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第66話 「こういう時だけは息ピッタリだから嫌い……」と隊士は不満を漏らした

~前回までのあらすじ~

魔討隊隊士、先輩をいたぶる。

先輩、最期を覚悟。

元勇者、間一髪間に合う。

 現れた仮面の男が苦も無く、沖田の放った技を打ち消したことで、諏訪野や三島の表情が大きく変化した。


(沖田の技をこうもあっさりと……。報告以上だ、奴は只者ではない)

(和泉の子より、遊び甲斐がありそう。まあ、ハードモードにはなりそうだけどね)


 沖田の実力を知る二人は、彼の技が通用しなかったことで銀の仮面の男の戦闘力を認識することができた。いずれも、非常に強い危機感を抱いた。


「……一応、戦う前に訊いておく。そっちの目的は俺ってことでいいのか?」


 仮面の男が静かに訊ねた。


 顔を覆う仮面によって、男の表情はまるで分らないが、その視線は諏訪野に向いているように見える。諏訪野自身も、自分が話し掛けられているという意識を持ったようでそれ答えた。


「ああ、そうだ。先日、猛火の連中が偶然接触した正体不明の人物の調査が我々の任務だ。その人物は君で間違いないと思うが、どうだろうか?」

「ああ、間違いない」

(……嘘を言っているわけではなさそうだ。この声と話し方……子どもか?)


 諏訪野の質問に仮面の男が肯定の意を示した。諏訪野は男が嘘を述べていないことを感じたが、同時に、仮面の男の正体が“子ども”ではないかという疑念も抱いた。


「君が戦った戸塚という男の報告と観測された霊力と思しき力の反応から、君が我々の管理下にある人間でないことは明らかだった。我々としても得体の知れない人間を放置するわけにはいかないのでな。魔討隊の隊士を簡単に退けるほどの力を持つのなら、尚更だ。君の正体と行動の目的を明らかにしたい。そして、君さえ良ければ我々魔討隊への協力を要請したい。これは上の考えだ。その力を、妖魔を祓うために貸して欲しいそうだ。だから、一度本部まで我々と一緒に来て欲しい」

「え? それは断る」


 即答だった。あっけらかんと答える仮面の男に、諏訪野たちは目を見開いた。


「その理由を訊いても?」

「話をしたいっていう割に、いきなり襲い掛かって来る連中は信用できない。で、俺がそっちの都合の良いように従わなかったら、力ずくでどうにかしようとするのが目に見えてる」


 仮面の男の「いきなり襲い掛かって来る連中は信用できない」という言葉を聞いて、沖田は歯軋りをした。自分の喧嘩っ早さが原因で信用を失ったことよりも、どうにも自分が馬鹿にされていると感じたらしい。


「ああ、それに……」

「それに?」


 仮面の男は――怜士は、持っていた槍の刃先をゆっくりと、挑発するように諏訪野に向けた。


「女の子を相手にここまでする下衆から持ち掛けられる話は、最初から聞くつもりはない!!」


 仮面の男は、怜士は、明確に意思を示した。「お前たちと行動を共にすることはない」と。そして、彼は琴音を傷付けた目の前の人間を許すことない。


(交渉決裂か。穏便に済ませたかったが仕方ない)


 伝わって来る怒気にピクリと眉を上げた諏訪野だが、沖田と三島が琴音に攻撃を始めた時点で交渉が失敗することも予測していた。そのため、目的を達するための方法は別のものへと切り替える。


「予定変更だ。沖田、三島。三人でやるぞ」


 諏訪野は沖田と三島に声を掛けた。目の前にいる男は、とてつもない力を秘めている。気を抜けばすぐにやられる。そんなことを感じ取ったからこそ、諏訪野は二人に共闘を持ちかけた。


「そうっすね。『命令しないでよ」って言いたいとこだけど、アイツは三人でやるしかないね」

「……命令ではなく、提案のつもりだがな」


 先程まで諏訪野の言葉など、耳も貸さなかった三島だが、すんなりと諏訪野の提案を受け入れた。弱者に対しては遊び半分に立ち回る悪癖を持つ三島だが、強者を前にしてお遊戯気分で戦うことなどは決してしない。これまでにない、真剣な眼差しで仮面の男を捉えている。


