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第79話 「体調が悪いよりも余程良いと思いますけど?」と先輩は皮肉った

~前回までのあらすじ~

先輩、苦労する。

元勇者、手取り足取り、見本を見せる。

元聖女、わざとらしくコツを忘れる。

 怜士は、修行に一区切りついた琴音を、彼女の自宅近くまで送るべく準備を進めていた。そう言っても、幻影の外套を纏うだけで済むので、手間は大してかからない。


「本当にいいんですか? そんなところで」

「ええ、その方が悟られにくいと思う」


琴音からの提案で、彼女を送る場所は、琴音のアパートから少し離れたスーパーマーケットに決まった。アパートは監視されている可能性があり、そんな場所の近くに突然琴音が現れれば、要らぬ騒ぎが起こる可能性がある。魔討隊の人間が張り込んでいないと思われる場所として、スーパーマーケットが選ばれた。


「魔討隊よりも、一般人に見られるリスクはあるけど、そちらの方が気を張らなくて済むから都合が良いと思う」

「分かりました。じゃあ、行きましょうか」


 一瞬で幻影の外套を身に纏った怜士は琴音を抱きかかえると、すぐに家を飛び出した。




十分もしないうちに、怜士たちは目的地であるスーパーマーケットの屋上駐車場に到着した。


(先輩の読み通り、あまり混んでないな。これなら外套の効果を解いて先輩を降ろしても良さそうだ)


 怜士は入念に周囲の様子を窺うと、それほど多くの人間がいないことを確認した。最後まで気を抜かずに慎重にだ。そして、幻影の外套へ供給する魔力の流れを止めた。


「大丈夫です、先輩。人がほとんどいません」

「ありがとう、志藤君。人が少ないのは当然よ。そうした時間を狙ってここを選んだのだから」


 琴音はこのスーパーマーケットを頻繁に利用しているらしく、買い物客が増減する時間帯をよく知っている。十八時三十分を少し過ぎた今の時間が絶好の機会らしい。


 このスーパーマーケット『幸屋(さちや)』は、十五時からタイムサービスを始め、十八時前後には各分野の主力商品を売り切ってしまうという特徴がある。よって、十八時以降の来店では目当ての商品を手に入れることが難しくなるため、この時間帯の利用者はまばらになる。


「先輩。明日ですけど、どうしましょうか? 今日みたいに、俺が先輩の家の近くで隙を見て先輩を連れ去るってやり方でいいですか?」

「……連れ去るって、人聞きの悪い言い方ね。色々とお願いをする身で申し訳ないのだけれど、やっぱり、この方法はもう少しどうにかならないかしら? 追手や監視はほぼ確実に撒けるでしょうけど、状況に左右され易いもの。一般人の目も気にする必要があるのはなかなかに難儀よ?」

「う~ん、確かに」


 琴音が怜士と接触を図ろうにも、誰が何処で見ているのか分からない。魔討隊を含め、多くの人間に姿を消す場面を見られることは避けた方が無難だろう。


「志藤君。便利な道具を沢山持っているじゃない。何かいいモノは無いの?」


 ハッと思いついたような顔で琴音は怜士に問う。何でも収納できる腕輪、姿を消せる外套、霊力や魔力を遮断する装置など、常識外れな道具をポンポン出していた怜士だ。「きっと、一瞬で移動ができるような道具もあるに違いない」と琴音は考えたのだ。


「そんな便利な道具、あるわけないですよ。あったらとっくに使ってますね」


 普段は間の抜けている怜士ではあるが、それくらいのことは考えて行動する。一度、ストレージリングの中にあるアイテム全てを確認しており、移動に関して有用なモノが無いことが判っている。故に、怜士は姿を消した状態で、公道で彼女を連れ出す手段を取っているのだ。


