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第87話 「そのとーり!」と隊長は笑顔を向けた

~前回までのあらすじ~

隊士たち、総攻撃

副隊長、ヒステリック状態

元勇者、ビビる

(……まったく、数が多いわね)


 怜士が副隊長三人の攻撃を捌いていた頃、琴音も妖魔の対応に追われていた。際限なく湧き出る妖魔の数の多さに辟易とする琴音だったが、今のところ苦戦はしていない。


(でも、かなり余裕をもって戦える。修行の成果が出てる)


 霊力錬成の修行に費やした時間は決して多くはなく、完成しているとは言い難い。だが、琴音の地力は間違いなく以前よりも伸びている。効率よく霊力を錬って術を使えるようになっただけでなく、基礎霊力も上昇しているのだ。それが数の不利すらも跳ね除ける。


「早く片付けましょう」


 琴音は展開した霊術を容赦なく叩き込み、複数の妖魔を一掃して見せた。


(さっきから遠くで幾つもの霊力の高まりを感じる。それに交じって志藤君の魔力も。やっぱり、向こうで魔討隊と彼がやり合っていると考えるのが自然。いえ、必然ね。私が移動するのを見計らって、攻撃を受けた? 姿を隠せる、あの外套を持つ志藤君をどうやって補足したのかは分からない。とにかく、私と彼を上手く分断したのは確かか)


 不穏分子を誘うため、再び自身が餌にされることは琴音が最初から予想していたことであり、彼女は覚悟もしていた。しかし、街一つを舞台にして二人を隔て、仮面の男に戦いを仕掛けるとは、流石の琴音も思いもしなかった。妖魔の出現は偶然であったにしろ、魔討隊の狙い通りに事態が進んでいると考えると、琴音の心中は穏やかではない。


(まずはこの場を収めてみせる。私のために力を貸してくれる志藤君のためにも)


 怜士の様子も気なるが、まずは自分の置かれたこの状況を打破することが先決だと判断した琴音は術に込める霊力を一層、研ぎ澄ませる。


「もう、足を引っ張るだけで終わりはしないから」


 命を貪らんとする妖魔を祓うべく、一人の巫女は己を奮い立たせる。離れた場所で戦う元勇者の存在を感じながら。







「……チャ、チャンスだね。早見副隊長」

「え、ええ。行きましょうか」


 仮面の男と戦っている宮島の豹変を見て揃って呆けていた花岡と早見。彼が溜めに溜めたストレスを戦場で発散しがちなことは知っている二人だが、流石に目の前でその光景を見ると、たじろいでしまうらしい。平静を取り戻し、呼吸を整えた二人は、仮面の男も宮島の行動に引いている今こそが好機と見て動いた。


「『暴雷蛇(ぼうらいじゃ)』」

「『飛燕断(ひえんだん)』」


 花岡の振るう鞭は雷を纏い、暴れ狂う大蛇のように。早見の掌から放たれる疾風は空を駆ける燕のように。高まった霊力の奔流は、必殺の術となって放たれた。


(あっちからも!!)


 目の前にいるヒステリック状態の宮島の相手に集中し過ぎて他への警戒がおざなりになっていた怜士は慌てて防御姿勢に入る。


「余所見ですか、余所見ですか!? 私の攻撃は屁でもないと!? ならば喰らいなさい、『業火槌(ごうかつい)』!!」

(げっ!!)


 怒りに任せた乱撃だけだった宮島もここ一番の大技を放った。刀から一気に噴き出した爆炎は空中でその形を変え、巨大なハンマーをかたどる。文字通りの大火力で仮面の男を焼き潰すつもりらしい。宮島が刀を大きく振り下ろすと、炎のハンマーもそれに同期するようにして仮面の男に振り下ろされる。


 三人の副隊長による強力無比な同時攻撃は確実に仮面の男を捉えた。轟音に爆風。凄まじい威力の技が三つも重なったその余波は確実に周囲に影響を与えている。立ち込める砂煙や散らばる瓦礫がその証拠だろう。


「宮島副隊長、花岡副隊長。まだ気を抜かないでください」

「分かっていますよ、早見副隊長」

「もち!」


 早見の呼び掛けに答える宮島と花岡。得体の知れない敵の実力は未知数。妖魔と戦う時よりも警戒を強めることは当然だった。


「は!? そんな!?」


 十秒ほどの静寂の後、宮島が叫んだ。その声は、それまでの警戒態勢を吹き飛ばす。彼の視線の先には、銀の仮面を着けた男が無傷で立ち尽くしていたのだ。


「驚いたね。ハハ……」


 宮島のように叫びこそしないが、花岡も目を見開き、乾いた笑いを無理に吐き出していた。自分が得意とする技を確かに叩き込んだにもかかわらず、標的は毛ほどもダメージを負っていない。経験豊富な花岡でも、これ以外の反応ができないのである。


(あれは盾? 見たところ普通の盾に見えるけど、あれが私達の攻撃を防いだことに間違いはない。でも、さっきまではあんなものは持っていなかった。いつの間に?)


