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第61話 「少しの間だけど、なかなか面白い時間を過ごせたわ」と先輩は立ち去った

~前回までのあらすじ~

元勇者、先輩から話を聴く。

元勇者、退魔師について知る。

元勇者、先輩が魔討隊の人間を毛嫌いしていることを知る。

「さあ、次は貴方の番ね。私達退魔師の持つ力とはまた異なる力。それが一体何なのか、教えてもらうわ」

「えっ? 俺、まだ訊きたいことが、訊き足りないことがあるんですけど……」


 怜士には訊き足りないことがある。これまでの琴音の言動から、琴音が魔討隊を毛嫌いしていることが理解できる。普段の琴音からはクールな印象を受けるが、彼女が魔討隊の話をする際、明らかに感情をむき出しにしている。そうなる理由というものを怜士は知りたいと思ったのだ。それを訊かずして先に進むことなど難しいのである。


「もう私の話は大方済んでいるもの。さっきからずっと、私が話してばかりじゃない。だから、次は志藤君が話す番よ」


 しかし、琴音は強引で、実にわざとらしい作り笑顔を見せながら怜士に手番を回した。


「ハア……。まあ、信じてもらえないような話で、話せば長くなりますけど……」


 これ以上、琴音に質問をしても取り合ってもらえないと考えた怜士は仕方なく、順を追って自分の異世界召喚とそこでの経験、与えられた力について語り出した。




「……へえ、そういうことだったのね。にわかには信じ難いけど、貴方の持つ力は実際にこの目で見ている。流石に信じるしかないわ」

「助かります」


 異世界召喚とそこからの帰還について打ち明けるのは、母親である真奈美、幼馴染の梨生奈に続き、琴音で三人目だ。三度目の説明ともなると慣れたもので、怜士は非常に効率的に話すことができる。ましてや、琴音は既に怜士の力の一端を目の当たりにしているのだ。加えて、退魔師として生きている琴音もどちらかというと怜士やシルヴィアのようなファンタジー寄りの人間だ。彼女の理解を得るのに、それほど時間は必要としなかった。


(異世界……というのがまだピンとこないけれど、成程、“魔力”と“魔法”か。志藤君から感じた、霊力とは違う不思議な気の正体。これなら納得できるわね)


 琴音も、怜士の話を聴いたことで、彼の持つ得体の知れない圧倒的な力の正体を理解することはできた。ただ、流行りの漫画やアニメなどに疎い琴音から、異世界召喚なるものについての理解はそれほど大きく得られていないらしい。


「さて、志藤君」


 怜士は退魔師を纏める組織である魔討隊について、琴音は怜士の力の由来について知ることができた。そんな折、時計を見れば昼休みは終わろうとしている。そこで琴音はこの場を区切り良く収めようと、胸の前で自分の手を合わせた。わざとらしく、「パン!」という音を立てて。


「何ですか、先輩?」

「いずれにしても、貴方のその極めて稀有で奇異な力。魔討隊の連中全員に知れ渡ったと思っていいわ」

「ええっ!? 全員に!?」


 怜士の中庭に響き渡った。幸い、二人の他に人気は無いようで、際立って目立つような様子ではない。


「当たり前よ。言ったでしょう? 魔討隊は退魔師を管理して纏め上げる組織だって。昨日の件は十中八九、情報共有されていると考えるべきね。間違いなく、貴方は目を付けられたと思う」


 良くも悪くも、魔討隊は一つの組織だ。退魔師たちの行動管理や形態は企業並みに成されている。所謂、“報連相”というものが当たり前に行われていると考えるのが普通だ。ましてや、怜士のようなイレギュラーな存在を認知したのだ。それが共有されないはずがない。


「あ~。そう、です……か……」


 琴音の「目を付けられた」という言葉に、遠い目をする怜士。目立たないように行動し、平和な日本での生活を二人の恋人と満喫する予定だったのが、大きく狂ったと感じたのだ。しかしながら、最近の怜士の銀仮面の男としての人助けに準ずる行動は、十分に目立っている。彼の理想とする平和な暮らしからは遠ざかりつつあることを自分で認識できていないのが、元勇者の抜けているところか。


「……まあ、幸いなことに、貴方が着けていた銀色の仮面。アレのおかげで貴方の顔は明らかになっていない。だから、少しは魔討隊の眼を掻い潜れるかもしれない」

「本当ですか!?」


 不幸中の幸いだ。琴音の言うように、仮面のおかげで怜士の素顔は魔討隊に見られていない。散々、周りの人間にダサいなどと揶揄されていた仮面だが、遂に正体を隠すという本懐を成し遂げた。これには怜士の顔に喜色が浮かぶ。


「でも、絶対なんて有り得ないことよ。それをより強固なものにしたいなら、この先は力を使わないことをお勧めするわ。貴方の使う魔法というのは、私達の霊術とほぼ同質のものみたいね。術の行使の際、少なからず霊力を……いえ、貴方の概念に沿うと魔力かしら? これを発することになる。そうすると、魔討隊の探査の網にかかる可能性が跳ね上がると思うわ。強力な力を使うのなら、尚更ね」


 琴音と一緒にいたということは、怜士が琴音の関係者であると誰でも想像できる。魔討隊の人間は琴音の住む地域一帯をマークし、周囲の人間を調べ上げるだろう。迂闊に怜士が強力な魔法でも使えば、すぐさま魔討隊の人間による調査が及ぶだろう。それを懸念しての提案だ。


