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第51話 「さあ、次はお前達の番だ!」と元勇者は見得を切った

~前回までのあらすじ~

元勇者、幼馴染との下校にウキウキ。

元勇者、暴走車と再会。

元勇者、プッツン。

(偶然というか、俺の不注意だけど、持ち込んじゃった異世界のアイテムがまさかこんな形で役立つとは思わなかった……)


 今、怜士は異世界召喚の折に入れた尋常ならざる身体能力を駆使し、憎き暴走車を追跡している。道路を超高速で走ることは勿論、まるで猿のように民家の屋根の上や電柱の上をピョンピョン跳び渡っている。普通なら注目を浴び、警察に通報されてもおかしくないが、そのような心配はない。怜士は、ストレージリングの中に収納されていたアイテム、『幻影の外套(ファントム・クローク)』を装備しているからだ。この幻影の外套は、魔力を通す限り、外套が周囲の景色に溶け込み、装備者の姿を完全に隠匿することが可能になる優れモノだ。それ故に怜士は、どれだけ突飛な行動をとっても、一般人に不審がられることは無い。


「いやあ、持ってて良かった! 幻影の外套!」


 通販番組の商品のキャッチコピーのような独り言を呟いていると、怜士の眼に目的もとい、標的となる一台の自動車の姿が映った。


「……さあ、見つけた! 追いついたぞ!」


 相変わらず、道路交通法を現在進行形で犯し続けるその自動車は、件のそれに間違いない。怜士の勘違いということは無さそうだ。

 しかしながら、怜士は苦慮していた。梨生奈が危険な目に遭ったことで頭に血が上り、思わず駆け出したのはいいが、どのような手段で暴走自動車を運転する人間を懲らしめるかまでは考えが及んでいなかったのだ。咄嗟に幻影の外套を纏って追跡を始めたのは良いが、この先は所謂、“ノープラン”という奴だ。


(さて、ここからどうするか……。思いっきり加速してあの車を蹴り抜く? いや、それじゃあ乗ってる奴は死ぬし、その余波で二次災害も起こる。却下。じゃあ、魔法であの車を囲んで拘束するか? いや、それも目立ち過ぎるし周りに迷惑が……。あれっ? 俺って、力押ししかできない!? 大っぴらに何もできないのか!?)


 色々と脳内で策を巡らせる怜士だが、考えつく手段の全ては力押しに帰結する。けが人や死人が出るか、周囲に災害級の被害を及ぼすことが約束されてしまう。ここは現代日本だ。異世界で許された手段など、通用するはずがない。怜士は自分が“元勇者”であり、“ただの高校生”でしかないということを否応なしに思い知らされてしまう。


(ぶっ飛ばすって、威勢のいい台詞を吐いたけど、実際は制限が多い。あ~!! どうしよう!? ……ん? あそこは……)


 気が付くと暴走車は堀崎川という河川が通る川縁までやって来た。この辺り一帯は、道路こそ綺麗に舗装されているが、通行人は少ない。暴走車は、少しずつ速度を落とし、やがて堀崎川の対岸を結ぶ陸橋付近で停止した。


(一応は、運がいいのか)


 停止した理由など、怜士には分からない。しかし、人目につきにくい場所に自ら向かってくれたことは、怜士にとって好機であった。




「いやあ、気持ちいいよな! スピード出して走んの!!」

「ああ、ホントにな。やっぱゲームと違って迫力がスゲエわ!!」


 ゲラゲラと下品な大声で笑いながら、くすんだ茶髪の男が運転席から降りた。それに続くように、ゲームに熱中する子どものように興奮しながら、坊主頭の男が助手席から降りた。二人とも、年齢は二十代前半程度に見受けられる。どうやら、暴走行為に満足し、休憩をとるために停車したようだ。二人は各々の手に缶ビールを持ち、一気に飲み干している。人通りの少ない堀崎川近辺なら、安心して休むことができるからだろう。


「憶えてっか? 今日の朝のババア。あのビビりまくった顔、思い出しただけで超ウケるんだけど!!」

「ああソレな!! あのババアに限らず、ビビッてく奴らの顔はマジで笑える!!」


 周囲に誰もいないものだと思い込み、二人の男は自らの行いで被害に遭った人々を思い出し、それを嘲るようにして笑う。

 それはまるでゲーム感覚で、自分達の行いがどれほどの迷惑を他人にかけ、傷付けたのか全く理解していない。見てくれこそ大人だが、その中身は小学生の子ども以下だ。自分勝手極まりない、外道そのものだった。


(ああ、同じだ。あいつらは、アイツらと同じだ)


 怜士は、この二人の言動や雰囲気に憶えがあった。異世界で散々対敵した山賊の類や悪徳貴族、魔族のそれと近しいものがあったのだ。何の信念も無く、自らの利益を得るため、自らの欲望を満たすために他人を顧みない、傲慢な存在。世界を異にしても、彼らが纏う負のオーラに違いなどはない。怜士は無意識に拳を強く握り締めていた。


(出て行くならそろそろか。じゃあ、念のためこれも……)


 幻影の外套に供給する魔力を弱めながら、怜士はストレージリングからあるモノを取り出した。




「おい、明日は何処を走る?」

「ん~、そろそろこの辺も飽きて来たな。警察だって、本腰入れて見回ってそうだし、ちょっと遠出すっか!」

「ああ、それがいい!」

「——楽しそうだな。俺も混ぜてもらおうか」


 アルコールが入ったおかげだろうか。元々高揚していた男達の気分はさらに高まっているようだ。馬鹿笑いを続ける二人は、背後から聞こえた声にギョッとしたが、その声の主を特定するため、すぐに後ろを振り向いた。