「んだよ、三島ぁ!! 俺一人でやる!! 邪魔すんなら、テメエもぶっ飛ばすぞ、アアン!?」


 三島は諏訪野の提案を呑んだが、沖田はそうではないようだ。彼だけは、怜士に自分の攻撃を二度も防がれたのだ。プライドが黙ってはいない。意固地になって、一人で対敵しようとする理由としては充分だ。


「いい加減にしろ、沖田!!」

「るせえ!!」

「馬鹿野郎がっ!!」


 金属同士がぶつかり、「ガキン!!」という大きな音が響いた。


 協調を見せない、見せようとしない沖田の態度に、怒りが限界を迎えた諏訪野が怒鳴り散らしたが、それが逆効果だったようで、沖田は味方であるはずの諏訪野に向かって攻撃を加えたのだ。


「グオオオォォ!!」

「ぐっ!? 落ち着け、沖田ぁ!!」


 諏訪野は何とか自身の武器である棍棒で沖田の槍による攻撃を防御したが、冷静さを失い、怒涛の連続攻撃を繰り出す沖田を制止しきるには至っていない。


(お? 仲間割れか? 今のうちに先輩を連れて逃げるか……)


 突如として始まった魔討隊の退魔師たちの仲間割れとも言える諍いに、肩透かしを喰らった。


「逃げますよ、ここから」

「ええ、その方がいいかもしれないわ」


 怜士の優先目的は琴音を救うことであり、退魔師たちを倒すことではない。傷付いた琴音の治療があるため、戦闘に無駄な時間を割くくらいなら、一刻も早くこの場から離脱をしたいというのが彼の本音だ。琴音も彼の意見に賛成らしい。


「じゃ、とっとと行きま――」


 琴音を連れて離脱しようとしていた怜士は何かを感じ取ったようで、ピタリと動きを止めた。


「どうしたの?」


 急に顔つきが変わり、動きも止めた怜士を琴音は不思議そうに見つめた。


「ちょっと下がってください」


 怜士はそう言って琴音を下がらせると、琴音が何か言葉を発する間も無く、「ガンッ!!」という、大きく鈍い金属音が響いた。


「不意打ちのつもりだったのにな。これを防ぐのかぁ。やるね、アンタ」


 暴れている沖田とそれを抑えようとする諏訪野を無視し、手の空いている三島が怜士に襲い掛かったのだ。怜士はこれを察知し、彼が振り下げた二対の短刀を槍の柄で受け止めた。


「まあ、簡単に逃がしてはくれないか。ところで、三人で来るんじゃないのか?」


 仲間割れの隙に逃げられれば御の字だと考えていた怜士だが、落胆する素振りを見せない。すぐに思考を戦闘に戻した。


「アンタ、強そうだからそれも仕方ないと思ったけどさ、沖田さんがあれじゃあね。悪いけど、まずは俺から相手してもらうよ!!」


 背後でいがみ合っている二人を一瞥した三島は一度、怜士から距離をとった。すると、次の瞬間には三島の身体の至る所から激しく光る電撃がほとばしり始めた。


「『瞬雷(しゅんらい)』!!」


 そうやって技の名前を唱えた三島の姿が、瞬きをする間も無く消えた。


(ありゃ? 消えた……)


 姿が消えるという、予想しなかった出来事に、怜士は一瞬だけ驚く。しかし、彼の異世界での多様な戦闘経験とそのずば抜けた身体能力、反射は、三島が次にどう動くのか既に教えていた。


「敵の目の前から一瞬で消えるタイプの技か。多分、撹乱しながら四方八方から攻撃を仕掛けて来るんだろうな」


 怜士がそう呟いたのと同時に、彼の周囲では、まるで雷が落ちているかのような轟音が絶えず響き渡り、地面はボコボコと陥没を繰り返し、空気は衝撃でビリビリと震える。後ろに控える琴音が傷付くことのないように、彼女を守るように怜士は腰を落とし、姿勢を低くした。


