第88話 「そんな馬鹿な」と先輩は戦慄した
~前回までのあらすじ~
先輩、奮闘する
副隊長たち、総攻撃
隊長、参戦
(ほら、見たことか。息、合い過ぎなんだよ)
早見姉妹による、疾風怒濤の攻撃。抜群のコンビネーションで攻め続ける二人の攻撃は怜士に反撃する隙を与えない。仮に反撃のための隙が生じたとしても、そんなものはすぐに潰される。
「ウオオオオオオ!! 『雷陣衝廷』!!」
攻撃動作を取ろうとした怜士に向けて、草薙が全力の霊術を叩き込もうとする。回避しようとする怜士だが、右足に、数分前と同じような違和感を覚えた。
(また!?)
花岡の鞭が怜士の右足を捉えていた。彼女は、自隊の隊長の攻撃の援護に徹していたのだ。ニヤリと笑う花岡の表情はとても意地が悪く見える。右足に、花岡に気を取られたことで、迫る草薙の攻撃に対応するのが遅れてしまう。
「グッ!!」
空から降り注ぐ、無数の雷の雨。これまで戦った魔討隊の人間の雷系統の術とは比較にならない出力。隙を突かれて直撃をもらったこともあり、怜士は身動き一つ取れない。
「チャ~ンス!」
「エイミー!!」
仮面の男の動きが止まった絶好の機会。早見姉妹がこれを逃すことは無い。彼女たちは霊力を一気に高めた。姉妹だからか、霊力の波長は見事に合うようで、綺麗に混ざり合っていく。
「『烈風翔覇』」
淡い緑色の閃光を伴う、竜巻が怜士のもとへ一直線に向かう。ものの数秒でこの竜巻も怜士に直撃した。
「ガハハ!! これで終わりじゃないぞい!!」
早見姉妹の連携攻撃の余波が残る中、残りの隊長の一人、一ノ瀬豪志は大声を上げながら自慢の大剣を振りかざした。ただただ己の霊力を武器に乗せ、力任せに叩き込むだけの一撃。一ノ瀬の濃く高い霊力をただただ炸裂させるだけの一撃。技と言えるものではない。しかし、その一撃は、誰が放つ技よりも、遥かに威力があった。
「ふんっ!!」
一ノ瀬はもう三度、追加で剣を振り下ろした。部下たちの攻撃を余裕で退けた敵。久しく見ぬ強者に興奮した一ノ瀬の歓喜の証拠だ。彼が剣を振るう度、怜士の足元にあったクレーターは、さらに深く、広くなっていく。
「そうだな! 同意してやるよ、一ノ瀬のオッサン!!」
一ノ瀬が一撃を叩き込んだ直後、草薙も再び仮面の男に攻撃を加えた。徹底して仮面の男を潰すため、草薙は霊力を全開にしてその刀を振るった。それまでの雷撃とは比較にならないほどの超高電圧の一閃が飛ぶ。眩い閃光が辺り包み、空気が大きく震えている。
「俺の『雷禍の太刀』はどうだ? そこいらの普通の雷なんか目じゃねえだろ、この野郎!!」
「危ないじゃないか、草薙! もう少しで俺も巻き添えだったぞ?」
草薙の攻撃の巻き込まれるところだった一ノ瀬が文句を言うも、草薙の耳には届いていないらしく、何の返答も無い。そして、返答が無いのは、攻撃の的になり続けていた怜士も同様だった。
「……しまったな。流石にやり過ぎたか?」
一ノ瀬が動揺を見せた。今回の任務は仮面の男を捕縛すること。これは、魔討隊の頂点たる、総隊長の阿形の厳命だ。彼を怒らせると面倒なことになると想像した一ノ瀬の顔は、焦りの色で染まったが、それも杞憂で終わりそうだ。その瞬間、クレーターの底から、仮面の男がヒョイっと飛び上がって来た。
「凄いもんだ! まだピンピンしとる!!」
「感心してる場合か!?」
纏う衣服こそ、損傷しているが、仮面の男自身がダメージを受けている様子は一切見られない。戦闘続行可能と判断し、嬉々とする一ノ瀬と、自身の最大の技を受け切られたことに焦る草薙。
「どうしよ、お姉ちゃん」
「流石に予想外。どうしましょうか」
早見姉妹の妹で楽天家のエイミー。そんな彼女すら、動揺を隠せないらしい。姉のケイトも目を大きくし、冷や汗を垂らした。
「おかしいな」
「おかしい、と言いますと?」
琴音が一人で妖魔を祓っていく姿を遠巻きに見ている壮弦が呟く。傍に控えていた日高がそれに反応した。
「あいつにあれ程の力があったか?」
壮弦は娘の実力を目の当たりにして怪訝な顔をしている。
「雑魚も多く混じっているとはいえ、あの数の妖魔との連戦。いくら琴音であっても荷が重いはずだ。それに、それなりの妖魔とも渡り合えている」
「……確かに。それなりの余力を残した戦いですね」
