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第84話 (迂闊に魔法を使うんじゃなかった!!)と元勇者は後悔した

~前回までのあらすじ~

魔討隊、登場。

先輩、疑念を抱く

元勇者、救助活動中

「着きました。指定されたポイントです」


 日高は一言、そう呟くと、自動車のブレーキをゆっくり踏んだ。


「琴音。お前ひとりでやってみせろ」

「……分かっています」


 魔討隊の指示に従って、崎城市北東地点に辿り着いた琴音らは早速、妖魔の討伐に取り掛かる。しかし、それをするのは琴音のみだ。壮弦たちは手を出す素振りすら見せない。


(まあ、そう来るとは思っていたわ)


 ここへ来る前、壮弦は琴音に「信念を見せろ」と言った。また、「活躍如何でこれまでの行いを水に流し、魔討隊との関係修復を取り計らう」とも言った。それを実現するための一番手っ取り早い方法。それは、琴音が独力で妖魔を祓ってみせることなのである。


(大丈夫。志藤君との修行で少しは地力が伸びた。それに、試してみたいこともある。やってみせるわ!)


 琴音は壮弦を一瞥すると、無言で自動車を降りた。


(志藤君。何かあればきっと、今までみたいに私を助けて、護ってくれるのでしょうね。でも、今だけは手を出さないで。私だけでやり遂げるから)


 琴音は、近くに潜んでいるであろう怜士に向けて己の決意を心の中で語る。声に出し、合図を送ると、怜士の存在が知られてしまうからだ。また、二人の繋がりがより明白になることは避けるべきだからだ。


「……さあ、頑張りましょうか」


 この一言だけ、琴音は口に出した。自身を鼓舞する意味もあったが、せめてこの意気込みくらいは怜士の耳に届いて欲しいという意味もあった。しかし、彼女の決意は届かなかった。この時、付近に怜士の姿は無かったからだ。




 琴音が意気揚々と妖魔討伐に挑もうとしていたその時、怜士は離れた場所で妖魔と対敵していた。


(ああ、クソッ!! 先輩、行っちゃったよ!? でも、突然現れて暴れ出したコイツを放っておくこともできない!! まだ近くには人がいる……!!)


 琴音の後を再び追い掛けようとしたところに現出した妖魔。三メートルを超える、狒狒の妖魔だ。咆哮するだけで空気が震え、大きな圧を放ち続けている。避難している人間がいる以上、無視することなど、選択肢として有り得る状況ではない。琴音の動向を気に留めつつ、怜士は目の前で暴れ出す妖魔を倒すことにした。


「こっちの姿、見えてないだろ? 悪いな、一方的で」


 幻影の外套の効果で姿も気配も、魔力も完全に消し去ることができている怜士は、妖魔の正面から魔法を放った。


「『灸火(ぎゅうひ)』」


 怜士の指先から、直径一センチメートルほどのレーザーのような閃光が放たれた。その閃光は妖魔の身体を易々と貫通した。


「グギャアアアアラアアアッ!!!!」


 妖魔がおどろおどろしい叫び声を上げた次の瞬間、全身が灼熱の炎に包まれて燃え始めた。怜士が放った魔法による技。まさに必殺だった。


(さあ、急ぐか……って、ええっ!?)


 妖魔を祓ったことを確認した怜士はすぐにその場を離れようとするも、次々と妖魔が湧いて出て来る。


「何だよ、コレ!?」


 幻影の外套を装備している怜士の存在を妖魔が認識していることは有り得ない。故に、妖魔はただただ暴れ、破壊の限りを尽くそうとしている。それが偶々、怜士の行動を阻害しているのだ。


(俺の邪魔でもしたいのかよ!!)