「うん、予想通りだし、見えてるよ」


 怜士は槍を持つ手に力を込め、身体を捻ると、それを左後ろ突き出した。


 ドオオン!! という激しく強烈な轟音が廃工場に響き渡った。流石に、この音を聞いては沖田も諏訪野も動きを止めざるを得ず、二人の目と耳は音の発信源を捉えようとする。


「うわああああっ!?」


 沖田と諏訪野は、叫び声を上げながら吹き飛ぶ三島の姿を確認した。


「……凄い。私には何も見えなかった」


 魔討隊の隊士が怜士の攻撃を受けて吹き飛ばされたという結果こそ理解できたが、その過程は全く捉えることができず、琴音はただ呆けることしかできなかった。


三島は強く身体を地面にぶつけたが、痛みに負けて寝転がっている場合ではないと気合を入れ、すぐに立ち上がった。


「いてて……、くそっ!! 何だよ、アイツ!! メチャクチャ強いじゃん!!」


 三島は相手の力が想像以上だったことに驚きを隠せない様子だった。悔しさのあまり、口に入れていたキャンディを、ガリっと噛み砕いた。そして、三島は己の武器に目をやった。


(そんなっ!? 嘘でしょ!? 俺の剣、もう使えねーじゃん!!)


 攻撃を受ける瞬間、三島は咄嗟に両手の短剣を組み構えて防御姿勢をとったため、仮面の男の槍が自分の身体を貫通することは回避できた。しかし、たったその一度の防御で自慢の愛刀が使い物にならなくなったのだ。動揺を表に出すことはなかったが、代わりに三島は冷や汗を流した。


「沖田、分かったろう? あいつは強い。一人でどうにかできる相手ではない」

「クッ……!!」


 沖田は三島の繰り出した「瞬雷」という技をよく知っている。霊術で爆発的に高めた身体能力を駆使して、雷の如く、目にも留まらぬ速さで四方八方から相手を攻撃する強力な技だ。自分ですら、受ければ反撃することは叶わず、防御に徹することしかできない。そんな三島の瞬雷が通用しなったということは、目の前にいる仮面の男の実力が非常に高いことの証明になる。単体で放つ自分の技も、仲間の技も効果は薄い。そんな認めたくない現実を漸く、沖田は受け入れた。


「あーっ!! 分かったよ、協力するよ、やりゃあいいんだろ!?」


 投げやりな態度で、渋々、沖田も協力して仮面の男と戦うことに同意した。


「よし。三人で連携して奴のペースを乱す。隙を見て、アレを一斉にぶち込むぞ」

「おい!! 命令すんなって言ったろ、諏訪野!!」


 協力することは渋々納得したが、諏訪野に意見されることだけは気に食わない沖田は怒鳴り散らした。


「まあまあ、沖田さん。……乱れた心で下手をうつと、やられるよ?」


 怜士に吹き飛ばされた場所から、いつの間にか二人の元へと戻っていた三島は、沖田を宥めるため、低い声でゆっくりと言葉を発した。これは、彼なりの忠告だ。


「くそっ!!」


 普段から今時の若者らしく軽い態度をとる三島が真剣に訴える以上、沖田も相手の戦闘力の高さを認めざるを得ない。悪態をつきながらも、沖田は諏訪野の案を承認した。


「足引っ張んなよ、諏訪野! 三島!」

「誰が!」

「あー、俺は武器が壊れてるんで、ちょっとは勘弁して下さい」


 漸く、与えられた任務を協力してこなすことにやる気を見せた退魔師の面々だが、三島だけはどうにも軽い。確かに、彼は一人だけ怜士によって自慢の愛刀を破壊されている。一人だけ攻め手に欠けるという不安もあるだろう。


「舐めてるのか、お前は!!」

「そうだ馬鹿! ふざけんなら帰れ、アアン!?」

「い、いや、ジョークなんだけどな」


 三島としてはいつもの心づもりで、冗談のつもりで言った言葉だった。しかし、諏訪野と沖田にそれは受け入れられなかったらしい。緊張感に欠けた発言は逆に二人を刺激してしまったらしく、強く怒られてしまった三島は小さく身体を揺らした。


「うう、……ごめんなさい」


 普段は先輩だろうが、年長者だろうが平然と見下して接する三島だが、この時ばかりは二人の醸し出す怒気に負け、素直に謝った。


「二人とも、こういう時だけは息ピッタリだから嫌い……」





更新が遅くなりました。すみません……。


いつもご覧いただきありがとうございます!

新しくブックマークや評価をくださった皆さん、ありがとうございます。とても励みになります。


※2022/4/2 部分的に修正をしました。

※2022/7/18 部分的に修正をしました。

※2022/7/29 部分的に修正をしました。

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