琴音の実力が高いことは確かであり、壮弦もそれは認めている。色眼鏡無しの客観的な評価だ。しかし、一定以上の等級の妖魔相手に苦戦を強いられることもあれば、魔討隊の上位隊士には数歩以上も及ばない。琴音はまだ経験の浅い少女。正しく言うと、“実力は高い方”だろう。それが壮弦の、娘に対する評価である――はずだった。
「心なしか、術の威力が以前よりも上がっているように見えますね。琴音さんから感じる霊力も、増しているように思います。う~ん、琴音さんは発展途上。私も彼女と会うのは半年振りです。単に成長されたのでは?」
「……ふん。成長か」
壮弦は面白くなさそうに鼻を鳴らすと、自身に襲い掛かって来た妖魔を斬り伏せた。
「琴音がどれほど力を付けていようと、処遇は変わらん。相応の咎は受けるものだ」
(実の娘だというのに、これほど厳しいのか。確かに琴音さんがしたことを思えば、和泉の家として放置はできない。当然の結果、ですか)
和泉家に長年仕えて来た日高にとって、琴音は妹のような存在だ。壮弦の琴音への態度には思うところがあるようで、苦々しい表情を見せている。
「……何も踏み出せない自分に、何かを言う資格はないか」
自嘲気味に零す日高の拳を握る力は強くなる。彼の視線は、一人で妖魔を祓い続ける琴音にだけ注がれていた。
「『放閃花』」
琴音は霊力錬成を素早く行うと、得意な霊術を目の前の妖魔の群れに撃ち込む。花弁が舞うように放たれる光の刃は次々と妖魔を襲う。妖魔は、琴音の霊力を帯びた光の花弁に触れた途端、その身が崩壊し始め、あっという間に祓われた。
(放閃花の威力が上がってる……)
厳しい条件の中での戦闘中だということを忘れ、微かに口元を緩ませる琴音。これまでは小技に過ぎなかった放閃花が大きく威力を上げ、大技と数えてもよいくらいになった。霊力錬成による霊術の強化と効率化を実感する琴音の感情が漏れ出すのも無理はない。
確実に伸びている自分の力に高揚していたその時、琴音の足元から、醜い土竜のような妖魔が出現し、その爪で彼女を切り裂こうとした。
「不意を突いたつもり? 防御だって抜かりないわ。『護封甲』」
琴音は一瞬で霊力錬成を行う。すると、彼女の前に亀の甲羅を模した盾のようなものが現れた。その盾は妖魔の凶爪を弾き、琴音を護る。
(霊力で創る護封甲。基本的な霊術だけど、霊力錬成のおかげで通常よりも高い防御力を発揮できる。志藤君に教えを乞うたのは、正解だった!)
怜士に感謝の念を送りつつ、琴音は次なる標的の妖魔へと狙いを定めた。その時、遠く離れた場所から、大きく高まる力を感じた。
(この大きな霊力は!?)
極めて強大な霊力を感知した琴音は、目の前の妖魔を祓ったところで意識をそちらに向けた。びりびりと肌を刺すように伝わる霊力は隊長格のそれであり、発生源の方角を踏まえても間違いがないことを琴音は悟った。
(こんなにも早く出張るの!? それも、三つ!!)
琴音は、隊長相手でも問題なく戦えると自信満々で言っていた怜士の顔を思い浮かべる。
(これは分が悪いとか、そんな問題じゃないでしょう)
「三人もの隊長を同時に相手取るなど、流石の怜士でも無茶が過ぎる」と、琴音は不安を抱いた。魔討隊の最高戦力が三人。それ以外にも実力のある人間が複数。災害でも起きた方がまだ優しいのではないかと疑いたくなるほど惨状を容易に引き起こすことも予想される。
(……いえ、貴方ならきっと大丈夫。貴方の心配をするよりも、私は自分の心配をするべきね。私は私のすべきことを――)
自分の物差しでは測ることができない不思議な元勇者。彼の心配をするには自身は未熟過ぎる。そう考えた琴音は、自分に出来ることをただ全うしようと考えた。怜士を信じ抜くこと。そして、目の前の妖魔を祓うこと。
「やってみせる」
決意を新たにした琴音は、際限なく湧き続け、襲い来る妖魔を祓い続ける。自分を否定し、侮り、排斥しようとする父親たちに目に物を見せる絶好の機会。次の攻撃を仕掛けようとした瞬間、彼女は体温が一気に下がるのを感じた。
「そんな馬鹿な」
音も無く、まるで影から生まれ出たかのように静かに顕現した新たな妖魔の存在。この妖魔を認知した瞬間、琴音に限らず、壮弦と日高も身体中が強張った。この個体が発する妖力は計り知れず、暴力的な圧を周囲に与え続ける。
「……幻獣型? 馬鹿な」
日高は情けなくも、その場で腰を落としてしまった。
一か月も空いてしまいました!!
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