 妖魔を祓わなければ先に進むことができない。そして、無視をすれば被害が拡大する一方だ。止むを得ず、怜士は妖魔の大群に攻撃を仕掛けた。


「……速攻で終わらせる!!」


 避難している一般人からすれば、何かが突然爆発し、炎上しただけにしか見えていない。人々の混乱は大きくなり、恐怖心も加速するが、魔法による攻撃で確実に妖魔の数は減っている。怜士の活躍で多くの命が救われていると言っても過言ではなかった。三分も経たないうちに、周囲の妖魔の気配はすべて消え去った。


(よしっ!! これで…………って!?)


 すぐに琴音の元へ向かおうとした怜士は、自身の身体に違和感を覚え、動きを止めた。正しくは、自身が身に纏うアイテムにだ。


(げっ!? しまった!! 時間切れだ!!)


 最高の隠密アイテムである、幻影の外套。このアイテムの唯一の欠点は、効果の発動に制限時間があり、連続使用ができない点にあった。周囲の背景に溶け込んで姿を消し、その気配や魔力の波動すらも消し去っていた外套。怜士は琴音を陰から護るため、自宅からずっと外套の効果を発動させていた。湧き溢れた妖魔の相手をしていたことで、遂に制限時間が来てしまったのだ。


(仮面を着けてると言っても、今、姿を晒すのはマズイぞ! どこかへ――)


 一度姿を隠そうと思案しかけたその瞬間、怜士の姿が初めて明るみになった。


「こんだけ派手にやりゃあ、姿を隠してても、嫌でも気付けるわなあ」

「フ~ン。これが噂の仮面の人~? 強そうに見えないけどね~。この人、ぶっ飛ばせばいいんだよね?」

「まあ、戦闘になればそうなるけど、あくまでも最終的には捕縛することが目的よ?」


 背後から聞こえる声。他に、複数人の気配や霊力も感じられる。予想は付いているが、確認のため、怜士はゆっくりと振り向いた。


(迂闊に魔法を使うんじゃなかった!!)


 姿を隠していても、妖魔を手早く祓うために魔法を使った怜士。勝手に消滅していく妖魔を見れば、誰でも不審に思うだろう。怜士の失策だった。


(ん? あの人達、この前とその前に戦った奴らだ! 他に知らないのもたくさんいる)


 二度にわたる、魔討隊の隊士らとの小競り合い。そこで相対した人間が目の前に集まっている。それ以外にも多くの隊士がいる。数を集めて怜士を潰しにかかるという算段は容易に理解できた。


「仮面で見えねえが、きっと不思議に思って馬鹿面してんだろ? 何で俺らが総出でこうして集まったか、教えてやろうか?」


 怜士が初めて戦った退魔師、戸塚が声を上げた。人を小馬鹿にするような、いやらしい笑みを浮かべている。


「戸塚。ペラペラと喋るものじゃあ、ありません!!」

「痛えっ!?」


 戸塚の横にいた男性が、彼の頭を平然とぶっ叩いた。


「……得体の知れない相手に情報を与えないこと。それは鉄則でしょうに」


 丁寧な言葉遣いとは裏腹にバイオレンスな一面を見せたのは、猛火所属の副隊長、宮島岳人だった。


「まあ、御託はいいんだよ。おい、仮面野郎!! お前が好き勝手やってくれたせいで、こっちは色々と面倒なんだよ!! 今日! 此処で! お前を潰して、仮面の下の素顔を晒してやるよっ!!」


 一歩前に出て怒鳴り散らすのは、草薙誠。魔討隊の頂点の一人、所謂、隊長だ。他と比べて装束に違いがあることから、彼が特別な人間であることは誰でも想像できる。


(……この人、明らかにレベルが違うな。多分、間違いない。隊長ってやつかも?)


