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第58話 「何考えてんだ、外道!!」と元勇者は反撃に出た

~前回までのあらすじ~

謎の退魔師、元勇者に襲い掛かる。

元勇者、仕方なく応戦。

謎の退魔師、元勇者から軽く拒否られる。

「ハアッ……!! しゃあっ!!」

「おおっと!?」


 戸塚が気合を込めると、彼の持つ刀は燃え滾る炎に包まれた。これが戸塚功矢の使う霊術らしく、剣撃の威力を大幅に上げる狙いが見られる。


 怜士は、得体の知れない術を伴う攻撃故に戸塚の攻撃を避けてしまった。空を切ったかと思われたその斬撃は周囲の木々や地面に炸裂し、瞬間、一気に炎が燃え広がった。


「なっ!?」

「お? 驚いたか? 俺の刀から放たれる炎は燃焼範囲が広くてな。掠っただけですぐに引火するぜ? 戦えば辺り一帯、すぐに火の海だ。躱したところで、追い込まれるのはお前自身だぜ!!」


 戸塚は遠慮なく刀を振るう。怜士が受け止めようが、避けようが、刀を振るう度に生まれる炎が二人のいる空間を燃やし尽くさんとする。


「止めろって!! 『村雨(むらさめ)』!!」


 怜士はその左手に魔力を込めると、天に向かって突き上げた。すると、上空から何本もの水流が降り立ち、散水車の放水の如く、みるみるうちに燃え盛っていた炎を消火した。


(あ、危なかった……。あわや山火事、大惨事だよ。全国ニュースになっちゃう……!!)


 火災は初期消火が大事だということを怜士は痛感した。暢気にも程があるが、彼ならば仕方がない。


「……ふうん、やるじゃん。戸塚の炎を一瞬で消すなんて」


 怜士が暢気に安堵している中、灰色の髪の男は、怜士があっという間に炎を消火して見せたことに感嘆の声を上げた。


「へえ、水系統の使い手か!! 面白れぇな!! だが、相性なんてモン、ひっくり返してやらあ!!」


 一方の戸塚は、自分の出した炎がいとも簡単に消されても意に介さない。寧ろ、簡単に対処して見せた怜士に対する興味が一層強まったようで、構わずに攻撃を繰り返す。


(こいつ、本当にお構いなしか!? 流石にこれ以上長引かせると、カバーできないぞ。森林破壊、待ったなしだ!!)


 周囲の自然が炎によって焼かれそうになる度に、怜士は水魔法を使って消火に徹した。しかし、戸塚の攻撃の勢いは止まらない。戸塚が炎を振り撒き、怜士が消す。この応酬は、最早いたちごっこの域に達している。


「いい加減、本気で来いよ! 煮え切らねえんなら、本気を出し易くしてやろうか?」

「本気? 何を言って……?」


 いつまでも防御に徹し続ける怜士に嫌気が差したのか、戸塚は妖しく笑うと、その刀の切先を怜士以外の者に向けた。


「!!」


 自分が標的になったことに気付いた琴音は、反射的に身を動かし、回避行動に移ろうとした。しかし、戸塚の突進の方が僅かに速い。


「う~、ラアッ!!」


 脅しでも何でもなく、紛れもない本気で琴音を狙ったその刃は、彼女の首筋までほんの数ミリという所まで迫ったが、それ以上動くことはなかった。


「そんな!? 戸塚!!」

「オイオイ、嘘だろぉ!? 和泉の娘さんを庇って割り込むことは予想してたけどよ! ちっとも動かねえぞ!!」


 灰色の髪の男も、戸塚も、信じられないものを見たとばかりに目を見開いている。いや、最も驚いているのは琴音かもしれない。何故なら、怜士が戸塚の刀をたったの指二本で掴み、止めて見せたのだから。


「……気が動転してた。まさか、いきなり斬りかかって来られるなんて思ってなかったからな」

「志藤、君……?」


 微動だにせず、掴んだ刀を離さない怜士はポツポツと語り出した。


 怜士に救われた琴音は、彼の雰囲気がそれまでの緩いものから氷のように冷たく鋭いものへと変わったことに驚きを隠せないでいた。


「おまけに霊術だか何だか知らないけど、バンバン燃やしまくるし、挙句の果てには女の子を狙って攻撃するとか――」


 戸塚は怜士の言葉など聞きもせず、掴まれている刀をどうにか振りほどこうと躍起になっている。


「何考えてんだ、外道!!」


 怜士は戸塚を威圧すると同時に、刀を掴んでいる指に力を入れ、その刀身を折って見せた。


「ウグッ!?」


 自慢の愛刀をパキっと折られたことに衝撃を受けたのも束の間、戸塚は腹部に鈍い痛みを感じた。


(い、痛えぇ!! 何だ!? 何が起きた!? あれ? 俺、空飛んでんのか?)


