿形は、研ぎ澄ませていた霊力を緩めながら刀を鞘に納めた。


(は? あの殺気ムンムンだった総隊長さんが従ってる!? すっごく渋々だけど……)


 戦うことしか考えず、聞く耳すら持っていなかった阿形が御堂に従い、闘気を沈める様子を見た怜士は困惑し、驚愕した。


(パッと見で感じられる力はそれほどでもないけど、油断はできない)


 怜士自身も放出する魔力のコントロールは可能であり、そうした力を抑える道具も持っている。目の前に見えるものが全てではない。それ故に、御堂には警戒心を向け続ける。


「仮面クンも、そんなに警戒しなくていいよ。阿形隊長も壮弦さんも退いてくれるみたいだから、君も合わせて欲しいな。ま、君は積極的な暴れん坊じゃなさそうだから頷いてくれると思っているけど?」


 おどけて言う御堂の態度に、先程まで抱いていた警戒心は霧散していく怜士。彼としても、無駄に戦闘を続けるつもりはない。相手が退くならば、自らも退く。そう決めた怜士は御堂の提案に同意し、彼女の言うように頷いて見せる。


「やあ、ありがとう。助かるよ。さて、阿形隊長。隊士の皆さんには撤退指示をお願いしますね」


 仮面の男から承諾を得て満足した御堂は阿形に向けると、魔討隊の撤退の要請をした。御堂は阿形の返事など待たず、クルっと身を翻し、琴音のもとへと駆け寄った。


「なかなか酷い有り様だ」

「先生……」

「正直、琴音の戦闘は何も見ていないんだよ。普通に、間に合わなかったからね。しかし、感じられる霊力や妖力の残滓を見るに、琴音がグンとレベルを上げたのは簡単に理解できたよ。強くなったね、琴音」


 御堂は、座り込んでいた琴音の頭を赤ん坊でも扱うかのように優しく撫でた。緊張の糸が切れたらしく、琴音は、その目に大粒の涙を浮かべていた。



更新がとっても遅くなりました。すみません……。


いつもご覧いただきありがとうございます!

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