「貴方が異世界から戻って来て以降、目立つ強力な魔法は使ったかしら?」

「強力な魔法……。う~ん、母に異世界召喚の話を信じてもらうために魔法を使いましたけど、魔力を絞った超初級魔法を見せたくらいです。まあ、他には最近よく水魔法と風魔法は使ってますね。水魔法は食器洗いや風呂掃除、風魔法は洗濯物を乾かすためにですけど……。あっ、火魔法も応用して、風呂の湯の追い焚きもしてます!」

「そ、そう……。他には?」


 琴音は、怜士の言葉に唖然としてしまった。間違いなく自分の力を上回り、魔討隊の隊士をも容易くあしらうほどの実力を持つ怜士が、その力を“家事”を行うために使っているのだから。猛烈な、力の無駄遣いだ。


「他は先輩と初めて会った時に使った回復魔法ですね。これは色々な場面で何度も使ってます。……うん。先輩の言う、目立つような魔法っていうのは、昨日の戦闘で使ったヤツくらいです」


 思い返すと、怜士は異世界からの帰還以降、頻繁に魔法を使っている。しかし、戦闘のために魔法を使ったのは昨日の一件が初めてだった。悪事を働く小悪党を懲らしめるくらいなら、わざわざ魔法を使わずとも、その驚異的な身体能力を発揮するだけで事足りたのだ。


「そう。感知されやすいような、大きな魔法は昨日が初めてなのね。運が良かったわ。それなら、今後、同じ程度の魔法を使わなければ済むもの」


 これには怜士も思うところがあるようだ。口を小さく開いたまま固まってしまった。


 怜士の勇者としての強大な力は望まずに得たものではあるが、それを授かったことで出会えた人間、救えた人間、守ることができた世界があるのは紛れもない事実だ。怜士のこの力は、日本に帰還してから何度も利用し、大いに役立ってきた。最早、彼にとって無くてはならない力なのだ。それを手放すわけでないにしろ、封印に近い扱いを強いられることは、怜士にとって心苦しいことこの上ない。


「……貴方の力は途轍もなく強い。その力を借りて妖魔たちを祓えれば、被害に遭う人間を少しでも多く、少しでも早く救うことができると思ったのだけど、私の考えが甘かったわ。まさか偶然に魔討隊の人間と遭遇するなんてね。いいえ、遅かれ早かれ、貴方の放つ強大で特殊な力の波動は感知されていたでしょう。今思えば、人を頼ろうとすること自体が間違っていたと思う。私の問題は私自身の手で解決するべきだったのよ。巻き込んでしまって、申し訳なかったわ」


 ある日出会った、不思議な力を持つ少年。彼の力を借りることができれば、琴音の妖魔の討伐は格段に効率よく進むことは間違いない。怜士を利用することに負い目は感じるものの、琴音が自身の目的を成し遂げるには必要なことと割り切るしかなかった。しかし、魔討隊に目を付けられてはそれも上手く保証はない。


「いやいや! 別に巻き込まれたなんて思っていません!! ホントに嫌だったら昨日だって先輩に付いて行ってないですって!」


 怜士は梨生奈やシルヴィアとの時間を大事にしたいため、琴音に連れ回されることは出来る限り断りたい。ただし、それは琴音が退魔師として平和のため、人のために活動をしていることを知らなかった場合だ。妖魔の存在を知り、自分でもそれらを滅し、祓うことができるのなら、怜士は自らの力を使うことにためらいなど無い。また、琴音に協力することを惜しむ気も無い。


「だから俺は、別に妖魔と戦うことだって平気ですし、昨日みたいなガラの悪い退魔師だってぶっ飛ばしますよ!」


 怜士は琴音の言葉に引かず、寧ろ自らも率先して戦うという心構えを見せるように、自分の胸の前で、右手で握り拳を作って見せた。しかし、琴音は目を細めながら怜士を諭すようにして彼の握り拳をその白く綺麗な手で下げさせた。


「優しいのね、貴方。いえ、お人好しとでも言うべきかしら? でも、本当にもう、止めた方が身のためよ。平穏無事に暮らしたいなら、妖魔を含め、退魔師と関わらない方が良い」


 琴音の真剣な眼差しと、手から伝わる彼女の体温や緊張を受け、怜士はそれ以上何も言うことができなかった。琴音の手を振り払うことなど簡単だ。しかし、怜士にはそれができなかった。


「分かってくれた? じゃあ、私は行くわね。少しの間だけど、なかなか面白い時間を過ごせたわ。ありがとう、志藤君」


 琴音の表情はいつも通りに戻っていた。冷静沈着で常に余裕を持ち、学校内の有名なトップクラスの美女。和泉琴音のいつもの表情だ。琴音は怜士からその手をすっと離すと、そのまま振り返り、歩き出した。


「そうそう。これからはお昼休みに貴方の教室に行かないようにするわ」


 思い出したように琴音は怜士に告げた。しかし、彼女は怜士の顔など見ていない。歩みを止めず、そのままスタスタと校舎へと戻って行った。


「……何だよ、随分と勝手だなぁ」


 立ち尽くしたまま、琴音の後姿を見つめていた怜士は溜息を吐くと、左手で頭をわしゃわしゃと掻いた。


「先輩が一人で戦う理由も、他の退魔師連中を毛嫌いしてる理由だって判んないままだし、消化不良もいいとこだ」


 納得がいかず、モヤモヤとした気持ちだけが残った怜士は暫く、しかめ面のままだった。


二か月ぶりの更新です。遅くなりました。頑張って年内にもう一話くらい投稿したいです!!


いつもご覧いただきありがとうございます!

新しくブックマークや評価をくださった皆さん、ありがとうございます。とても励みになります。

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