 早見も驚きや焦りの感情を抱いているが、それでも、冷静に状況を分析している。彼女の目に留まったのは、仮面の男がいつの間にか装備していた盾だ。早見は男が無傷でいる理由について、間違いなく盾の防御効果によるものだと、すぐに理解した。


(……考えても無駄ね。切り替えましょうか)


 仮面の男が異世界帰りの人間であることや、彼が異世界由来の武器や防具を自在に出し入れできる腕輪をもっていることなど、想像が及ぶはずがない。早見は大きく息を吸い込むと、落ち着きを取り戻す。


「二人とも! 次へ移ります!」


 早見の声を聞いた宮島と花岡は我に返ると、後方へ向かって思いきり跳んだ。


(次? 一体何が――)


 “次”というのが、何を指すのかまでは分からない。警戒心を強めたところで、三つの霊力の爆発的な高まりを感じた怜士は、咄嗟に盾を構えた。次の瞬間には、それまでとは比較にならないほどの大きな衝撃が彼を襲った。離れた位置にある建物のガラスは割れ、アスファルトには更なる亀裂が走り、街路樹や自動車は紙くずのように簡単に吹き飛ぶ。そして、怜士を中心に大きなクレーターが生まれた。


 いつの間にか自分の目の前に現れた三つの影。これらが先程の衝撃の原因であることは明らかで、怜士はその正体を簡単に理解した。


「防ぎやがったのか!? でもなあ、もう思い通りにはなんねえぞ! 覚悟しろ!!」

(確か、草薙って呼ばれてた人だな。え? 何かメチャクチャキレてる……)


 目を血走らせ、激しい怒気をほとばしらせている草薙の迫力に、怜士はやや気圧された。彼が部下の失態を責められたことでプライドを傷つけられ、怒り心頭であることを怜士は知らない。


「へえ、強いんだねえ、キミ。戦うの、楽しみになったよ!」

(あれ? この女の人、さっきの副隊長さんと似てる?)


 無邪気に笑う女性を見て、怜士は今まで相手をしていた女性と容姿や雰囲気が似ていることに首を傾げた。


「ああ、その通り!! いやあ、久しく見ん強敵!! 我慢した甲斐があった!! 血が滾る!! 燃えるぞぉ!!」

(あ、駄目だ。この人、そっち側の人だ。これは面倒になりそうだ)


 闘気を微塵も隠そうとせず、笑顔を振りまく大男。彼が紛れもない戦闘狂であることを察した怜士は肩を落とした。


「今になって出て来るのか。ここからが本番ってことか」


 魔討隊が誇る最高戦力である隊長。その隊長三人が、新たなる敵として漸く、怜士の前に立ちはだかる。怜士は槍と盾を構え直し、ゆっくりと息を吐いた。


「そのとーり!」

「ん!!」


 一瞬で距離を詰めた女性隊長は、トンファーを装備した両腕を思い切り振った。怜士は盾を用いて受け止めることに成功したものの、竜巻でも起きたかと感じるくらいの衝撃が襲う。


「わ~、防いじゃうか。凄いね、キミ! 私は“早見(はやみ)・アメリア・エイミー”! 魔討隊烈風の隊長だよ、ヨロシクね!」


 笑顔で名乗りを上げた早見隊長は、その笑顔のまま、怜士の顔面を狙ってトンファーを突き上げた。


(ニコニコのスマイルを振りまきながら、なんて物騒なモンを振るうんだ!?)


 後方へ跳び、紙一重で回避に成功した怜士が見たのは、攻撃を躱されて不貞腐れている早見隊長だった。


「油断しないことね」


 仮面の男にできた大きな隙を見逃さないのは、副隊長の早見だ。空中で無防備な相手に向かって、鋭い斬撃を見舞った。本日何度目か分からない不意打ち。全てを防いできた怜士だが、今回の攻撃に関しては直撃をもらった。


 数メートルほど吹き飛ばされた怜士だったが、すぐに立ち上がり、目の前の人間二人を見つめる。()()()()()()と、()()()()()を。


(顔とか雰囲気とか、霊力の波長もメチャクチャ似てるし、どっちも“早見”。まあ、姉妹か何かかな? 兄弟姉妹の連携って面倒なんだよな。息、合いまくりだもん)


 異世界での戦いの経験から、血縁者同士は高度な連携を繰り出し易いことを知っている怜士は警戒を強めた。赤の他人同士が組むよりも意思疎通が円滑で、「テレパシーでも使えるのか?」と疑いたくなるほど息の合った連携を見せることがある。気を抜けば、先程のように思わぬ一撃をもらうこともある。それに、今回は早見姉妹と同格以上の相手が他に四人もいるのだ。


 予想外の乱戦への対応を迫られた怜士は気合を入れ直し、仮面を深く被り直した。


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