第57話 「慎んで遠慮する!!」と元勇者は丁重に断った
~前回までのあらすじ~
元勇者、久々の戦闘。
元勇者、妖魔を知る!
元勇者、乱入者にキョトン。
「何だぁ? 妖魔どもの気を感じたと思って来てみりゃあ、もう終わってんのかよ。つまんねえな」
「そんなにぼやかないでよ。代わりに、面白そうな人達がいるね。特に、あのダッサイ仮面の奴」
唐突に現れた、神職の装束を纏う二人の男。一人は黒髪に、所々金色のメッシュを入れており、言葉遣いからも分かるように、いかにも粗暴で、言葉より先にも手が出そうなタイプの人間だ。もう一人は、顔の半分が隠れるくらいに灰色の髪を伸ばした優男で、その口元は薄ら笑いを浮かべており、人によっては不快感を抱くかもしれない。
「仮面……? おっ、何だアリャ? つまんねえもん着けてんなあ、アイツ」
「十中八九、正体を隠すためだと思うよ。ダサいけど」
日頃からボーっとしている怜士でも、彼らが退魔師であることは察しが付いた。しかし、怜士が横目に見た琴音の表情は冴えない。寧ろ、男達を見て嫌悪感を露にしているとも言える。一方で、退魔師の男達の琴音を見る眼も、腫れ物を見るような視線だ。
「あの人たちは?」
憶測ばかりで物事を考えても先へ進めないと感じた怜士は、手っ取り早く琴音に訊ねた。お気に入りの仮面を“つまらない”、“ダサい”と言われていることについては、無視するという選択をしたらしい。
「そうね、貴方の考え通り、退魔師で間違いないわ。ただし、二人の名前までは知らない。ただ……」
「ただ?」
「あの装束にあしらわれた徽章……。彼ら、『魔討隊』の人間よ」
「まとーたい? 何ですか? ソレって——」
怜士の知らない固有名詞が出てきた。退魔師の全貌を知っている訳ではない怜士に、新しい専門用語を引っ張り出すなど、混乱を招くだけだ。琴音に詳細を訊こうとした怜士だが、それは男たちによって遮られた。
「オイオイ! 何を勝手に喋ってんだ!? そこのヘンテコな仮面の奴が何モンかは知らねえが、おいそれと喋んなよ!!」
「同感だね。君たちの関係は知らないけど、いくら何でも軽率だよ? 和泉琴音さん?」
(あれ? あの二人は先輩のことを知ってるみたいだ。ますます分からん……)
灰色の髪の男は、琴音の名前をフルネームで呼んで見せた。琴音は相手を知らないらしいが、相手は琴音を知っている。一方的な関係性に、怜士は疑念を抱いた。
「私が彼に何を話そうが貴方達には関係ないわ。私の自由でしょう?」
当の琴音は二人を睨み付けていた。彼女の瞳には「早くここから立ち去れ」というメッセージが込められているようにも感じられる。
「ウザイ……」
「ほっとけよ、新。それよりも、だ」
ニヤリと不敵な笑みを浮かべたメッシュの男が腰に差した刀に手を置き、勢いよく引き抜くと、一瞬で怜士の正面まで詰め寄り、斬りかかった。
「何だ!? いきなり!!」
それは瞬きする間もない、ほんの一瞬の出来事であった。しかし、怜士には男の動きがしっかりと見えていたので、難なくその攻撃を持っていた槍で受け止めて見せた。
「……やるじゃねえか!! 妖魔どもを狩れなかったからなあ、代わりに相手してくれよ。うずうずしてんだ、俺は!!」
メッシュの男は一瞬、仰天したが、すぐに笑みを浮かべ直した。
「なっ!? 待ちなさい!!」
「待つかよ! それとも、お前が相手してくれるのか、和泉の娘さんよぉ!」
琴音が止めに入ろうとするも、メッシュの男は聞く耳など持たず、刀を振り上げ、怜士に向けて勢いよく振り下ろした。先程のように、ただ迅さに任せて斬り込んだのとは全く異なる、威力を重視し、相手を確実に斬り殺さんとする一撃には清々しい殺意が込められていた。
「うっ!!」
怜士に向かって振り下ろされた刀から溢れ出た暴力的な圧に、琴音は思わずたじろいだ。メッシュの男はただ単純に刀を振るっただけではない。彼も曲がりなりにも退魔師だ。自身の霊力を刀身に纏わせ、インパクトの瞬間、一気に放出したのだ。その衝撃の余波が周りに与える影響は決して小さくない。
「こいつも受け止めるのか! ますます楽しくなってきたな!! さあ、もっと斬り合おうぜ!!」
琴音のことなど、まるで居ないかのように扱い、メッシュの男はさらにその激しい剣戟を怜士に浴びせ続けた。
「俺は別に、戦うなんて言ってない! そもそも、そんな必要は無いだろ!!」
「お前の意見は関係ねえっ!!」
数度の打ち合いの最中、怜士は何とか目の前の男に戦いを止めるように告げるが、やはり、それは無視される。
「あ~、このっ!!」
いい加減に、攻撃を受け続けることに耐えられなくなった怜士は、槍を持つ手に力を込め、相手の刀を思いきり振り払った。そして、間髪入れずにそのするどい蹴りをメッシュの男の胴へと叩き込んだ。男は苦悶の表情を浮かべながらそのまま後方へ吹き飛ばされ、大木へぶつかった。
「戸塚!」
これまで傍観していただけの灰色の髪の男も、流石に仲間が吹き飛ばされたことには動揺したらしく、大声で叫んだ。常に笑みを浮かべていたその口元を見るに、彼に余裕など無さそうだ。
「ハハッ! スゲエな! ただの蹴りでこの威力か。やっぱお前、タダモンじゃねえな。おい、新!! こいつは大当たりだ! 遠征帰りの寄り道も悪くなかったなあ!!」
メッシュの男はすぐに立ち上がると、首を左右に振り、ゴキゴキと音を鳴らした。メッシュの男、戸塚が健在であることに、新と呼ばれる灰色の髪の男も肩を降ろした。
「そう言えば、名乗ってなかったな。どうも面白そうな奴を見つけると先に身体が動くみたいでな。さあ、仕切り直しだ――」
メッシュの男はこれまでよりも確かに強い気を込め、大きな霊力を放出した。
「魔討隊“猛火”所属! 戸塚功矢!!!! さあ、第二ラウンドだ!!」
「慎んで遠慮する!!」
メッシュの男――戸塚功矢が刀を構え、名乗りを上げ、再び切り結ぼうとするが、怜士にその気はない。即座に一蹴した。
「知・る・か・よ!!」
まるで会話にならないということに怜士は驚愕し、同じく失意した。怜士は、戸塚の攻撃を捌きながら、異世界で出会った屈強かつ豪胆な戦士達のうち、数名のことを思い出した。
(……似てる。似てる、似てる、似てる! 間違いないぞ!! この人、戦闘中毒者だ!!)
戦闘中毒者に何を言っても無駄であることを怜士は経験則で知っている。勝敗が着くまでか、自分が満足するまで、或いは自分が死ぬまで戦いを止めず、周囲の声に耳を貸さない。異世界での冒険の最中、何度か出会ったことがある戦闘中毒者のしつこさに苦労させられた怜士。
「……どうするかな、これ」
溜息を漏らしながら、怜士は戸塚の次なる一手に身構えた。
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※2022/2/10 部分的に修正をしました。