 冷静さを取り戻した戸塚だが、自分の置かれている状況に理解が追い付かない。さっきまで確かに地に足を着いていたのに、その感触が今はない。


「『村雨』」


 戸塚の耳に入ったのは、地上にいるダサい仮面を着けた男が術を唱える声だった。それは、自分が振り撒いた炎が木々を燃やそうとした際、それを鎮火すべく放たれていた術の名前に間違いはない。戸塚が何度か見た、水流を生み出す術。確かにそれに間違いはなかったが、一つだけ異なる点があった。


「何の冗談だ、おい……」


 水流の数、その勢い。全てが数分前に戸塚が見たものとは段違いで、彼はただただ驚くことしかできなかった。そして、戸塚が冷静さを取り戻す暇を与えることなく、怜士によって生み出された水流はすべて戸塚に襲い掛かった。空中に放り出されている今の戸塚が回避するなど、できるはずもない。


「うがあっ!! ぐぼぼばあっ!?」

「戸塚!! 大丈夫か!?」


 戸塚は四方八方から押し寄せた水流にあっという間に呑まれた。灰色の髪の男は心配になって大声を上げて戸塚を呼ぶが、そんな呼び声など、轟音を上げる水流によってすぐに掻き消される。


 嵐の海に巻き込まれた方がまだ温いと言えるほどの膨大な水量による怒涛の攻撃。戸塚は退魔師としての持てる霊力の全てを注ぎ込んで、この激しい水流の檻を抜け出そうとしたが、その効果はまるでない。もとより呼吸すらままならない状況だ。彼の抵抗も、すぐに終わりを迎え、その意識を手放すこととなった。


「…………」


 戸塚が意識を失ったことを確認した怜士は、村雨という術もとい、魔法を解除した。すると、上空で水流に弄ばれていた戸塚は支えを失って、そのまま地上へ落下した。勢いよく落下し、そのまま地面へ叩きつけられるかと思われた戸塚だが、彼は灰色の髪の男が間一髪で救出した。


(意識は無いけど、おおよそは無事か。大量の水を飲んでるかもしれない。早く連れ帰らなくちゃ!!)


 灰色の髪の男は、戸塚の容態を確認すると、すぐにこの場から離脱することを選択した。


「オイ! ダッサイ仮面の男!!」

「むっ……」


 灰色の髪の男から急に呼ばれた怜士は、少々気分を悪くしながらも反応した。


「よくもやってくれたね! どこのどいつだか知らないけど、お前のことは憶えた!! いいか? いつか見てろよ、借りは必ず返すからな!!」

(借りって、いきなり襲い掛かって来たのはそっちじゃあ……)


 自分の方に非があるような物言いに理不尽さを感じた怜士は、「納得がいかない」といった面持ちで二人を見つめた。


「……戸塚も名乗ったからね、僕も名乗っておくよ。魔討隊“猛火”所属、浅見新(あさみ あらた)だ。和泉琴音さん? 君とソイツの繋がりはよく分からないけど、いずれ痛い目を見ると思うんだね」


 浅見と名乗った灰色の髪の男は、気を失っている戸塚をその左肩に担ぎ直すと、姿勢を低くし、脚に力を込めるようにして霊力を集中させた。


「ま、待ちなさい!!」


 琴音がそう叫んだ時には、二人の姿はそこに無かった。残されたのは、琴音とダサい仮面の男こと怜士。ほんの少しの沈黙の後、琴音が口を開いた。


「……ごめんなさい。志藤君。妖魔の討伐を手伝ってもらうだけのつもりだったのに、こんなことになるなんて。貴方のことだから心配なんて必要無いと思うけど、怪我は大丈夫かしら?」

「ええ、俺は大丈夫です。問題ありません。先輩こそ、怪我はないですか?」


 頭を下げる琴音に恐縮しながら怜士は彼女を気遣った。戸塚の攻撃から守り切った自信はあったが、それでも確認することは重要だろう。


「貴方が、貴方が守ってくれたから平気よ。ありがとう……」


 琴音自身が言うのだから、怪我などなく、心配する必要もないのだろう。しかし、そうやって怜士に礼を言う彼女の顔は何かに遺恨を抱くようにも、何かを悲しむようにも見えた。怜士はそんな琴音を見て、ただ一度頷き、そのまま下を見ることだけしかできなかった。



まさかの連投です。(長くなったから分割しただけです。)


いつもご覧いただきありがとうございます!

新しくブックマークや評価をくださった皆さん、ありがとうございます。とても励みになります。


※2022/2/10 部分的に修正をしました。

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