第44話 「私、一体どうしたら!?」と幼馴染は冷静さを失った
~前回までのあらすじ~
元勇者、元聖女と幼馴染と結ばれてリア充になったよ。
定期試験を終えた最初の休日。
この日、梨生奈の部活動は午前中のみの活動であったため、それを終えるとすぐに彼女は怜士の家に向かった。
「じゃあ、約束通り聞かせてもらうね。このところの怜士の不審な言動、秘密を!」
「不審という表現は控えていただきたいっ!」
この日、怜士とシルヴィアは二年間に及ぶ異世界生活の詳細を打ち明けるために梨生奈を招いたのである。内容は別として、怜士の変化に薄々勘付いていた梨生奈だ。この話は聴いて然るべきだ。
「いや、実はさ、俺…………」
怜士は以前、自分の母親に話したように、一つずつ丁寧に、自分の身に何が起きたのかを梨生奈に語った。梨生奈は怜士の話を一語一句聞き逃すまいと極めて真剣に耳を傾けた。途中、怜士の話を補足するかのようにシルヴィアも言葉を発した。そして、ひとしきり話し終えた後、怜士は梨生奈を気遣って彼女の顔を覗き込んだ。
「梨生奈? 大丈夫か? 疲れてない? あまりにぶっ飛んだ話でなかなか受け入れるのは難しいと思うけど……」
「…………」
梨生奈は沈黙を続けている。無理もないことだ。にわかには信じ難い、荒唐無稽にも程がある話を聞かされては誰もが硬直するはずだ。
「梨生奈様、大丈夫ですか?」
たまらずシルヴィアも梨生奈に声を掛けたが、なおも梨生奈は反応しない。怜士がどうしたものかと悩んでいると、梨生奈が小さな声で何かを呟いているのが聞こえた。
「……んな、…さか。怜士が……なん、て……」
「ん?」
上手く聞き取れなかった怜士は首を少し傾け、彼女が何を言っているのかしっかりと聞き取ろうとした。
「そんな、まさか……。怜士が、怜士が高校生になっても現実と空想の区別もつかないイタイ人間だったなんて。こういうのって、確か、“厨二病”って言うんだっけ?」
「ハイィ!?」
梨生奈の言葉を理解した怜士は思わず声を上げてしまった。横にいたシルヴィアも驚いている。
「あの、梨生奈様。これは本当の話なのですが……」
「そうだ、そうだ! 別に俺は正常だぞ!! 決して厨二ではない、断じてない!!」
「ああ、シルヴィアさんまで巻き込んじゃって、何てことなの……。怜士、本当に一体どうしちゃったの?」
二人で一緒に異世界についての話がいかに真実であるかを語るも、梨生奈の耳には届いていないようだ。
「昔から怜士は漫画とかアニメが好きなのは知ってる。でも、流石に高校生にもなってそんな夢色まっしぐらな設定を作るなんて、イタ過ぎる! いくら恋人で幼馴染だからって、それを私にまで押し付けるのはやっぱり行き過ぎてるよ!? 最近は外国でも日本の漫画やアニメ文化は浸透してるってテレビでやってるのを見たけど、これに付き合わされるシルヴィアさんも可哀想……」
梨生奈は幼馴染故に怜士の趣味趣向は把握している。空想の物語の世界に入り込むことが悪いことだとは言わない。梨生奈だって、幼い頃は物語のお姫様や変身ヒロイン、魔女っ娘などになれたらなどと考えたことはある。しかし、怜士はそんな空想の与太話を真剣に自分に語って来るのだから、梨生奈は彼の頭の中身がイカれているのではないかと心の底から心配したのだった。
「設定じゃない! 本当のことなんだってば!!」
「ああ、なんてことなの……。ずっと好きだった怜士とやっと恋人同士になれて、これから二人だけでイチャイチャして、いっぱい色んな思い出を作って最高の高校生活を送ろうと思っていたのに、肝心の怜士が、怜士の頭がお花畑だったなんて。私、一体どうしたら!?」
「おーい、梨生奈。ちょっと止まって~」
「……梨生奈様。『二人だけでイチャイチャして』とは、どういうことでしょうか? 私達は、二人ともレイジ様の恋人のはず、ですよ……? 自分だけ抜け駆けをするおつもりでしょうか?」
「シルヴィアも今はストップ! 話がややこしくなるから!」
梨生奈の一言が刺激となって、シルヴィアも黙ってはいられなくなったようだ。その表情は一見すると、満面の笑みを浮かべているようだが、その目は決して笑っていない。何とも言えない威圧感が刺すように怜士を襲う。
(梨生奈って一度思い込むと何を言っても聞かないからなぁ。どうする? どうするよ俺? シルヴィアもピリピリしてるし、早く何とかして梨生奈に信じてもらわないと。……ええい、ままよっ!!)