「それもそうね……。ごめんなさい、貴方を日常生活支援向けの猫型機械人形と勘違いしたわ」

「何ですか、そのゴツい名称!?」

「どうにかして他の方法を探ることは本当に必要よ?」

「そうですね。う~ん……」


 しばらく考え込んだ怜士は、それまで纏っていた幻影の外套を脱ぐと、それを琴音に渡した。外套を渡された琴音はキョトンとしている。


「じゃあ、これを先輩に使ってもらうのが一番ですかね? 先輩の霊力でも使えると思うんで、一度、試してみて下さい」

「これは貴方が人助けの活動をするのに必要でしょう? いいの?」

「まあ、そうなんですけどね。今は先輩の安全が第一ですからね。俺の方は何とかします」


 ニコリと笑う怜士の表情に、琴音は本当に少しだけ頬を赤く染めた。自分でも分からないくらいに、本当に少しだけだ。


「そ、そう? それじゃあ、有難く借り受けるわ。私でも使えるか確かめないと……」


 柄にもなく慌てた様子の琴音は怜士から外套をとふんだくると、それをサッと身に纏った。




「上手く外套が使えて良かった。これで一安心ですね。俺は先に帰りますけど、一応、気を付けてくださいね」

「ええ、分かってるわ。明日も宜しくね」


 異世界産のアイテムを琴音でも使えることが判明したため、怜士の提案通りに琴音が幻影の外套を借りることになった。これによって、日常での外出におけるリスクが大きく軽減されただろう。


(帰る前に買い物でもしていこうかしら?)


 念には念を入れ、スーパーマーケットからは時間差で退店することに決めたため、後に残った琴音は買い物をして時間を潰した。






 食料品などを購入し、スーパーマーケットを出た琴音。アパートへ帰る道中、スマートフォンの着信音が鳴った。


「着信? 一体、誰から――」


 スマートフォンを懐から取り出し、その画面に表示されていた名前を確認した琴音は目を大きく見開き、息を呑んだ。


「お父様……!!」


 彼女のスマートフォンに示されていたのは『和泉壮弦(いずみそうげん)』という人物の名。紛れもない、琴音の父親にして和泉家の現当主だ。


 実質、絶縁状態になっている父親から着信が入ることなど皆無だ。回されている妖魔討伐任務についての連絡は和泉家預かりの退魔師が代理で行っているため、父娘が互いに連絡を取り合うことなどない。


(これまで連絡を取ってくることなんて一度も無かった。……不自然ね。いいえ、私が魔討隊と絡んだのだから当然か。きっと、圧力でも掛けられたのでしょうね)


 父親からの着信の背後に黒い影の存在を感じた琴音は、ゆっくりとスマートフォンを操作し、父親との通話に臨んだ。


「…………もしもし? 琴音です」

『琴音か? 久しいな。元気にしているか?』


 男性特有の低い声が琴音の耳に響いた。機械越しでも感じる父親の声に乗る強い圧。一瞬、怖気づいてしまいそうになるが、何とかこらえた。


「ええ、お陰様で」

『そうか。それは何よりだが、少しばかり元気が過ぎるようだな、琴音』

「あら? 体調が悪いよりも余程良いと思いますけど?」


 父娘の会話は、温かみのあるものでは無かった。互いに皮肉たっぷりの言葉を被せ合う。


「そんなことより、要件は何でしょうか?」

『ふん。まあいい。そうだな、本題に入ろう。琴音。一度、家に戻って来い。電話越しでなく、直接会って話をしたい』

「話? 一体何を?」


 琴音はわざとらしく、半音ほど高い声で言葉を返してやった。


『ふざけているのか? 理解していると思うが、お前の行動は全て筒抜けだ。魔討隊の隊士とつまらん小競り合いをしたことも、得体の知れない仮面の男のこともだ。和泉の家の者がこれ以上の勝手をすることは許されん。一度、皆の前で話をする必要があるのだ』

「……話、ですか」


 壮弦の言う、「皆の前で」という言葉。これが一族の者以外、魔討隊の人間も含んでいることは明白だった。和泉家の当主である父親が何らかの行動を取る可能性は頭の中に置いていた琴音だったが、それは予想よりも早くやって来た。


「こちらも準備がある。明日、すぐに来いとは言わん。一週間後の土曜の正午だ。家に戻って来い。そこで改めて話をしよう。また何かあれば、使いの者を通して連絡をする。いいな?」


 強い口調を終始崩さないまま、壮弦は一方的に通話を切った。その高圧的な態度に不快感を覚えながらも、「一週間」という期間が設けられたことが琴音の中で引っ掛かった。


(明日、すぐではないの? そんなに猶予を持たせる必要なんてあるかしら?)


 琴音は思考を巡らせ、考えられる可能性を全て当たった。厳しい父親が娘の行動を咎めるなら、すぐにでも呼び出すのが普通だ。それをせずに猶予期間を与える以上、裏があることは明らかだ。その裏の存在は、間違いなく魔討隊だ。


(……人を、集めている?)


 全国に散らばる魔討隊の隊士たち。これまで接触した隊士よりも高い能力を持つ実力者を招集し、前回同様、怜士と戦わせるとしたら……。そんな考えがよぎった琴音は、ギリリと歯を食いしばった。


お久しぶりです。

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