「あん?」

「何だ、オメエ……は……」


 二人が見たものは、漆黒の外套に全身を包み、金色の装飾を施された白銀の仮面を身に着けた人間だった。そう、その姿はまるで——


「何だ、何だ? 急に声掛けて来るから何かと思えばコスプレ野郎か!?」

「プフーッ!! 何コイツ!? 恥ずかしくねえのかよ!?」


——世を忍び、悪を懲らしめる正義のヒーロー……ではなく、ただのコスプレイヤーにしか見えなかった……。


 目に映った人間の出で立ちが予想の斜め上を行くものだったため、男達二人は大声を上げて驚愕した。坊主頭の男に至っては、驚きを可笑しさが上回ったのか、吹き出すようにして大笑いしている。突如として現れた人間が、特撮ヒーロー番組にでも登場しそうな仮面にマントを着けているのだ。公道でこのような恰好ができる者など、余程のマニアか酔狂者だけだろう。


「ねえねえ、どうしたの~? コスプレ会場はこんなトコにありましぇんよ~?」

「おい、教えてくれよ。どうしたらそんな超かっちょいい恰好でお外に出られるハートが身につくの~?」


 茶髪の男も坊主頭の男も、仮面の男を馬鹿にするように揶揄った。


「……黙りなよ。お前らだろ? 最近の自動車の暴走で世間を賑わせてるのは。いい加減迷惑なんだ。傷付いている人だって大勢いる。とっとと警察に出頭して、罪を償え。そして被害に遭った人達に詫びろ」

「あ? 変態コスプレ野郎が何を言ってやがる?」

「調子乗んなや、キモオタがぁ!!」


 仮面の男は、威圧的な態度で男達に物申した。当然、上から目線の言葉が気に食わず、彼らは仮面の男に向かって怒鳴り散らす。


(変態とかキモオタって……。これ、なかなか良いデザインだと思うんだけどなあ)


 風貌を貶され、やや傷心の仮面の男の正体は勿論、帰って来た元勇者こと志藤怜士だ。彼は男達の前に姿を現す前に、正体の露見を防ぐ目的でストレージリングに入っていた仮面を装備したのだ。近辺の人通りが少ないとはいえ、男達の他に何処で誰が見ているか分からない。写真や動画などを撮られれば、すぐにそれらはネットの海にばらまかれることとなるだろう。この変装は、どうしても自分の力を振るわなければならない時のための非常手段だ。

 因みに、この白銀の仮面は、異世界のとある街の露店で売られていたもので、怜士が「おっ、カッコイイ!」と一目惚れして買ったものだ。所謂、観光者向けの大量生産品であるため、何ら特別な効果は無い。ただただ、顔を隠すことができるだけの仮面だ。


「……人々に迷惑を掛けるお前たちに何を言われても、響くものなどない。もう一度言う。警察に出頭して、罪を償え」


 平静を装い、変わらず男達の悪事を糾弾することに努めている仮面の男・怜士だが、今の彼の心には大きなダメージが入っている。回復魔法のエキスパートであるシルヴィアでも回復は困難を極めそうだ。


「うるっせえええ!!」

「うざったいんだよ、クソ野郎があぁ!!」


 仮面の男・怜士の発言にいい加減、苛立ちを覚えた男達は拳を握り、それを振るった。男達からすれば目の前にいる男は中途半端な正義感を振りかざすだけの変態コスプレイヤーでしかない。パンチ数発で軽く可愛がればそれで終わりだと考えたのだ。だが、男達の拳は空を切り、すぐそこにいたはずの変態コスプレイヤーの姿は消えている。


「ああっ!?」

「なっ!? 何処へ!?」

「残念だったな」


 仮面の男の声がした方はやはり、男達の背後。一瞬にして仮面の男は二人からの攻撃を避け、背後へと移動したのだ、とても人間業ではない。状況を呑み込み始めた二人の男は、頭に上っていた血がサーッと引き始めたことを感じた。


「ふんっ!!」


 硬直する男達に目もくれず、怜士は止めてある自動車の前まで歩みを進めた。そして、車体の下部を右手で掴んで持ち上げると、まるでバスケットボールでも投げるかのように、そのまま自動車を宙へと放った。


「とあぁぁっ!! だあっ!!」


 一〇〇〇キログラムはあると思われる自動車を軽々と持ち上げ、それを投げて見せ、男達が呆気にとられた次の瞬間、怜士は跳び上がり、宙に浮く自動車に回し蹴りを放った。すると、自動車はそのまま水平方向に勢いよく吹き飛ばされ、バシャーンという大きな音と大量の水飛沫を上げながら堀崎川へ沈んでいった。


「は?」


 茶髪の男は信じられない光景に愕然とし、開いた口が塞がらないまま硬直している。坊主頭の男は、先程までの威勢など失せたかのように、へなへなと腰を地面へ落とした。


「……車の処理は終わった。さあ、次はお前達の番だ!」


 着地した仮面の男・怜士は振り向き様に男達へ言い放った。“お前たちの番”という言葉が何を意味しているのか分からない男達ではない。その意味を理解してから、二人の身体の震えは収まる気配を見せない。


 仮面越しにも分かる、怒りに満ちた鋭い眼光は、男達を決して逃さない。


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