意を決した怜士は、「こうなったら、私がずっと寄り添って怜士をまともな人間に戻して幸せに暮らすしかない!」などと言っている梨生奈を力強く抱きしめ、彼女の顔を自分の胸に押し付けるようにした。それはお互いの心音が聞こえるほどに近く、強く。
「あ、ひゃっ!? れれれ、怜士!?」
「レイジ様!!」
怜士の急な行動に、梨生奈は驚き、その思考を止めた。一方のシルヴィアは悲鳴にも近い声を上げた。シルヴィアの場合、驚きよりも羨ましさの方が勝っている。
「落ち着いて。梨生奈。確かに混乱させるような話だとは思うよ。でも、本当なんだ。梨生奈に嘘を言ったってしょうがないだろ?」
「うん……」
「もっと驚くかもしれないけど、よく見てくれ」
怜士は梨生奈を抱きしめる腕を離し、少しだけ彼女と距離を取った。そして、自分の胸元近くで掌を掲げると魔力を込め、淡い光の玉を発生させた。全てを証明するにはこれが一番早く、確実な方法だ。
「さあ、今回は光魔法だ」
先日、真奈美に説明するために出力を抑えた火系統の魔法を使用したが、控え過ぎた魔法を馬鹿にされたことは怜士の記憶に新しい。そこで今回は、低威力でもあり見映えが良い魔法を考えたのだ。
梨生奈は目を丸くし、口を開けたまま固まってしまった。彼女の反応はある種、当然の反応だった。以前、怜士は自分の母親である真奈美に同じく魔法を使って異世界の存在と召喚の事実を証明してみせたが、あの時の真奈美の順応が速すぎただけで、今回の梨生奈の反応こそが即ち普遍である。
「梨生奈? あの、梨生奈さん……? おーい、梨・生・奈さ~ん!! てか、聞こえてる? 俺の声……」
全く動かなくなってしまった梨生奈を心配した怜士は梨生奈の顔を覗き込みながら呼び掛け続けた。反応が全く見られないため、彼女の顔の前で手を振ったり、頬を軽くつねってみたりしたが一向に梨生奈が動く様子はない。
「あの、レイジ様。もしかして梨生奈様は……」
シルヴィアは梨生奈に起きた異変の原因について何となく察しが付いたようだ。それはまた怜士も同様だったようで、二人の推測は一致した。
「ああ。この娘、キャパオーバーで気絶してるっ!」
人間というものはどうも、自分の予想外の出来事に直面し、理解が許容範囲を超えると勝手に脳が活動を休止してしまうらしい。梨生奈も目の前で起きた“魔法の使用”という到底信じられない出来事によってその意識を閉ざしたのである。「刺激が強過ぎた。悪いことをしたかもしれない」と反省した怜士は梨生奈をそっと抱きかかえると彼女をソファーに横たわらせ、その頭を自分の膝の上に置いた。所謂“ひざまくら”の状態で休ませたのだ。流石に気絶したままの梨生奈をそのままにする訳にはいかない。
(いやはや、まさか気絶するなんて。いいや、普通はそうなるか。母さんが特殊なだけだ。目を覚ましたら、もう一度優しく説明し直すか……。いや、てか、梨生奈。可愛い)
怜士は自分の膝の上にある梨生奈の頭を優しく撫でながら、梨生奈が目覚めた後のことを考えていると、横から何やら呪文のようなものを呟くが聞こえた。
「ズルいですズルいですズルいですズルいですズルいですズルいですズルいですズルいですズルいですズルいですズルいですズルいです! 羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましいですぅ!! 先程はレイジ様に強く抱きしめられて今度はひざまくらですか。そうですか。いいですね、それは幼馴染の特権ですか? 私達二人がレイジ様の恋人となったその瞬間からその愛は平等にあるべきなんですよ? それはこの関係が成立した段階で決定した暗黙の了解でしょう? それを自分だけ見せつけるようにして……。ずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるい」
(ギャアアアァァァ!! シルヴィアさん、黒い、黒い、黒いよ!? そして怖い!!)
瞬きすらせずに、呪詛を呟いているシルヴィアに恐怖を感じた怜士はこの場を収めるべく、シルヴィアに語り掛けた。
「シルヴィア。あとで同じことをするか——」
「絶対ですよ、確約ですよ!!」
「はい、勿論でございます!」
怜士が言い切る前にシルヴィアがかぶせるように言い放った。彼女の目つきが大型の凶暴な魔物よりも鋭かったことを怜士は決して口外できない。
この後、目を覚ました梨生奈に再び順を追って異世界での出来事を説明し直し、何とか信じてもらうことに成功した。
近所ではありながらも、梨生奈を自宅まで安全に送り届け、帰宅した怜士はシルヴィアが満足するまで彼女にひざまくらをしたのだった。
「えへへ、とても心地良いです、レイジ様!」
(シルヴィアも可愛いな、ちくしょう!)
前回の投稿後、「登場人物の紹介は必要」とのアドバイスをいただきました。更新頻度が亀さん故に、「誰だっけ? この人?」となってしまうようです。早速取り入れたいと考えましたが、読んでくださる方々に相談です。
どこで登場人物紹介を掲載すればいいのか悩んでます……。
1.後書きの場所にチマチマ載せる。
2.一話分のスペースを取って投稿する。
登場人物紹介をしている他作品を参考にすると、この二択だと思います。読み手の方からすると、どちらがいいでしょうか?
ご意見を頂戴できると幸いです。勿論、他の案があれば、そちらもお聞かせ願いたいです!
※2022/1/13 部分的に修正をしました。