 草薙が周囲に自然と発している霊力による巨大な圧。加えて、戦士としての強い闘争心が波のように押し寄せて来る。それを感じた怜士は、すぐさま目の前の人間が隊長という立場にある、実力者だと理解した。


「始める前に、これだけは伝えておきましょうか」

「……伝える?」


 草薙が覇気を滾らせている時、近くにいた女性の退魔師が一歩、前に出た。彼女の装束も、他と異なっていることから、怜士は警戒する。


「既に和泉琴音さんから聞いていると思うけど、私達は魔討隊という組織の人間です。極めて強力な力を持つあなたの存在が私達にとっては未知であり、脅威であり、興味の対象でもある。あなたをどうにかするには、こちらも相応の戦力をぶつける必要ができたの。過去二度の戦闘の結果から、これは当然の措置ね」


 女性は、目の前にいる、件の仮面の男に向かって淡々と語る。彼の反応は特に気にしていない様子だ。


「強引な手段だということは分かっているけど、これも命令なの。私達の全力であなたを無力化して、捕縛します」

「いくつか訊きたい」

「答えられる範囲なら」


 これまで出会った魔討隊隊士に比べて理知的で落ち着いた雰囲気の女性を見た怜士は、少しばかりの問答ができるかもしれないと踏んだ。


「あの人は今、何処で何を?」

「別のポイントで妖魔と戦っている頃でしょう。討伐に協力してもらっています」


 女性の、「家の者が協力しているかどうかは、分かりませんが」という補足に怜士は苛立ちを覚えた。同時に、「早く応援に行く必要がある」と、強く感じた。


「崎城市のこの有様。ほとんどは妖魔とかいうのがやったのは分かるけど、それは仕組んだことだと思っても?」


 無機質な仮面から、冷たい視線を彼女に送る。琴音を含む和泉家の動向と妖魔の大量発生。そこに集結した魔討隊。これらの背景が、「街の破壊を意図して行ったのでは?」という疑念を怜士の頭に過らせる。


「信じてもらえるかは分からないけど、妖魔の出現は予想外の出来事。流石に放っては置けないから、急遽、作戦を一部変更しました。さっき、妖魔を祓ってくれたね? ありがとう」


 女性は、少しだけ口元を緩めた。


「長いんだよ、副隊長風情がぁ!」


 長い問答に痺れを切らせた草薙が女性に食って掛かる。我慢ができないらしい。


(え? 副隊長なの?)


 佇まいや話し方、放たれる霊力から、女性の退魔師を隊長だと思っていた怜士はきょとんとした。「代表として前に出て話をするなら、隊長ではないだろうか?」という疑問が彼の頭に浮かぶ。


「草薙隊長……。まだ途中です。少しだけ、待って下さい」


 ()()()()()()()()は、隊長である男性をギロリと睨み付けた。すると、いかにも血の気が盛んそうな男性はわざとらしい舌打ちをしただけで簡単に引き下がった。


「ごめんなさい。自己紹介が遅れましたね。魔討隊“烈風”が副隊長、早見です。民間人の避難は終わってる頃だと思うから、そろそろ始めましょうか。私のところの隊長みたく、待っていられない人、山のようにいるから」


 言い終えた女性が、勢いよく右手を前方に突き出す。それを合図に、周囲にいた魔討隊の隊士たちの霊力が大きく跳ね上がった。次の瞬間には、怜士を取り囲んだ隊士たちの霊術による攻撃が、一斉に発動し、炸裂した。




「早見副隊長は、ペラペラ喋ってっけど!?」

「余所は余所、ウチはウチです」

「チクショウ!!」


 意外にも早見副隊長が情報をいくらか開示したため、戸塚は殴られ損だと自隊の副隊長に抗議したが、それは聞き入れられなかった。


年内の投稿、間に合いませんでした。明けましておめでとうございます。


いつもご覧いただきありがとうございます!

新しくブックマークや評価をくださった皆さん、ありがとうございます。とても励みになります。


※2024/1/26 一部修正しました。

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― 新着の感想 ―
[良い点] いよいよ本格的な魔討隊との交戦の火蓋が切って落とされましたね!主人公はどう切り抜けるのかな? [一言] 今後の琴音先輩のように、魔討隊の女性隊士が主人公に惚れてしまう様な展開になってしまっ…
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